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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑67 (ボナクララ視点)
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「ボナクララ、私も一緒に行くよ」
夕食を頂いた後、私は侍女と共にエマニュエラの部屋に向かい歩いていたらお兄様に声を掛けられ足を止めた。
「お兄様も一緒に?」
「機嫌が悪いエマニュエラのところに行くのがお前だけでは、八つ当たりされに行くようなものだろ」
「それはそうですね。お兄様の気遣いはとても助かります。お父様に言われたものの、少し気が重かったですから」
にっこりと笑ってお兄様の申し出を受けながら、私は侍女に視線を向ける。
お父様に言われ、エマニュエラの好きな焼き菓子を銀盆に載せ運んでいた侍女はお兄様が同行すると知りホッとしている様だ。
「父上はエマニュエラの癇癪がどれ程酷いのかご存じないからな、だから気軽にお前に頼むんだ」
「そうですね、エマニュエラはお父様の前で癇癪を起こすことはさすがにありませんから」
エマニュエラは、お兄様の前ではあまり癇癪を起こさないし、お父様の前では我儘を言うだけだ。私やお母様がエマニュエラの酷い行いをお父様に訴えても、それがどの程度のものなのか理解してはいなかったのだろう。
「今までを見ていなかったから、今日御者を怒鳴りつけるエマニュエラを見て驚いたのだろうし、叱ったのだろうが、父上は少し呑気すぎるな」
お兄様と二人並んで歩きながら、呑気すぎるというお兄様の意見に同意し頷く。
双子の姉妹とはいえ、彼女と私の性格は似ているところが全く無い。甘くてはやっていけないとは思うけれど、エマニュエラは将来王妃となるというのに、自分勝手で残酷なあの性格で大丈夫なのかと不安になる。
「エマニュエラが王太子妃で本当にいいのか、私は不安以外の言葉が思いつかないよ」
「それは、私もです」
「公爵夫人程度なら何とかなるが、王太子妃、そして王妃ともなれば……」
将来を想像し思わず身震いすると、「お前が一番困ることになるのは想像がつく」とお兄様は追い討ちを掛けてくる。
「なにかに付けエマニュエラはお前と張り合っているからな、それはこれから先も続くだろう」
「立場はエマニュエラの方が上になります、下の者に張り合うのは愚かではありませんか?」
デルロイ様は、今も未来も兄である王太子殿下を支える立場だと公言しているし、結婚後は臣籍降下するとすでに決まっている。
「立場は上でも、女としてはどうだろうな」
「どういう意味でしょうか」
「夫から愛されているかどうか、結婚後の幸せは立場が上か下かではなく、互いに愛情を持っているかどうかだろう。政略で愛は無くてもそれなりに相手を思い合えるかどうか、そこは重要だと私は思うけれどね」
お兄様の婚約者はイトコで、幼い頃からとても仲が良い。私と殿下達もイトコの関係にある。他の国では考えられないそうだけれど、この国の王家の方々は殆どがイトコ同士で結婚していて、他の貴族家と縁を結ぶ事はあまりない。
国の重要な位置にある家は全て王家の血を受け継いでいると言っても過言ではないし、この血が結束を強めて来たとも言える。
「殆どの家が夫婦仲が良いのですから、貴族家では政略結婚が当たり前だということを、つい忘れそうになります」
「大きな声では言えないが、私もだ」
「お義姉様と仲睦まじいですものね」
くすくすと笑いながら言えば、「お前もだろ」と返される。こういう気安さが私とエマニュエラの間には全く無い。
お父様とエマニュエラの仲は良好、お兄様とエマニュエラの仲も、お母様ともそうだと思っていたけれど、先程の話を考えるとエマニュエラはお母様に対して思うところがあったようだ。
「お前と殿下のことは心配していないが、エマニュエラはなあ」
「心配ですか」
「王太子殿下はエマニュエラを好いていないし、エマニュエラは男は全員自分を好いていると勘違いしているだろ」
露骨な言い方に思わず足を止めると、「事実だと思うが違うか?」と問われ思わず侍女に視線を向けた後で天を仰いでしまった。
私は今の言葉に納得してしまったし、侍女もそうだと気がついてしまったのだ。
「今の事誰にも話しては駄目よ」
「心得ております」
「口止めしなくても、エマニュエラに付いていれば誰でも察することだ。あれが王太子妃の器でないのも、王太子殿下に思われていないこともな」
「お兄様、どうしてそんな言い方……」
お兄様はエマニュエラとの仲は悪くなかった筈なのに、どうしてこんなに辛辣なのか。
「私も甘かったと反省しているんだ。エマニュエラには他に相手を探すべきだったとね」
「お兄様」
