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第一章 悠久老師──改め、悠久少女
第一話 天近き山
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鈴珠国の最北。雲より高く聳える大山がある。
天花山。
鈴珠国にも近隣諸国にも──いや、この大陸のどこにも天花山より高い山は存在しない。
その高さ、壮大さ、美しさから天に最も近き山とまで謂われている。
天花山には一つの伝承が存在した。
それは不老不死の仙人が住むという伝承だ。
悠久老師と呼ばれる仙人は天花山の山頂にかれこれ一万年近く住んでいるらしい。
そして、悠久老師はどんな病にも怪我にも、毒にも効く万能の薬を作れるそうだ。
その話に食いついたのは鈴珠国の皇帝陛下だった。
三日前、皇太子が病に臥せた。その事実はすぐに宮中に広がり、官吏、武官、女官などの多くの者が心配した。しかし、病というのは嘘だった。
皇太子が倒れたのは病ではなく、毒が原因だった。
何者かが皇太子の飲み物に毒を忍ばせ、それを飲んでしまったのだ。
この事実は箝口令が敷かれ、一部の者を除き伏せられた。
皇太子はそのまま眠りにつき、全く目覚めない。幸か不幸か、皇太子は今のところ命に別状なく、ただ眠っているだけだということだ。
しかし、原因不明の毒であるため、どうなるか分からない。
これを案じた皇帝陛下は悠久老師の秘薬の話を思い出し、一人の将軍に密命を与えた。
呼び出された将軍の名は龍蒼炎。史上最年少で将軍に登り詰めた腕の立つ青年だった。
「蒼炎、そなたに密命を与える。天花山の頂上に住むという悠久老師の下へ行き、万能薬を貰って来い。手段は問わん」
「はっ! この蒼炎、必ずや薬を持って帰りましょう」
蒼炎はその日のうちに支度を済ませ、馬に跨がり、帝都を出立した。
出立の前に友人が見送りにやって来た。
「よぉ、蒼炎。天花山に行くんだって? それも皇太子殿下の病を治す秘薬だってな。大役頑張れよ」
ぽんっと肩を叩かれた。
この友人はわざと病と強調して言った。それは暗に自分も皇太子殿下の事情を知っていると伝えているのだ。
「鼠について調べているのか?」
「うちの上司がね」
「進展は?」
「今のところない。ただ、やっぱり側妃が怪しいな」
「やはりそこか」
現皇帝に正妃はいない。五年前に病死して以降、皇帝は新しい正妃を迎えることはしなかった。しかし、後宮には妃が歴代の皇帝に比べれば少ないが、数人いる。
皇帝に子供は正妃との間にできた皇太子一人しかいない。彼女以外と子をつくるのをよしとしなかったのだ。それは、彼女が死んだ後も変わらなかった。
それでも、もし皇太子の身に何かあれば、新な皇太子が必要となる。側妃の中に邪魔な皇太子を亡き者にして、皇帝との子をつくり、やがてその子を皇帝に──などと非道な策を弄する妃もいるだろう。
「まぁ、お前が帰ってくるまでには尻尾を掴んでるさ」
「しくじるなよ。典翔」
蒼炎は友人に言った。典翔は笑って、
「そっちこそ。薬、ちゃんと手に入れろよ」
「ああ」
二人はそれ以上は何も言わず、蒼炎は出立した。
天花山のある花峰洲へ辿り着くには馬を走らせて丸三日かかった。蒼炎は到着するとすぐに花峰洲の官長に馬を預け、食料を調達し、山へと足を踏み入れた。
天花山は中腹までは比較的、緩やかな傾斜で道も舗装されており登りやすい。蒼炎にとっては年齢的にも体力的にも登山に苦は感じなかった。半日とかからず、中腹の休憩所に辿り着いた。その日は陽が暮れ始めたので休憩所にある山小屋に泊まり、休んだ。
翌日からが、苦境だった。
中腹を越えると、傾斜はいきなり急になる。
道も険しくなり、崖を登ることになる。
