悠久少女と天花薬

夢草 蝶

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第一章 悠久老師──改め、悠久少女

第十一話 悠久老師の不死性

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 天花山の頂上に住む不老不死の悠久老師。
 鈴珠国の人間なら誰もが知っていて、見た事のない人物。
 今、蒼炎の目の前にいる竜胆が悠久老師。
 天花山の頂上にいたのだから、悠久老師とは竜胆で間違いないないだろう。ただ、蒼炎には一つの疑問があった。
 蒼炎達は今まで悠久老師が不老不死という前提・・・・・・・・・・・・・・で話をしてきたが、その事は確かめていなかった。悠久老師とはそういうものだからだ。
 竜胆は暫く蒼炎を見て、それから手を差し出した。

「小刀、返して」
「は? ああ、さっきの……」

 蒼炎は洞窟で竜胆から借りた小刀を自分の懐にしまっていた事を思い出し、取り出した。
 竜胆は小刀を受け取ると、袖を捲り、その白い肌に迷う事なく刃を滑らせた。
 音もなく、肌に赤い一線が引かれ、そこから血が流れる。竜胆は平然としているが、痛みはあるのだろう。眉間に皺が寄っている。

「おま……っ! 何を!?」
「竜胆殿!?」

 一部始終を見ていた二人は焦り、止血をしようとするが、切り傷はその前にすっと塞がった。竜胆は手巾で刃に付いた小刀を拭うと、それをそのまま懐にしまった。
 余りにも自然な動きに二人は一瞬、呆然とする。

「これでいいかしら? 私はどんな傷を負ってもこんな風に直ぐに治るわ。死んでもおかしくない傷でもね。流石に寿命の証明は出来ないけど、傷で死ぬ事はないって証明にはなった?」
「……っ、ああ。よく分かった。ただ、もうそんな事はするな」
「そんな事?」
「自分で自分を傷つける行為だ。治るからいいはんて事はない。死なないからって自分を蔑ろにしていい訳じゃない」

 竜胆が小さく握った手を口許に当て、きょとりとする。

「武人っぽくない言葉ね。でも……そうね。そうだった。自分は大事にしなきゃね。忘れてた」

 竜胆は少し自嘲気味に笑みを溢す。
 蒼炎は武人っぽくないという言に自己嫌悪を覚えたが、それを表には出さない。

「しかし、これで悠久老師の不死性は証明されました。襲撃者が不死を信じていたか否かを度外視すれば、目的は竜胆殿の殺害ではなさそうですね」
「殺しじゃないとすれば……拉致か?」
「それはあり得るわね。もしそうだとすれば……彼らは手段は選んでないわね」
「まぁ、あんな場所で爆薬を使うような奴らだしな。そういえば、竜胆。お前、洞窟に入る前に火は駄目って言ってなかったか?」

 蒼炎はふと思い出し、竜胆に訊いた。爆薬も火を使う。だから疑問に思った。

「言った。今日は運が良かったわ。あそこは時々、特殊な霧が発生するの」
「霧?」
「そう。その中で火が燃えれば、火粉でも大爆発が起こるそうよ。そうなれば、今頃蒼炎は木端微塵。だから本当に運がよかった」

 蒼炎はぞっとした。もしその霧とやらが発生していれば、誘爆で本当に死んでいたらしい。

「って、俺はって……」
「私は体が四散しても死なない。さすがに修復に時間がかかるけど」
「…………」
「成程。天花山をよく知る襲撃者達が霧を知らなかったとは思いにくいですね。しかも、竜胆殿が体がばらばらにされても死なないとなればその方が拐いやすい。洞窟で仕掛けてきた者達はいわば死兵……相当な覚悟のようだ」