「私はお前にもエマニュエラにも幸せになって欲しいんだよ、お前は大丈夫だがエマニュエラは」
エマニュエラは幸せではないのだろうか、考えるけれどすぐに答えは出そうになかった。
夕食を頂いた後、私は侍女と共にエマニュエラの部屋に向かい歩いていたらお兄様に声を掛けられ足を止めた。
「お兄様も一緒に?」
「機嫌が悪いエマニュエラのところに行くのがお前だけでは、八つ当たりされに行くようなものだろ」
「それはそうですね。お兄様の気遣いはとても助かります。お父様に言われたものの、少し気が重かったですから」
にっこりと笑ってお兄様の申し出を受けながら、私は侍女に視線を向ける。
お父様に言われ、エマニュエラの好きな焼き菓子を銀盆に載せ運んでいた侍女はお兄様が同行すると知りホッとしている様だ。
「父上はエマニュエラの癇癪がどれ程酷いのかご存じないからな、だから気軽にお前に頼むんだ」
「そうですね、エマニュエラはお父様の前で癇癪を起こすことはさすがにありませんから」
エマニュエラは、お兄様の前ではあまり癇癪を起こさないし、お父様の前では我儘を言うだけだ。私やお母様がエマニュエラの酷い行いをお父様に訴えても、それがどの程度のものなのか理解してはいなかったのだろう。
「今までを見ていなかったから、今日御者を怒鳴りつけるエマニュエラを見て驚いたのだろうし、叱ったのだろうが、父上は少し呑気すぎるな」
お兄様と二人並んで歩きながら、呑気すぎるというお兄様の意見に同意し頷く。
双子の姉妹とはいえ、彼女と私の性格は似ているところが全く無い。甘くてはやっていけないとは思うけれど、エマニュエラは将来王妃となるというのに、自分勝手で残酷なあの性格で大丈夫なのかと不安になる。
「エマニュエラが王太子妃で本当にいいのか、私は不安以外の言葉が思いつかないよ」
「それは、私もです」
「公爵夫人程度なら何とかなるが、王太子妃、そして王妃ともなれば……」
将来を想像し思わず身震いすると、「お前が一番困ることになるのは想像がつく」とお兄様は追い討ちを掛けてくる。
「なにかに付けエマニュエラはお前と張り合っているからな、それはこれから先も続くだろう」
「立場はエマニュエラの方が上になります、下の者に張り合うのは愚かではありませんか?」
デルロイ様は、今も未来も兄である王太子殿下を支える立場だと公言しているし、結婚後は臣籍降下するとすでに決まっている。
「立場は上でも、女としてはどうだろうな」
「どういう意味でしょうか」
「夫から愛されているかどうか、結婚後の幸せは立場が上か下かではなく、互いに愛情を持っているかどうかだろう。政略で愛は無くてもそれなりに相手を思い合えるかどうか、そこは重要だと私は思うけれどね」
お兄様の婚約者はイトコで、幼い頃からとても仲が良い。私と殿下達もイトコの関係にある。他の国では考えられないそうだけれど、この国の王家の方々は殆どがイトコ同士で結婚していて、他の貴族家と縁を結ぶ事はあまりない。
国の重要な位置にある家は全て王家の血を受け継いでいると言っても過言ではないし、この血が結束を強めて来たとも言える。
「殆どの家が夫婦仲が良いのですから、貴族家では政略結婚が当たり前だということを、つい忘れそうになります」
「大きな声では言えないが、私もだ」
「お義姉様と仲睦まじいですものね」
くすくすと笑いながら言えば、「お前もだろ」と返される。こういう気安さが私とエマニュエラの間には全く無い。
お父様とエマニュエラの仲は良好、お兄様とエマニュエラの仲も、お母様ともそうだと思っていたけれど、先程の話を考えるとエマニュエラはお母様に対して思うところがあったようだ。
「お前と殿下のことは心配していないが、エマニュエラはなあ」
「心配ですか」
「王太子殿下はエマニュエラを好いていないし、エマニュエラは男は全員自分を好いていると勘違いしているだろ」
露骨な言い方に思わず足を止めると、「事実だと思うが違うか?」と問われ思わず侍女に視線を向けた後で天を仰いでしまった。
私は今の言葉に納得してしまったし、侍女もそうだと気がついてしまったのだ。
「今の事誰にも話しては駄目よ」
「心得ております」
「口止めしなくても、エマニュエラに付いていれば誰でも察することだ。あれが王太子妃の器でないのも、王太子殿下に思われていないこともな」
「お兄様、どうしてそんな言い方……」
お兄様はエマニュエラとの仲は悪くなかった筈なのに、どうしてこんなに辛辣なのか。
「私も甘かったと反省しているんだ。エマニュエラには他に相手を探すべきだったとね」
「お兄様」
「私はお前にもエマニュエラにも幸せになって欲しいんだよ、お前は大丈夫だがエマニュエラは」
エマニュエラは幸せではないのだろうか、考えるけれどすぐに答えは出そうになかった。
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