【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

ほのぼの日常編1 再婚を祝う人々12(ダニエラ視点)

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「え、ディーンが来ているのですか?」

 お兄様と王宮に伺った次の日の午後、何とか熱も下がったので自分の部屋で刺繍をしながらゲームのエピソードを思い出していました。
 思い出した内容をメモ出来ればいいのですが、数日後にディーンと結婚する状況で、管理に困るものを作るわけには行きませんから頭の中に頑張ってメモしています。
 ゲームの内容を思い出す度に変な動悸を感じますが、ロニールート(裏ルートディーン)と課金追加のお兄様ルート以外にもウィンストン公爵家とネルツ侯爵家は出てくるのだと思い出して動悸どころでは無くなって来ていたところにディーンの訪れを教えられ、タイミングの良さに呆然としてしまいました。

「はい、今旦那様のお部屋にいらっしゃいます」
「お兄様のお部屋に? お約束されていたのかしら」
「旦那様からその様に伺っております。余計な事かと存じますが、お嬢様にお知らせに参りました」
「お兄様から言われて来たのではないの? それともお義姉様?」

 この子の名前は聞いた事がありませんが、確かお義姉様が実家から連れてきたメイドだったと思います。

「はい、奥様からご指示を賜りました」
「そう、お義姉様もご一緒されているの?」
「いいえ、旦那様のみでございます」

 お兄様がディーンと約束していたのなら、私に教えてくれないのは理由があるのかもしれませんが、お義姉様の気遣いを無にする方が問題になります。
 あの人は少しばかり面倒な人なのです。

「知らぬふりでお兄様のお部屋に行くことにするわ。お義姉様にはお礼を伝えてくれるかしら」
「畏まりました。お召し替えはどちらのドレスになさいますか」
「着替えはいいわ。これの片付けだけお願いね」

 来客用のドレスに着替えてしまったら、お兄様がお義姉様の気遣いに気が付いてしまうでしょう。
 今着ているドレスは結婚前に誂えた普段使い用のものですが、落ち着いた色合いのものですからまだ見苦しくは無いと思います。
 
「畏まりました」

 メイドに見送られ、一人でお兄様の部屋を目指します。
 王都の屋敷でも、ネルツ侯爵家とは違いウィンストン公爵家はとても広くお兄様の部屋は前世の私の感覚で言うと校舎の端から端に移動する様なものです。
 ウィンストン公爵家はお父様が成人した際に興した家ですが、この屋敷は陛下の私有地だったところをお父様の成人祝いに陛下の贈られたものだそうですが、王宮にかなり近い場所にこんな広い土地を何故陛下が何も使う予定無しに持っていたのか、考えたくはありません。
 何せここは本邸の他、複数の離れと使用人と私兵達の寮、小さな牧場と畑と果樹園まであるのです。
 勿論庭も広く、管理する庭師だけで十数人いる程です。

「ディーン、どうしたのかしら」

 知らせが来なければ、ディーンが来たことすら気が付かなかったでしょう。
 この屋敷に比べればだいぶこじんまりしていたネルツ侯爵家の屋敷なら、石畳に響く蹄の音で来客に気が付きますが、この屋敷の私の部屋から来客の気配を察するのは出来ません。

「何かあったのかしら」

 今日はゲームの事をずっと考えていたので、余計な心配をしてしまいます。
 まだ悪役令嬢になる娘すら生んでいないのですから、今から心配しても仕方がないのは分かっていても止められないのです。

「辺境伯家の息子、第一王子の息子、ロニーと大神官の息子と騎士団長の息子が表ルートで、裏ルートは前辺境伯、第一王子、ディーンとお兄様、平民の冒険者にウーゴ叔父様になる」

 裏ルートは殆どメリバですが、ウーゴ叔父様だけはハッピーエンドだったと思います。
 私と娘はウーゴ叔父様のルート以外は亡くなります。
 ロニー、ディーンルートでは大魔女郎蜘蛛に殺されますが、それ以外では断罪はされなくても他の悪役令嬢に巻き込まれる形で儚くなります。
 すっかり忘れていしましたが、どのルートでも私と娘は危ないのです、ナレ死だったので忘れていしました。
 忘れてはいけないのに、忘れていたんです!

「これがあっても駄目なのかしら」

 腕輪の守り石があっても、私は死んでしまうのでしょうか、それともゲームのダニエラはこれを持ってはいなかったのでしょうか。
 腕輪の守り石から感じるディーンの魔力、先日ディーンに守り石に魔力を注いでもらったお陰で強くそれを感じます。
 魔力には波長の様なものがあり、人によって異なる為敏感な者はその波長の違いを感じ取るらしいのですが、敏感な方とは言えない私でもディーンの魔力は分かります。
 なんて言えばいいのでしょうか、ディーンの魔力は温かいのにどこか寂しいのです。
 本人からはあまり感じませんが、守り石に残るディーンの魔力からは寂しさが伝わってきます。
 この寂しさを埋めてあげたい、そう思います。
 私のディーンへの感情は、まだ愛ではないのでしょう。
 破滅の未来を阻止したいから、それがディーンに嫁ぐ理由ではありません。
 愛して欲しいと私に願う、ディーンに絆されてしまったのが一つ、そして自分が側にいないとこの人は幸せになれないと気が付いたのがもう一つの理由です。
 でもこれはピーターとの結婚生活があったからこそ、なのかもしれません。
 前世の記憶も無く、未婚で守られて育った私のままだったらディーンの思いを受け入れようと考えたか分かりません。
 夫婦として成立していたのかいなかったのか分からない生活は、実は夫から害していい存在だと思われていた。
 そんな相手が亡くなって、結婚していた五年間はなんだったんだと悲観している時に、あんなに真っ直ぐに私を見てくれて、私の一言一言に一喜一憂し、愛して欲しいと願われたからこそ、私はディーンに絆されて私がディーンを幸せにしよう、ヤンデレも受け入れようと考えたのです。

「このままでいいのよね」

 でも、不安になります。
 私は娘と自分を守れるのでしょうか、ロニーとディーンのトラウマは何とか出来ても、その他はどうしたらいいのでしょうか。

「娘の婚約を阻止できればいいのかしら、でも私が決められることではないわ」

 私の娘を未来の王妃に、それはお父様の望みです。
 私が嫌だと言える話ではありません。
 
「我儘な娘に育てない、それくらいしか浮かばないわ」

 対策なんて今から出来るわけはありません、何せ学校に通うのは娘なのですし、私がその後ろをついて回るわけにはいかないのです。

「どうしたらいいのかしらね」

 悩みながら私は一人、長い廊下を歩き続けたのです。
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