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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑2(デルロイ視点)
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兄上の愛が重い。
慣れているとはいえ少々の疲れを感じながら馬車へと乗り込む。
私の従者レモ・ナポリターノは、いつもの様に慎ましく私の傍にいて、私が滞りなく動ける様に采配してくれる。
「レモ、私の制服は似合わないかな」
「第二王子殿下、とても良くお似合いです」
「そうか、兄上はお気に召していないようだったが、みっともなくは無いか」
気にしている素振りを見せながら、私はその実どうでも良いと考えている。
レモは私に忠誠を誓っている従者だけれど、兄上からの派遣だからそれを念頭に置いて使っている。
私の周囲に兄上が関わっていない者等いない。
兄上は、私が何か考える前にすべて先んじて用意してくれ様とする。
それは私への愛故だと理解している、でも、理解しているからこそ苦しかった。
「第二王子殿下、王太子殿下はみっともないとはお考えではないと愚考致します」
「……そうかな。私は兄上を不快に思わせてしまったのではないかな。私が兄上が使われた制服を着たい等、そんな考えを持ったせいで。兄上が用意して下さった礼服も無駄になってしまった」
後悔、そんな事何も思っていないというのに、従者と二人きりの馬車の中で私は後悔していると言わんばかりに落ち込んで俯いて見せる。
「そんなことはございません。簡素な制服も第二王子殿下がお召しになるだけで輝きを持っております。何の飾りも無いからこそ第二王子殿下の美しさを引き立てているのです」
「……レモ、でも兄上はこの制服では駄目だと仰せだったのだ。私は兄上の期待に応えられなかった」
兄上が私を飾り立てたい。
そう思っているのは分かっていても、煌びやかな服装が私は好きでは無いのだからせめて学校にいる間だけは何も飾りのない姿で自由にしていたかった。
兄上には分からないだろう。
私は自分の顔の造作などどうでもいいし、美しいと言われることも好きでは無い。
王家の血を引く者の中でも一、二を争う程の美を私の顔は持っているらしい。
結婚前美姫と名高かった母上そっくりの顔立ちだと言われている私は、父上似の兄上とはあまり似ていない。
兄弟だというのに、なぜか違う。
過去は兄妹、親子でも結婚していた程の近親婚を繰り返していた祖先、最低限いとこ程度は血を離すと決めている昨今の王族の結婚事情。
従兄妹と言えど血の濃さは考えなければいけない程だというが、今のところは血の濃さから起きる障害はない。
ただ、あるのは『大切だと思う者への執着』だった。
兄上は男女の思いとは違う意味で私に執着している。
それは兄から弟へ向ける愛情だと言えなくもない。だが、愛情を向けられている私にしてみれば兄からの愛は重すぎるものだ。
それは兄以外の目からみてもはっきりと分かるもので、両親は『ダヴィデはデルロイをこの上なくあいしているのだな』と笑っている。
だが、私にしてみればダヴィテ兄上の愛は重すぎて鬱陶しいのだ。
「第二王子殿下、王太子殿下はその様には思っていらっしゃらないと思います。きっともう少し第二王子殿下を飾り立てたかったのかと」
なんの慰めにもならない言葉をレモは口にして、自分の言葉が慰めになっていないと気が付いたのだろう俯いてしまった。
「レモ、兄上は私を呆れておいででは無かったかな」
「呆れる? そんな事ございませんっ。何故そのような」
「私が兄上をお慕いするあまり、……制服を使わせて欲しいなんて、こんな考えを持つ弟を鬱陶しいと思われていなかったかなと、不安なんだ」
そんな不安、本当は爪の先程も思ってはいない。
だが、兄上を慕う弟という分かりやすい絵を従者達に植え付けて置きたかっただけだ。
「……第二王子殿下、殿下はそれほどまでに王太子殿下を思っていらっしゃるのですね。……大丈夫でございます。王太子殿下は第二王子殿下のお気持ちを理解され、嬉しく思っていらっしゃいます。鬱陶しい等思われていらっしゃいませんよ」
「本当? 私は兄上に疎まれたら、とても悲しい」
猫、最大の猫を被りレモに問いかける。
兄上を慕う弟。それが私だ。
兄上を慕っていても、そこまでの気持ちは無いけれど。気持ち以上の認識を周囲に抱かせることで私は自分を守っている。
私を王になんて馬鹿な考えを持つ者がいるのを、私自身が一番の兄上の信者だと思わせる事で回避する。
それが私には何より大切だと思うから、一日中側にいる従者の前でも抜かりなく演技をするのだ。
「王太子殿下が疎まれることなど、天地がひっくり返ってもありえません」
「本当に? レモがそう言ってくれるなら安心出来る」
誰もが魅了されると言われている微笑みでレモを見つめると、私の従者は陶酔した顔で私を見つめる。
「第二王子殿下、ご安心ください。王太子殿下はいつも第二王子殿下を思っていらっしゃいます」
そんなの知っている、兄上は私を大切に思っていてくれる。
それが重くて鬱陶しいと感じながら、それが将来の私に必要だと思うから私は兄上にすり寄るのだ。
「ありがとう、レモ。お前がそう言ってくれるなら安心だ。大好きな兄上にずっと私を好いていて欲しいからね」
色々な感情を殺して、私はレモに微笑みかける。
