いえ、絶対に別れます

木嶋うめ香

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番外編

書籍化記念 初めてあなたと出会った日に3(ブルーノ視点)

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「……パオラ」

 無言で廊下を進み大広間の王族専用の扉の前まで来ると、王太子殿下が扉の前で侍女を伴い待っていた王太子妃殿下に声を掛ける。その瞬間出入り口を警護していた騎士達がガシャリと鎧の音を立て敬礼した。

「待たせてしまったか、パオラ」

 王太子妃殿下は、楚々とした女性だ。
 王太子殿下の瞳の色(王太子妃殿下も同じ色だが)の青色の地の裾に金糸の刺繍と白いレースをたっぷりと使ったドレスは派手過ぎず、先程の王女殿下の毒々しいまでに派手な赤いドレス姿を見た後では尚更清々しい美しさを感じてしまう。
 結い上げた美しい金髪を飾る髪飾りも、王太子殿下の色である金と青。前髪は横に長し一房だけ垂らしているがその髪型のせいなのか余計に儚げに見える。
 王女殿下と違い声を荒げることは無く、常に王太子殿下を立てている方だ。

「まだ宴の開始には時間がございますわ」
「そうか、ならば良い」

 ちらりと王太子殿下がこちらを見たのは、遅くなった理由が私だからだろう。
 私は慌てて両殿下に頭を下げて視線を逸らす。
 王太子殿下は遅れた理由を話してはいないのだから、こういう時は謝罪しない方がいいと思うのだが、私には正解が分からない。
 私は優秀ではないのだ、それなのに何故か私は王太子殿下の側近として王宮勤めをしている。

「入るか」

 王太子殿下の一言で、警護していた騎士の一人が扉を開く。
 扉が開いた途端聞こえて来る大広間の騒めきに、私は少し身構えながら平静を装い自分の姿を見下ろしてまだ王女殿下のまじないが続いているのを確認する。
 まじないはまだ続いていた。
 流行おくれの礼服でも、それでも新しく見える事実にほっとして、両殿下の後ろを背筋を伸ばし歩く。
 人々が見ているのは両殿下だと分かっていても、衆目を集める場所にはいつまでたっても慣れない。
 流行遅れの体にあってすらいない着古した服、履き潰したといった方がいい靴、父のお古の剣、貴族は見栄を張り合う生き物だというのに、私にはその見栄を張ることすら出来ないのだ。

「……成人おめでとう……」

 大広間中央にある十段ほどの階段を上った場所にある椅子に座った王太子殿下の後ろに立った私は、今年成人になる令息令嬢が王太子殿下から祝いの言葉を賜る姿をぼんやりと見つめる。
 まずは男爵位の家、そして子爵位、この辺りは大広間に集まっている上級貴族が注目する家はあまりないからか広間のあちこちでこちらを見ずに談笑している者が多いようだ。
 令息令嬢達は、保護者とともに両殿下に挨拶し終えると階段を下りていく。
 それが何人も続き、急にざわりと大広間内がざわついた。

「トニエ子爵家令嬢、フェデリカ・トニエ」

 ざわめきの先にいるのが、これから階段を上ろうとしている令嬢フェデリカ・トニエ嬢なのはすぐに分かった。
 それほど人々の目が彼女に向いていたのだ。

「あれが国の薬箱の愛娘か」

 王太子殿下の呟きに、ざわめきの理由を知る。
 現当主を筆頭に親族の殆どが薬師と錬金術師という、変わった一族の令嬢だ。
 トニエ家は国の薬箱と言われる程、薬師として優秀で作れない薬は無いという。

「トニエ家の薬師だけが作る事ができる薬があるのでしたか?」
「それだけでなく、最近は魔法鞄という小さな鞄に馬車二つ分の中身を入れることが出来るものを発明した。薬師、錬金術師どちらも優秀で、財力は侯爵家を超えると言われている」

 ひそひそと両殿下が会話するのを私は夢の中の出来事の様に聞いていた。
 背筋を伸ばし父親にエスコートされながら階段を上って来る、フェデリカ・トニエ嬢のその可憐さから目が離せなかったのだ。

「あれは真珠? なんて見事な」

 思わずといった風に王太子妃殿下が漏らした声に、フェデリカ・トニエ嬢の首元を見ると白い大きな丸い珠が連なる首飾りが視界に入った。
 まさかあれが全部真珠だというのだろうか。アコーヤ貝という魔物の貝を狩ると稀に得られる貴重な珠だと聞いたことがあっても実物なんて見た事は無かった。それを繋ぎ首飾りにするなんて出来るものなのか。
 そう言えばトニエ家は、陛下が国への貢献を考慮し伯爵位への陞爵の打診をしているが、当主が自分はその器ではないと辞退していた。確かその時に新たな領地と共に男爵位を賜っていた筈だ。つまり子爵位といえどその領地からの収入はかなりの額になるのかもしれない。

「まあ、珍しいそれではトニエ家は子爵位と男爵位を持っているのですね」

「フェデリカ・トニエでございます。王太子殿下、王太子妃殿下のご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます」

 階段を上り一呼吸置いた後、流れる様に美しい淑女の礼をする。
 栗色の髪に緑色の瞳、華奢な首には王太子妃殿下の言葉が正しいなら高価な真珠の首飾り、そして耳には同じく真珠の耳飾り。それは白いドレス姿に良く似あっている。

「国の薬箱、トニエ家の令嬢か。成人おめでとう」
「ありがとう存じます、王太子殿下」

 顔を上げ微笑むその顔はなんて可憐なのだろう。いや、それだけでなくその緑色の瞳の輝きだ。
 王太子妃殿下とも王女殿下とも違う、その姿から目が離せない。

「そなたも薬師なのか」
「はい、まだまだ未熟ではありますが私は薬師でもあり錬金術師でございます」

 未熟と言いながら、その腕に自信があるのだろう、胸を張り薬師で錬金術師でもあると答えた。
 その姿がとても眩しく感じた。私の様に日々自信なく生きている者とは違う。

「そうか、では今後その腕を磨き国の為に尽くして欲しい」
「畏まりました」

 子爵位の者に長く声を掛ける事などしないというのに、王太子殿下の言葉が止まらない。
 それどころか王太子妃殿下まで「見事な首飾りですね。とても良く似あっていますよ」等と話しだした。

「ありがとうございます。王太子妃殿下、これは母方の祖父母からの成人の贈り物でございます」
「まあ、母方というのは?」
「おそれながら、ボシック国のブレガ領ロサルバ男爵家でございます」
「ボシック国のブレガ領、そうか確か海に面しているところだったな」

 王太子殿下の頭の中には他国の領地までしっかりと入っているらしい。
 私などボシック国は隣の国で、昔々帝国時代に皇女殿下が嫁いだことがあるとしか覚えていない。

※※※※※※
すみません、まだ終わらないのでタイトル前、中から数字に変更しました(><)
ボシック国のブレガ領は「夫が亡くなって、私は義母になりました」に出て来るブレガ侯爵の領地です。
この国とボシック国は隣りに位置しています。
ボシック国に皇帝の薔薇を持って嫁いで来た皇女殿下の祖国がこの国ですが、かなり昔なので国のかたちが変わっています。
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