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第一章 悠久老師──改め、悠久少女
第四話 幼竜
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「びぇえええ~! 竜胆~!」
「白翔、白翔。竜胆こっち」
「え?」
白翔と呼ばれた何かが涙目で自身を指差している竜胆を見た。それから首を傾げ、自分が今張りついている誰かを見る。
「これ、だぁれ?」
「──っ、まず離れろ!」
「わぁ!」
蒼炎は顔にへばりついた白翔をひっぺがし、その正体を見て目を点にした。
「──何だこれ」
蒼炎が今、手に持っているのは見たこともない生き物だった。手足と尻尾があり、姿は少し蜥蜴に類似している。しかし、大きさは成猫くらいあり、ころころと丸い。全身は白い鱗に覆われているが質感は柔らかく、顔は馬のように長い。頭には珊瑚のような乳白色の角が二本生えており、その間から背中にかけて金色の鬣がふさふさと生えていた。
爪は鷹のように鋭く、瞳は翠玉のよう。
それはころりとした可愛らしい姿だが、特徴を一つ一つ上げていくとある伝説上の生き物と符合した。
「……まさか、竜?」
「正解よ。白翔どうしたの?」
「ふぇ……竜胆……」
蒼炎の顔を見てきょとりとしていた白翔だったが、竜胆訊かれて思い出したのか。再び泣き出してしまった。
「家の中に、あれが……」
玄関から入ってすぐは土間になっており、色々な道具が脇に置かれいた。その奥の白翔が指差した場所には何もなく、蒼炎は一体何だと思ったが、竜胆は察したらしく、奥へ進みしゃがむと、何かを掴んだ。
最初は何かと思い、蒼炎は目をこらしたが、少しすると突然、虹彩を放つ蛇が姿を現した。
蒼炎が驚いているとうちに、竜胆はその蛇を家外へ放り出した。
「はい。これでいいでしょ? というか、白翔。貴方竜なんだから蛇を怖がってどうするの」
「うぅ、だって苦手なんだもん」
「蛇も竜も似たようなものでしょ」
「全然違う!」
白翔が怒って竜胆に噛みつくが、竜胆は気にせず沓を脱いで土間から上がった。蒼炎のそれに習ったが、その際に白翔がふよふよと浮遊しながら眼前を横切ったので、ぎょっとした。
二人と一匹は囲炉裏を囲んで座り、竜胆が囲炉裏に吊るしていたやかんを取ると、三つの湯呑みにお茶を注いだ。
「どうぞ」
「ああ、どうも」
蒼炎は湯呑みを受け取り、暫く観察してから口をつけた。花の香りがする少し渋味のあるお茶だった。
蒼炎は家内の気配を探ったが、どうやらここに住んでいる人間は竜胆だけのようだ。そもそも竜胆はさっき人と話すのは久しぶりだと言っていたから当たり前だった。
「さっきの蛇は……」
「ああ、隠蛇ね。ここにいる蛇よ。体の色を周りに合わせて変えられるの。まぁ、生き物には厳しい山だからね。環境に体を合わせなきゃ生き残れなかったんでしょう」
天花山は人が住むには過酷な条件の揃った山だ。何より険しく、広大で、中腹から先は樹海に足を踏み入れるのと変わらない。
蒼炎だって中腹からは目印をつけて登ってきたのだ。
「龍蒼炎だったかしら?」
「はい」
竜胆が穏やかな声で話す。
「改めまして、私は竜胆。悠久老師よ。この子は幼竜の白翔」
「幼竜……」
「まだ子供なの」
竜胆が白翔の頭を優しく撫でる。白翔は気持ち良さそうに目を細めた。
「まさか、実在したとはな」
蒼炎がぽつりと呟いた。
「ここは天に最も近い山。天上界に住まう竜がいても不思議はないでしょう」
確かに鈴珠国では竜は天からの使いである神獣として扱われている。そして、竜に纏わる伝承は天花山に集中しており、竜が降臨する山、竜臨山という別名もある。
そんな山なら竜が隠れすんでいても不思議ではないのだろう。蒼炎としては竜が実在するという事実に驚きだが。
蒼炎がお茶を飲み終え、ぽてっと仰向けに倒れて腹を見せながら転がっている白翔を見ていると、竜胆がくすくす笑い出した。
「どうしたんですか?」
「いえ、ね。龍に竜胆に幼竜。竜尽くしねぇ」
どうやら、蒼炎と竜胆の名に竜がある事と竜の白翔が一ヶ所にいる事が本人は面白いらしい。
「はぁ……あの、ところでそろそろ本題に──」
「ああ、そうだったわね。一体こんな処までくるなんて、どんなご用件かしら?」
蒼炎は居住まいを正し、竜胆の目を見て本題を切り出した。
「私は鈴珠国の武官です。皇帝陛下の命により、悠久老師のどんな病、毒、傷にも効くという秘薬を譲って頂きたく伺いました。どうか、秘薬をお譲り頂けないでしょうか」
深々と頭を下げる。とにかくまずは礼を尽くそうと考え、竜胆に頼み込む。