学校で過ごす三年、その間だけは私は自由に過ごすんだ。
兄上のいない三年間、その時間だけは。
私はこれからの学生生活に思いを馳せながら、馬車に揺られていた。
慣れているとはいえ少々の疲れを感じながら馬車へと乗り込む。
私の従者レモ・ナポリターノは、いつもの様に慎ましく私の傍にいて、私が滞りなく動ける様に采配してくれる。
「レモ、私の制服は似合わないかな」
「第二王子殿下、とても良くお似合いです」
「そうか、兄上はお気に召していないようだったが、みっともなくは無いか」
気にしている素振りを見せながら、私はその実どうでも良いと考えている。
レモは私に忠誠を誓っている従者だけれど、兄上からの派遣だからそれを念頭に置いて使っている。
私の周囲に兄上が関わっていない者等いない。
兄上は、私が何か考える前にすべて先んじて用意してくれ様とする。
それは私への愛故だと理解している、でも、理解しているからこそ苦しかった。
「第二王子殿下、王太子殿下はみっともないとはお考えではないと愚考致します」
「……そうかな。私は兄上を不快に思わせてしまったのではないかな。私が兄上が使われた制服を着たい等、そんな考えを持ったせいで。兄上が用意して下さった礼服も無駄になってしまった」
後悔、そんな事何も思っていないというのに、従者と二人きりの馬車の中で私は後悔していると言わんばかりに落ち込んで俯いて見せる。
「そんなことはございません。簡素な制服も第二王子殿下がお召しになるだけで輝きを持っております。何の飾りも無いからこそ第二王子殿下の美しさを引き立てているのです」
「……レモ、でも兄上はこの制服では駄目だと仰せだったのだ。私は兄上の期待に応えられなかった」
兄上が私を飾り立てたい。
そう思っているのは分かっていても、煌びやかな服装が私は好きでは無いのだからせめて学校にいる間だけは何も飾りのない姿で自由にしていたかった。
兄上には分からないだろう。
私は自分の顔の造作などどうでもいいし、美しいと言われることも好きでは無い。
王家の血を引く者の中でも一、二を争う程の美を私の顔は持っているらしい。
結婚前美姫と名高かった母上そっくりの顔立ちだと言われている私は、父上似の兄上とはあまり似ていない。
兄弟だというのに、なぜか違う。
過去は兄妹、親子でも結婚していた程の近親婚を繰り返していた祖先、最低限いとこ程度は血を離すと決めている昨今の王族の結婚事情。
従兄妹と言えど血の濃さは考えなければいけない程だというが、今のところは血の濃さから起きる障害はない。
ただ、あるのは『大切だと思う者への執着』だった。
兄上は男女の思いとは違う意味で私に執着している。
それは兄から弟へ向ける愛情だと言えなくもない。だが、愛情を向けられている私にしてみれば兄からの愛は重すぎるものだ。
それは兄以外の目からみてもはっきりと分かるもので、両親は『ダヴィデはデルロイをこの上なくあいしているのだな』と笑っている。
だが、私にしてみればダヴィテ兄上の愛は重すぎて鬱陶しいのだ。
「第二王子殿下、王太子殿下はその様には思っていらっしゃらないと思います。きっともう少し第二王子殿下を飾り立てたかったのかと」
なんの慰めにもならない言葉をレモは口にして、自分の言葉が慰めになっていないと気が付いたのだろう俯いてしまった。
「レモ、兄上は私を呆れておいででは無かったかな」
「呆れる? そんな事ございませんっ。何故そのような」
「私が兄上をお慕いするあまり、……制服を使わせて欲しいなんて、こんな考えを持つ弟を鬱陶しいと思われていなかったかなと、不安なんだ」
そんな不安、本当は爪の先程も思ってはいない。
だが、兄上を慕う弟という分かりやすい絵を従者達に植え付けて置きたかっただけだ。
「……第二王子殿下、殿下はそれほどまでに王太子殿下を思っていらっしゃるのですね。……大丈夫でございます。王太子殿下は第二王子殿下のお気持ちを理解され、嬉しく思っていらっしゃいます。鬱陶しい等思われていらっしゃいませんよ」
「本当? 私は兄上に疎まれたら、とても悲しい」
猫、最大の猫を被りレモに問いかける。
兄上を慕う弟。それが私だ。
兄上を慕っていても、そこまでの気持ちは無いけれど。気持ち以上の認識を周囲に抱かせることで私は自分を守っている。
私を王になんて馬鹿な考えを持つ者がいるのを、私自身が一番の兄上の信者だと思わせる事で回避する。
それが私には何より大切だと思うから、一日中側にいる従者の前でも抜かりなく演技をするのだ。
「王太子殿下が疎まれることなど、天地がひっくり返ってもありえません」
「本当に? レモがそう言ってくれるなら安心出来る」
誰もが魅了されると言われている微笑みでレモを見つめると、私の従者は陶酔した顔で私を見つめる。
「第二王子殿下、ご安心ください。王太子殿下はいつも第二王子殿下を思っていらっしゃいます」
そんなの知っている、兄上は私を大切に思っていてくれる。
それが重くて鬱陶しいと感じながら、それが将来の私に必要だと思うから私は兄上にすり寄るのだ。
「ありがとう、レモ。お前がそう言ってくれるなら安心だ。大好きな兄上にずっと私を好いていて欲しいからね」
色々な感情を殺して、私はレモに微笑みかける。
学校で過ごす三年、その間だけは私は自由に過ごすんだ。
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