 竜胆の滅茶苦茶な発言に絶句している蒼炎をおいて、露明は話を纏めていく。

「彼らの目的がどうであれ、今後も狙われる可能性は高いですね」

 暫し沈黙が部屋を包む。しかし、その沈黙は直ぐに破られた。お茶を汲みに行っていた李明が戻ってきたからだ。

「お待たせ致しました。すみません、遅くなって。来客用のお茶菓子がなくなっていて──何か心当たりはありますか? 露明様」

 李明が明らかに茶菓子泥棒と疑っている声音で露明に問いかける。露明はびくりっと体を強張らせた。

「……知らん」

 気まずそうにそっぽを向く露明。その仕草に竜胆も蒼炎も「あ、食べたんだ」と察した。
 李明はにこにこと笑っている。

「そうですか。ならば仕方ないですね。お二人ともすみません」
「いや、頭を下げる事じゃ」
「別に平気」
「代わりにこちらをどうぞ」

 そう言って李明が出した皿の上にあったのは。

「団子?」

 上から薄紅色、深緑、紅、白といった四色の串団子だった。二本あるそれは刺さっている団子一つ一つに花の形をした焼印が入っている。

「あぁああああ──────!!!」

 それを見て露明が絶叫する。

「な、何だ」
「李明! それは私が大事に取っておいた天花団子ではないか! 隠しておいたのにどうして──」
「露明様の考える事くらい分かります。というか見てましたから。露明様が団子を皿に乗せたまま被いもしないで天井裏に隠したの。全く、そんな事したらカチカチになる上に鼠が出るからその後、直ぐに僕が移動させたんです」

 かんかんに怒っている露明をあしらう李明。なかなかに癖のある主従だな、と蒼炎は思った。
 竜胆は団子が珍しいのか、穴が空きそうな程見つめている。

「天花団子?」
「はい。天花山から名前を頂いたお団子です。この近くの『花密屋』という甘味屋が数量限定で作ってまして、薄紅色は春、深緑は夏、紅は秋、白は冬と季節の天花山の色合いに見立てたお団子です」
「白は今日と同じ?」

 雪で覆われた天花山を差しているのだろうと竜胆が一番下の白団子を指差す。

「はい、そうですね。どうぞ、お召し上がり下さい」

 李明がにこりと微笑んで促す。竜胆と李明。なかなか微笑ましい組み合わせだった。……隣で露明が血涙でも流しそうな程悔しそうな顔をしていなかったら。
 しかし、竜胆はそんな露明を軽くスルーし、李明に促されるままぱくりと一口。

「……美味しい」

 竜胆は目を輝かせて二口、三口と食べ進めた。山の中にいたため、こういった菓子の甘味にあまり縁がなかったが、竜胆は元々甘味が好きだった。
 竜胆はあっという間に団子を食べ終え、一本の竹串だけが残った。

「美味しかった」
「それは良かったです」

 竜胆は名残惜しそうにもう一本の団子を見た。だが、それは蒼炎の分だと我慢している。その竜胆の分かりやすさに蒼炎は思わず吹き出し、残った団子の乗った皿を竜胆の前へとやった。

「ほら、食べたいんだろ?」
「いいの?」
「俺は甘い物嫌いじゃないが、好きって訳でもないからな」

 実際は甘いものを好む蒼炎だが、竜胆に団子を譲るために敢えてそう言った。
 竜胆はじっと団子を見て、暫く考えていたが、「……ありがと」と言い、団子を手にした。手に取った団子を自分の口に運ぶ前に一つだけ、一番上の薄紅の団子を串から抜いて、皿に残した。

「おいこれ」
「蒼炎の。美味しいから、やっぱり蒼炎も食べて」

 蒼炎は断る理由もなかったので、それを食べた。団子だった為、楊子等もなかったから指で摘まんで口に放った。
 咀嚼するとかなり弾力があり、自然な甘味がした。染色に何か果実を使っているのか、仄かな酸味も感じる。なかなかに好みの味わいだった。

「美味いな」
「そぉでしょお~ともね~。何せ、七日に一回十串しか売られないとても貴重な団子ですから」
「うわっ」

 露明の低い声に蒼炎は思わず団子を喉に詰まらせそうになった。何とか嚥下し、湯呑みに手を伸ばした。

「露明様。大人げない真似はやめて下さい」
「天花団子だぞ!? 前日から並んでないと手に入らない人気の! その余りの人気にこれ以上買い手を増やしたくない民が隠してるおかげで全く他所には知られてない、最強の団子だぞ!? あんなに苦労して、漸く手にいれたのに──」
「いや、並んだの僕ですから。露明様、寝ちゃうから徹夜なんて出来ないでしょう。買って帰った時も布団の上で大の字になって寝てましたし」
「子供か」

 呆れる李明の傍らで蒼炎が突っ込んだ。
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