それでも蒼炎は登って、登って、登って──そして、二日後。とうとう頂上に辿り着いた。
天花山。
鈴珠国にも近隣諸国にも──いや、この大陸のどこにも天花山より高い山は存在しない。
その高さ、壮大さ、美しさから天に最も近き山とまで謂われている。
天花山には一つの伝承が存在した。
それは不老不死の仙人が住むという伝承だ。
悠久老師と呼ばれる仙人は天花山の山頂にかれこれ一万年近く住んでいるらしい。
そして、悠久老師はどんな病にも怪我にも、毒にも効く万能の薬を作れるそうだ。
その話に食いついたのは鈴珠国の皇帝陛下だった。
三日前、皇太子が病に臥せた。その事実はすぐに宮中に広がり、官吏、武官、女官などの多くの者が心配した。しかし、病というのは嘘だった。
皇太子が倒れたのは病ではなく、毒が原因だった。
何者かが皇太子の飲み物に毒を忍ばせ、それを飲んでしまったのだ。
この事実は箝口令が敷かれ、一部の者を除き伏せられた。
皇太子はそのまま眠りにつき、全く目覚めない。幸か不幸か、皇太子は今のところ命に別状なく、ただ眠っているだけだということだ。
しかし、原因不明の毒であるため、どうなるか分からない。
これを案じた皇帝陛下は悠久老師の秘薬の話を思い出し、一人の将軍に密命を与えた。
呼び出された将軍の名は龍蒼炎。史上最年少で将軍に登り詰めた腕の立つ青年だった。
「蒼炎、そなたに密命を与える。天花山の頂上に住むという悠久老師の下へ行き、万能薬を貰って来い。手段は問わん」
「はっ! この蒼炎、必ずや薬を持って帰りましょう」
蒼炎はその日のうちに支度を済ませ、馬に跨がり、帝都を出立した。
出立の前に友人が見送りにやって来た。
「よぉ、蒼炎。天花山に行くんだって? それも皇太子殿下の病を治す秘薬だってな。大役頑張れよ」
ぽんっと肩を叩かれた。
この友人はわざと病と強調して言った。それは暗に自分も皇太子殿下の事情を知っていると伝えているのだ。
「鼠について調べているのか?」
「うちの上司がね」
「進展は?」
「今のところない。ただ、やっぱり側妃が怪しいな」
「やはりそこか」
現皇帝に正妃はいない。五年前に病死して以降、皇帝は新しい正妃を迎えることはしなかった。しかし、後宮には妃が歴代の皇帝に比べれば少ないが、数人いる。
皇帝に子供は正妃との間にできた皇太子一人しかいない。彼女以外と子をつくるのをよしとしなかったのだ。それは、彼女が死んだ後も変わらなかった。
それでも、もし皇太子の身に何かあれば、新な皇太子が必要となる。側妃の中に邪魔な皇太子を亡き者にして、皇帝との子をつくり、やがてその子を皇帝に──などと非道な策を弄する妃もいるだろう。
「まぁ、お前が帰ってくるまでには尻尾を掴んでるさ」
「しくじるなよ。典翔」
蒼炎は友人に言った。典翔は笑って、
「そっちこそ。薬、ちゃんと手に入れろよ」
「ああ」
二人はそれ以上は何も言わず、蒼炎は出立した。
天花山のある花峰洲へ辿り着くには馬を走らせて丸三日かかった。蒼炎は到着するとすぐに花峰洲の官長に馬を預け、食料を調達し、山へと足を踏み入れた。
天花山は中腹までは比較的、緩やかな傾斜で道も舗装されており登りやすい。蒼炎にとっては年齢的にも体力的にも登山に苦は感じなかった。半日とかからず、中腹の休憩所に辿り着いた。その日は陽が暮れ始めたので休憩所にある山小屋に泊まり、休んだ。
翌日からが、苦境だった。
中腹を越えると、傾斜はいきなり急になる。
道も険しくなり、崖を登ることになる。
それでも蒼炎は登って、登って、登って──そして、二日後。とうとう頂上に辿り着いた。
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