しかし、竜胆は蒼炎の望む答えを返さなかった。
「ごめんなさい。それは無理なの」
「白翔、白翔。竜胆こっち」
「え?」
白翔と呼ばれた何かが涙目で自身を指差している竜胆を見た。それから首を傾げ、自分が今張りついている誰かを見る。
「これ、だぁれ?」
「──っ、まず離れろ!」
「わぁ!」
蒼炎は顔にへばりついた白翔をひっぺがし、その正体を見て目を点にした。
「──何だこれ」
蒼炎が今、手に持っているのは見たこともない生き物だった。手足と尻尾があり、姿は少し蜥蜴に類似している。しかし、大きさは成猫くらいあり、ころころと丸い。全身は白い鱗に覆われているが質感は柔らかく、顔は馬のように長い。頭には珊瑚のような乳白色の角が二本生えており、その間から背中にかけて金色の鬣がふさふさと生えていた。
爪は鷹のように鋭く、瞳は翠玉のよう。
それはころりとした可愛らしい姿だが、特徴を一つ一つ上げていくとある伝説上の生き物と符合した。
「……まさか、竜?」
「正解よ。白翔どうしたの?」
「ふぇ……竜胆……」
蒼炎の顔を見てきょとりとしていた白翔だったが、竜胆訊かれて思い出したのか。再び泣き出してしまった。
「家の中に、あれが……」
玄関から入ってすぐは土間になっており、色々な道具が脇に置かれいた。その奥の白翔が指差した場所には何もなく、蒼炎は一体何だと思ったが、竜胆は察したらしく、奥へ進みしゃがむと、何かを掴んだ。
最初は何かと思い、蒼炎は目をこらしたが、少しすると突然、虹彩を放つ蛇が姿を現した。
蒼炎が驚いているとうちに、竜胆はその蛇を家外へ放り出した。
「はい。これでいいでしょ? というか、白翔。貴方竜なんだから蛇を怖がってどうするの」
「うぅ、だって苦手なんだもん」
「蛇も竜も似たようなものでしょ」
「全然違う!」
白翔が怒って竜胆に噛みつくが、竜胆は気にせず沓を脱いで土間から上がった。蒼炎のそれに習ったが、その際に白翔がふよふよと浮遊しながら眼前を横切ったので、ぎょっとした。
二人と一匹は囲炉裏を囲んで座り、竜胆が囲炉裏に吊るしていたやかんを取ると、三つの湯呑みにお茶を注いだ。
「どうぞ」
「ああ、どうも」
蒼炎は湯呑みを受け取り、暫く観察してから口をつけた。花の香りがする少し渋味のあるお茶だった。
蒼炎は家内の気配を探ったが、どうやらここに住んでいる人間は竜胆だけのようだ。そもそも竜胆はさっき人と話すのは久しぶりだと言っていたから当たり前だった。
「さっきの蛇は……」
「ああ、隠蛇ね。ここにいる蛇よ。体の色を周りに合わせて変えられるの。まぁ、生き物には厳しい山だからね。環境に体を合わせなきゃ生き残れなかったんでしょう」
天花山は人が住むには過酷な条件の揃った山だ。何より険しく、広大で、中腹から先は樹海に足を踏み入れるのと変わらない。
蒼炎だって中腹からは目印をつけて登ってきたのだ。
「龍蒼炎だったかしら?」
「はい」
竜胆が穏やかな声で話す。
「改めまして、私は竜胆。悠久老師よ。この子は幼竜の白翔」
「幼竜……」
「まだ子供なの」
竜胆が白翔の頭を優しく撫でる。白翔は気持ち良さそうに目を細めた。
「まさか、実在したとはな」
蒼炎がぽつりと呟いた。
「ここは天に最も近い山。天上界に住まう竜がいても不思議はないでしょう」
確かに鈴珠国では竜は天からの使いである神獣として扱われている。そして、竜に纏わる伝承は天花山に集中しており、竜が降臨する山、竜臨山という別名もある。
そんな山なら竜が隠れすんでいても不思議ではないのだろう。蒼炎としては竜が実在するという事実に驚きだが。
蒼炎がお茶を飲み終え、ぽてっと仰向けに倒れて腹を見せながら転がっている白翔を見ていると、竜胆がくすくす笑い出した。
「どうしたんですか?」
「いえ、ね。龍に竜胆に幼竜。竜尽くしねぇ」
どうやら、蒼炎と竜胆の名に竜がある事と竜の白翔が一ヶ所にいる事が本人は面白いらしい。
「はぁ……あの、ところでそろそろ本題に──」
「ああ、そうだったわね。一体こんな処までくるなんて、どんなご用件かしら?」
蒼炎は居住まいを正し、竜胆の目を見て本題を切り出した。
「私は鈴珠国の武官です。皇帝陛下の命により、悠久老師のどんな病、毒、傷にも効くという秘薬を譲って頂きたく伺いました。どうか、秘薬をお譲り頂けないでしょうか」
深々と頭を下げる。とにかくまずは礼を尽くそうと考え、竜胆に頼み込む。
しかし、竜胆は蒼炎の望む答えを返さなかった。
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