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尋問の後

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「ハザック、ティタを向こうに連れて行け。逃げ出さない様にメイドと一緒に見張っていろと伝えたら、オベイを連れて戻って来い」
「畏まりました。ほら、立て」
「私は何も悪い事はしておりません。私はエバーナお嬢様の為を思い行動したまでにございます。私は、私はっ」

 目隠しをし、手首を拘束したままハザックはティタを立ち上がらせると引き摺る様に部屋の外へと連れ出した。

「エバーナを躾なければ、お母様が私を躾けて下さった様に、私がエバーナを良い令嬢となるように躾けなければいけないのです。殿下、ティタは私が上手にエバーナを躾けられると褒めてくれますの。確か侯爵夫人はそう言っていたな」

 インゲイジに確認すると、尋問の記録の紙を捲り頷いた。

「侯爵夫人はティタに思考を誘導されている様に思うが、侯爵はどう考える」

 薬の鑑定結果を侯爵には話せないから、尋問の結果として尋ねる。
「インゲイジ、先程二人を尋問した結果と私が尋問した結果を見せて」
「畏まりました。こちらです」

 インゲイジが差し出した紙の束はかなりの厚さになっていて、その厚さを見ただけで気持ちがちょっと萎えそうになるけれど、頑張って中身を読んだ。
 はいだけ、もしくははい、いいえだけ。回答を特定した尋問ではなく最初に従者達が行なったティタとメイドへの尋問では真偽の珠は上手く反応しなかった様に見える。
 俺が尋問した結果が正しいとするなら、侯爵夫人は今回の件は白だ。
 エバーナへの過剰な躾けは兎も角、あえての嫌がらせは行なっていないと言えるのかもしれない。

「ティタの薬が問題か」

 傀儡の秘薬の鑑定結果を見ると、あの薬に中毒性はないらしいが長期的に摂取していた場合はこの限りではないともあったから、中和しておくに越したことは無い。だけど、中和するには、上級精神回復魔法を掛けながら、上級の聖水を摂取するってあるんだよなあ。
 上級の聖水は兎も角上級精神回復魔法なんて、普通の神官が使えるレベルの魔法じゃないんじゃなかったっけ?

「薬ですか」
「ええ。侯爵夫人が薬を使っていた様子は明らかにおかしかった。あの鼻につく臭い。それを気にすること無く人前で使い、使用後は何も無かった様に振る舞う。あれが正常と言えるでしょうか」

 リリーナ先生が心配そうに俺の方を見るから、鑑定魔法の結果を言わない様に気をつけながら考えを話す。

「侯爵夫人とメイド、二人だけがあの薬を使っているのか、それとも他の人も使っているのかまずはそれを確認しないといけないでしょうね」

 父上が護衛騎士を派遣してくれたのは、これを危惧してのことではないだろうけれど。
 ゴレロフ侯爵家の護衛達がティタの薬に操られていたら厄介だ。
 
「使用人達の部屋を全部確認した方がいいとお考えですか」
「そうですね。それは必要でしょうが効率が悪すぎる。あのメイドの様に部屋に置いているものばかりではないかもしれません。ただ、ティタがこの屋敷の人間を掌握してると確信していれば油断しているかもしれませんが」

 この屋敷の主であるゴレロフ侯爵はめったに戻って来ない。
 侯爵夫人はすでにティタの思うが儘だとすれば、わざわざ警戒する必要はない。

「ペカルルド公爵の手紙を持ってきていたな。その中身を確認して」
「畏まりました」

 この屋敷がティタの支配下にあるなら、ペカルルド公爵が警戒せずに手紙を送ってきても不思議じゃ無い。
 それでも普通なら警戒するけれど、エバーナが生まれてから今までずっと侯爵がこの屋敷に寄りつかず、ずっと侯爵夫人がティタの操り人形の様であったら、ティタは何も心配することなく手紙を受け取れるのだ。

「ゴレロフ侯爵。君が現実を見なかった結果がこれだ。分るか」

 ティタの回答にショックを受けているのか、じっと考え込む様に黙ったままの侯爵にそう言うと侯爵は一瞬眉間に皺を寄せ、俯いた。

「ペカルルド公爵は」

 何通かの手紙を読んだ後、インゲイジは躊躇いながら口を開いた。

「どうした」

 ティタが長年好き放題にこの屋敷でやらかしていた可能性を考えて、俺は屋敷全体に鑑定魔法を掛けたらどうだろうと思いついた。
 ティタに鑑定したときに、精神状態が興奮と出た。
 あんな感じで、ティタの薬を使っているかどうか、ティタの配下になっているかどうかだけに限定して鑑定を掛ける。
 出来るかどうか分らないけれど、誰がティタの操り人形なのか疑心暗鬼になっているよりは良いんじゃないかなと考えて、何も考えずに実行してしまった。

「ペカルルド公爵は、エルネクト殿下とエバーナ様の婚約を破棄させたいとお考えの様です。この手紙にはエバーナ様の人格をエルネクト殿下が否定する様、命じられています」

 ペカルルド公爵が、俺とエバーナの婚約を破棄させたい?
 屋敷全体に掛けた大がかりな鑑定魔法の結果が頭の中に表示されていく。
 鑑定結果はデータベース化して、保存。頭の中に流れては消えていく情報を無理矢理に整理しながら、衝撃の情報に一瞬目眩がした。

「殿下、少しお顔の色が良くない様です。お疲れになったのでは」
「いや、大丈夫だ。予想していなかった話を聞いたせいだろう」

 心配するリリーナ先生に笑いかけ、くらりと揺れる視界に思わず目を閉じた。

「エルネクト殿下?」
「大事ない。インゲイジ、その手紙は他の品と分け陛下へ報告するように。それでいいですね、侯爵」
「エルネクト殿下のご指示に従います」

 侯爵は素直に俺の言葉に頷きながら、何か考えている様だった。

「侯爵、これは罰とかではない。ただ侯爵の大事な娘の婚約者が心配しての言葉だと聞いて欲しい」
「……畏まりました」
「これ以後、侯爵が王都にいる場合は、宮殿ではなくこの屋敷で暮らす事。屋敷の主が不在では使用人の心は緩む。そうだろう?」

 鑑定結果は、侯爵夫人付きの侍女達はティタの薬によって従属化されていた。幸いな事に護衛や他のメイド達や下女下男達はティタの薬に犯されていないようだった。
 あの薬を使うのが難しいのか、ティタがその程度の人間を掌握していれば問題ないと判断したのかは分らない。
 でも、被害がその程度で済んでいるというのは明るい知らせだった。

「思うことはあるのかもしれない。だが、お前はこの侯爵家の主だ。主だと自覚があるなら今後同じ様な愚行が無い様にしっかりと目を光らせておけ」
「畏まりました」
「あの二人の処罰は、侯爵に一任される事になるだろうが、ティタは暫くの間監視が必要だな。手紙だけではペカルルド公爵の考えは分らないが、私の婚約は陛下が許可された事。まだ公にしていないとはいえ、その決定を覆そうなど陛下の臣下たる者がしていいことではない」

 ティタの今日の行ないだけなら厳しい処罰は無理だろう。
 悪神の像なんて、とんでもない物も出てきたが信仰について厳しい事は言えないし、そもそもただの侍女なら兎も角、後ろにペカルルド公爵がいるならあちらが何か言ってくるかもしれない。

「エルネクト殿下のご指示に従います」

 
 これからが大変だ。
 侯爵の返事に頷きながら、ため息をつきたくなった。
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