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第一章 悠久老師──改め、悠久少女
第十二話 作戦会議
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あの後、大いに拗ねた露明を李明と蒼炎が宥めつつ、白竜州へ向かう話し合いをした。襲撃の危険がある以上、道には気をつけるべきというのが、満場一致の意見だった。
「問題はこの吊り橋か」
卓上に広げられた鈴珠国の地図を指でなぞりながら蒼炎が難しそうな顔をして言った。
指差した場所は崖になっており、通行手段は一本の吊り橋しかない。
「挟み撃ちされたらおしまいですね」
「蒼炎が死んじゃうね」
「勝手に殺すな」
蒼炎は突っ込みを入れつつ、他のルートもなぞってみたが、どの道も余りにも遠回りになるか、危険のある道だった。
「この道筋なら吊り橋さえ攻略できりゃ行けるんだけどな」
「見張りをつける……というのはどうでしょうか」
部屋の端にちょこんと座り、三人の話を訊いていた李明が提案した。三人は振り返る。
「見張り?」
「ええ。先に誰かに橋を渡らせてその後にお二人が渡るんです。そうしたら両端に見張りがいて敵方も簡単に手出しをしようとは思わないのでは」
「見張りかぁ。なくはないが、相手は自爆も厭わない奴等だ。どんな無茶を仕掛けてくるか。そもそも誰が見張りをするんだ?」
「はい!」
蒼炎の問いに露明がぴんっと手を上げた。お手本のような直立の挙手だった。その顔はキラキラと輝いているが、露明の性格を大体把握した蒼炎は露骨に嫌そうな顔をする。李明は既に諦めているのか、表情は変わらない。
「聞きたくないが、言ってみろ」
「私が見張りをしましょう!」
「「却下」」
蒼炎と李明がハモる。
「いや、お前万が一に対処できるのか?」
「刺史が不在となったら、誰が今露明様の部屋の机に積まれた書簡を片付けるのですか」
「いいや! 行くったら行く!」
二人の説明に聞く耳を持たず、露明は部屋を飛び出して行った。
「露明様! 何処へ──って、速っ!」
李明が言い終わる前に露明は戻ってきた、旅に最適な軽装に、腰には一振りの刀を携えて。というか、速すぎる。人間技じゃない。
「さぁ、では今すぐに出立しましょう!」
「「は?」」
露明の唐突すぎる発言に、李明と蒼炎が間抜けな声を出した。竜胆は状況についていけてないのか、ぽやんとした表情で事の成り行きを見守っている。
「さぁ! 何をぐずぐずしているのですか! 早く支度をなさって下さい! 直ぐに此処を出ますよ」
「いや、行かないけど」
「何故!?」
「何故って……今日は下山したら一晩泊まるって予め言ってただろう。襲撃もあって思いの外、下山に体力を使う事になったし、何より色々と準備が必要になったからな」
「備えあれば憂いなし?」
「その通り」
竜胆が空になった湯呑みを李明に差し出しながら諺を言い、蒼炎が頷く。
「そういえば、そうでしたね。私とした事が急ぎすぎました。ならば今すぐに布団を敷きましょう。ええ、直ぐに。おおーい! 誰か! 客間の二部屋に布団を敷いてくれ。ああ、その前に湯を沸かしてくれ! それと夕餉の支度を。今日は白身魚の煮付けが食べたい!」
ちゃっかりと献立に注文をつけている。
蒼炎は本当に着いて来る気か? と李明に目で訊ねると、李明は首を横に振った。
「とりあえず、今日はもうお休み下さい。後の事は僕がしておきますから。露明様の説得も」
台詞の最後で面倒臭そうな顔をする。どうやら、露明の説得が李明の今夜の大仕事の様だった。
とりあえず休める事になった蒼炎はほっとし、隣で既に舟を漕いでいる竜胆の肩を揺すった。
「竜胆、大丈夫か? 明日も早いし、もう休むか?」
「へーき……おふろは、はいる」
竜胆が目を擦りながら言う。誰が見ても竜胆は今すぐに寝そうな程、瞼が下りてきており、この状態で風呂に入ったら湯船で寝て溺れるのではないかと蒼炎は思い、明朝にしたらどうかと言ったが竜胆はどうしても入ると言って聞かなかった。どうやら竜胆は綺麗好きの様だった。
「湯殿にご案内します」
「……ん」
竜胆が覚束無い足取りで侍女に着いていくのを見送った後、蒼炎は卓上の地図に再び目を落とした。
「吊り橋か……仕方ない。彼奴を頼るか」
蒼炎は立ち上がり、部屋を出て誰かを探していると、げっそりとした李明に出くわした。表情はあまり変わってないが、疲れているのがありありと伝わってくる。
「李明、大丈夫か?」
「はい。問題ありません。今のところは大人しく白身魚の煮付けを食べています」
誰が、とは訊くまでもなかった。
「ところでどうかしましたか?」
