【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑86

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「私とボナクララの子、もしくはその子供の子が災いの子か聖なる乙女のどちらかかもしれないというのは」

 予想もしていなかった話に、無意識に私は両手を爪が食い込みそうな程力を込めて握りしめていた。
 王家の言い伝えなんて、聞いた事がなかった。

「占いです」
「占い」

 占いと言われて浮かぶのは一つしかない、王族専属の占術師の占いのことだろう。
 王家の血を受け継ぐ者の未来を占う占術師の存在は、普通の貴族や神殿の者や勿論平民も知らない。
 この国が出来た頃から、王と国のために存在し続けているとも言われている人だ。
 王宮の最も天に近い場所、正確には父上の寝室の真上に位置する場所に住んでいるらしいけれど、私は占って貰った時に会っただけだから本当かどうか分からない。
 何せ占いは、いつの間にか私の前に現れた占術師にちょんと額を突かれて終わる。
 私は声すら聞く事なく、瞬き一つする間に相手は消えてしまったから今でもあれは幻ではないかと思っている。

「殿下も占ってもらっていますね」
「はい、私が知っているのは生まれた時のものだけですが」

 王族の子供は基本的に生まれた時、五歳の祝いの時、七歳の祝いの時、成人の時に自分の今後を占って貰うけれど父上と母上と王太子である兄上は、占術師が定期的に占い結果をそれぞれに伝えて来るらしい。
 私が生まれた時、占術師に『大樹の根を守る者』と言われたらしい、五歳と七歳の占いはなぜか両親にだけ伝えられていて、成人はまだだから最後の占いはまだだ。

「そうですか、まずエマニュエラが生まれた時の占術結果は『すべての欲を抑え善の心を育てよ』、五歳の時は『心に魔が巣くっている内は変われない』、七歳の時は『神の声は心を閉ざした者には届かない』でした」
「心を閉ざした者、それは災いの子というのとは違うのですか」
「はい、生まれた時は別ですが、五歳と七歳の占いは全体的なことではなく、親が占術者に予め占って欲しいことを聞くことも出来ます。私はエマニュエラが五歳の時も七歳の時も、周囲に災いをもたらさずに済むにはどうしたらいいかと願いました」
「叔父上、それはあまりにも酷い」

 この占術は、子供の将来を良いものにするにはどうしたらいいか教えて貰うのだと聞いたことがある、それなのにジョバンニ叔父上はエマニュエラの将来ではなくエマニュエラが周囲に災いをもたらす存在だとばかりに占術師に聞いたのだ。

「分かっています、でもあの子は五歳ですでにそう聞きたくなる程の子供でした。殿下の五歳の祝いの占いで災いの子はエマニュエラではないと知っていても、外れたことがないという占術師の占い結果をそれでも疑いたくなるほどエマニュエラは酷かった。先程鞭の話をしましたが、それより幼い頃からエマニュエラは平気で羽虫を踏みつけボナクララに暴言を吐いていた。私がどれだけ注意し叱ってもあの子は私の言葉すら耳に入れようとしなかった」
「五歳で?」
「ええ、あの子はその頃から頭が良くてあの子達の兄、ドナトスよりも難しい勉強を難なくこなしていた。たった一度教えただけで何でも覚えてしまう、とても賢い子供だった」

 エマニュエラは優秀だと、兄上も確かにそう言っていた。
 兄上も賢い子だと言われ育ったけれど、その兄上がエマニュエラの賢さを褒めるのだから相当なものだ。ただ兄上はこうも言っていた「頭がどれだけ良くても、善悪の区別がつかない。いいや、悪だと分かっていてあえてそれを行うのがエマニュエラだ。頭が良いからどうすれば相手が苦しむか瞬時に考え付くのだから困る」と。

「エマニュエラの頭が良いのは兄上も認めています」
「ええ、残念な事に。誰もが認める優秀さです、せめてあれに考える力が無ければ良かった」
「ジョバンニ叔父上、申し訳ありません。今は占術の話を」

 叔父上が話すことで楽になれるのならいくらでも聞くけれど、先に聞かなくてはいけないことを聞かなければならない。なにせ時間は有限、のんびりしていると叔父上が父上のところに向かう時間が来てしまう。

「ああ、申し訳ありません。つい愚痴を……」

 その自覚はあったのだろう、ジョバンニ叔父上は小さく頭を下げた後ため息を吐いた。
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