【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

文字の大きさ
144 / 310
番外編

ほのぼの日常編2 くもさんはともだち54(蜘蛛視点)

しおりを挟む
「ダニエラ」

 不安の元である、双子を出産時に見た夢を主に話す事は出来ないのだろうか。
 蜘蛛はその提案を、ずっとダニエラに出来ずにいる。
 蜘蛛はあの時あの場にいたから、ダニエラから話を聞く事が出来た。
 あの時のダニエラはまだ夢を見たばかりで動揺があったから深く考える事が出来ず、自分以外の者に話すことが出来たのだと思う。
 冷静になってしまえば夢の中に出て来た娘が双子の一人として生まれ変わった等、他者に言えるものではないのだろう。
 夢の話、仮の話の様なものとはいえ、その娘は主の母親のやらかしの末に出来てしまった子だ。
 夢の中でその娘の母親だったダニエラは、葛藤はあっても娘を愛していた。だからこそ、心の底から愛せなかった自分を悔いていた。
 ダニエラは優しい、優し過ぎる人間だと思う。
 ダニエラに毒を盛る手伝いをしていたリチャードを罰する事なく、働くことすら難しくなったあの者を放り出すこともせず面倒を見ていることからも分かる。

『命を奪うなんて簡単なのよ、生きて償わせる方が罰になると思うの』

 それがリチャードを生かしておく理由だというのだから、蜘蛛からすればダニエラの考えは甘すぎるしお人よし過ぎると思うが、それがダニエラという人間だ。

「ダニエラ無理をするな。ブレガ侯爵と繋がりが出来るのが怖いのであれば、ロニーを養子に出さずにネルツ家に置く事だってできるのだから」

 養子に出す事を止めてしまえば将来、ロニーとマチルディーダが夫婦になる可能性は低くなるかもしれないが、あの二人が成長して互いを望むなら父上殿もニール様もマチルディーダが幸せになれる様に動いてくれるだろう。

「くぅちゃん、私はロニーの事を本当の息子の様に大切に思っているのよ。あの子が自分が幸せになる為に選んだ道を義母の私が邪魔したり出来ないわ」
「ダニエラは優し過ぎる」

 ロニーは悪い人間では無いが、蜘蛛にとっての優先順位はダニエラの方が遥かに上だ。
 口には出さないが、マチルディーダの相手はロニーでは無くてもいいんじゃないかと思ってもいる。
 ロニーの親は主を虐げていたピーターなのだから、ロニーに罪はないと分かっていてもどうしてもあの愚かな男の面影をロニーに見てしまうんだ。

「私は優しい人間なんかじゃないわ。優しいというならディーンやくぅちゃんの方が余程優しいと思うわ。私の気持ちを優先してくれるじゃない」

 ダニエラは勘違いをしている、蜘蛛と主は優しいのではない。
 蜘蛛は口に出さないだけだし、主はダニエラの幸せが自分の幸せだからダニエラの願いを叶えるのが最優先になっているだけだ。 

「くぅちゃん。大丈夫、私ちゃんと侯爵にロニーの事お願い出来るわ。冷静にちゃんとあの子の義母として」

 震える体を自分で抱きしめる様にしながら、ダニエラは弱々しい笑顔を浮かべ蜘蛛に宣言する。
 ダニエラはか弱い。
 蜘蛛が戯れにダニエラの首に前足を伸ばし力を加えただけで、ダニエラの命を簡単に終わらせられるだろう。
 弱いのだから、怖いと口に出して主と蜘蛛に守られていればいいのに、こうやって無理をしようとする。
 ダニエラが怖いと言うなら、蜘蛛は全力でダニエラと子供達を害する者を排除するというのに、ダニエラは自分で守ろうとする。

「大丈夫よ。私は夢の中のあの子の母親じゃなく、現実の四人の子供達の母親だもの。私の夫はディーンだもの。私は非力だけど子供達を守るわ。子供達が夢の中のあの子の年齢になっても、その先も幸せに生きられる様に守るわ、絶対に子供達もディーンも守ってみせる。それにブレガ侯爵は敵じゃないわ、敵はあの人じゃないの」
 
 ダニエラは震えながら、ブレガ侯爵を睨む様に見ている。
 蜘蛛は馬鹿だった。
 ダニエラにとってあの夢は、これから起こるかもしれない未来なのだ。
 夢と違い、子がすべて主の子でも、夫がブレガ侯爵ではなく主でも、第一王子にダニエラと子が害される。そんな未来が来る可能性は残っている。
 残っているどころか、あの男がダニエラに執着し続ける限り、その可能性は消えないんだ。

「ダニエラ、第一王子の命を縮めるか? ダニエラが望むなら蜘蛛がそうしてやる」
「……駄目よ」

 蜘蛛の提案にダニエラは驚いた様子ですぐに否定した。

「何故だ。不安要素を排除した方が今後の為だ。そうすれば安心出来るだろう」
「彼はまだ何もしていないのよ。私が安心したい、それだけの理由で人の命を奪ったり出来ないわ」

 その考えは正しいのかもしれないが、蜘蛛は魔物だから邪魔な存在は排除したい。

「それに私の不安を無くすために、くぅちゃんにそんな酷い事させたくないわ」

 ダニエラは優しい、蜘蛛何て魔物なのだから蜘蛛の気持ちなんて考えなくていいというのに。
 だが、何故だろう。
 蜘蛛はダニエラの気持ちが嬉しいんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

その瞳は囚われて

豆狸
恋愛
やめて。 あの子を見ないで、私を見て! そう叫びたいけれど、言えなかった。気づかなかった振りをすれば、ローレン様はこのまま私と結婚してくださるのだもの。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編の公開を始めました。 なるべくこまめに公開していきたいと思います。 あんまり長くならない予定ですので、どうぞよろしくお願いします!

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

処理中です...