「ああ、そうだ。ちょっと頼みがあってだな」
蒼炎はこほんと咳払いをしてから話を切り出した。
「鷹を一羽貸してくれないか?」
「問題はこの吊り橋か」
卓上に広げられた鈴珠国の地図を指でなぞりながら蒼炎が難しそうな顔をして言った。
指差した場所は崖になっており、通行手段は一本の吊り橋しかない。
「挟み撃ちされたらおしまいですね」
「蒼炎が死んじゃうね」
「勝手に殺すな」
蒼炎は突っ込みを入れつつ、他のルートもなぞってみたが、どの道も余りにも遠回りになるか、危険のある道だった。
「この道筋なら吊り橋さえ攻略できりゃ行けるんだけどな」
「見張りをつける……というのはどうでしょうか」
部屋の端にちょこんと座り、三人の話を訊いていた李明が提案した。三人は振り返る。
「見張り?」
「ええ。先に誰かに橋を渡らせてその後にお二人が渡るんです。そうしたら両端に見張りがいて敵方も簡単に手出しをしようとは思わないのでは」
「見張りかぁ。なくはないが、相手は自爆も厭わない奴等だ。どんな無茶を仕掛けてくるか。そもそも誰が見張りをするんだ?」
「はい!」
蒼炎の問いに露明がぴんっと手を上げた。お手本のような直立の挙手だった。その顔はキラキラと輝いているが、露明の性格を大体把握した蒼炎は露骨に嫌そうな顔をする。李明は既に諦めているのか、表情は変わらない。
「聞きたくないが、言ってみろ」
「私が見張りをしましょう!」
「「却下」」
蒼炎と李明がハモる。
「いや、お前万が一に対処できるのか?」
「刺史が不在となったら、誰が今露明様の部屋の机に積まれた書簡を片付けるのですか」
「いいや! 行くったら行く!」
二人の説明に聞く耳を持たず、露明は部屋を飛び出して行った。
「露明様! 何処へ──って、速っ!」
李明が言い終わる前に露明は戻ってきた、旅に最適な軽装に、腰には一振りの刀を携えて。というか、速すぎる。人間技じゃない。
「さぁ、では今すぐに出立しましょう!」
「「は?」」
露明の唐突すぎる発言に、李明と蒼炎が間抜けな声を出した。竜胆は状況についていけてないのか、ぽやんとした表情で事の成り行きを見守っている。
「さぁ! 何をぐずぐずしているのですか! 早く支度をなさって下さい! 直ぐに此処を出ますよ」
「いや、行かないけど」
「何故!?」
「何故って……今日は下山したら一晩泊まるって予め言ってただろう。襲撃もあって思いの外、下山に体力を使う事になったし、何より色々と準備が必要になったからな」
「備えあれば憂いなし?」
「その通り」
竜胆が空になった湯呑みを李明に差し出しながら諺を言い、蒼炎が頷く。
「そういえば、そうでしたね。私とした事が急ぎすぎました。ならば今すぐに布団を敷きましょう。ええ、直ぐに。おおーい! 誰か! 客間の二部屋に布団を敷いてくれ。ああ、その前に湯を沸かしてくれ! それと夕餉の支度を。今日は白身魚の煮付けが食べたい!」
ちゃっかりと献立に注文をつけている。
蒼炎は本当に着いて来る気か? と李明に目で訊ねると、李明は首を横に振った。
「とりあえず、今日はもうお休み下さい。後の事は僕がしておきますから。露明様の説得も」
台詞の最後で面倒臭そうな顔をする。どうやら、露明の説得が李明の今夜の大仕事の様だった。
とりあえず休める事になった蒼炎はほっとし、隣で既に舟を漕いでいる竜胆の肩を揺すった。
「竜胆、大丈夫か? 明日も早いし、もう休むか?」
「へーき……おふろは、はいる」
竜胆が目を擦りながら言う。誰が見ても竜胆は今すぐに寝そうな程、瞼が下りてきており、この状態で風呂に入ったら湯船で寝て溺れるのではないかと蒼炎は思い、明朝にしたらどうかと言ったが竜胆はどうしても入ると言って聞かなかった。どうやら竜胆は綺麗好きの様だった。
「湯殿にご案内します」
「……ん」
竜胆が覚束無い足取りで侍女に着いていくのを見送った後、蒼炎は卓上の地図に再び目を落とした。
「吊り橋か……仕方ない。彼奴を頼るか」
蒼炎は立ち上がり、部屋を出て誰かを探していると、げっそりとした李明に出くわした。表情はあまり変わってないが、疲れているのがありありと伝わってくる。
「李明、大丈夫か?」
「はい。問題ありません。今のところは大人しく白身魚の煮付けを食べています」
誰が、とは訊くまでもなかった。
「ところでどうかしましたか?」
「ああ、そうだ。ちょっと頼みがあってだな」
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「鷹を一羽貸してくれないか?」
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