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第23話、もっとランベルトの事が知りたい

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 ***


 一週間前に視察で遠征に行っていたランベルトが、予定通りに帰ってきたと聞いてすぐに広間に駆けつけた。
 ランベルトが立っているのが分かって、正面に行って対峙する。
「ランベルト、お帰り」
「ああ、ただいま」
 空に浮いて、頬に軽く唇を押し当てた。
「疲れてるだろ? 湯浴みの準備が整っているんだけど……入らないか?」
「どうしようかな。でも部屋で入りたい」
 この時の為に湯浴み用の花をつんできたとは言えずに俯く。
 本人の意思を無視するのは気が引けて「じゃあ、部屋に行こうか」と言いかけると、背後から声が上がった。
「王。レオン様が王の好きな湯浴み用の花を摘んできて下さったんですよ」
「そうそう。青い小さな花です」
 官人や女官がクスクスと笑いながら言うと、ランベルトが目を見開く。
「え、本当に?」
「……俺も、ランベルトと一緒に大風呂に入りたかったから」
 少し気恥ずかしくて、俯きながら口にした。
 ランベルトが唖然としたように薄く口を開いてこっちを見ている。
 もしかして嫌だったのかと思い、一緒に部屋に帰ろうと再度言いかけたが、片腕で軽々と持ち上げられ風呂に向かわれた。
「今すぐ行こう!」
 大風呂の間について、服を脱ぐとちょうど良い温度の湯がシャワーで降り注いできた。
 埃を落とすとまた持ち上げられて一緒に湯に浸かった。
 隣同士で石段に腰掛けてたランベルトが大きな手で小さな青い花を掬う。
「ねえ、レオン。俺がこの花好きって……どうして分かったの?」
「皆んなに聞いて回った。生えてるとこも全部。可愛いよな、この花」
「レオンがこうして俺に興味を持ってくれるの……すごい嬉しい」
 照れ隠しで視線を伏せたランベルトの膝の上に、向かい合う形で乗って口付ける。
「良かった。俺さ、もっとランベルトの事が知りたい。お前の隣に立ってても恥ずかしくないくらい俺も頑張りたいから。ちゃんとしっかり王様してるランベルトも俺は好きだよ。かっこいい。追いつけるように、俺もお前の背中追いかけたい」
 大きな手を取って、自分の頬に当てる。その後で、忠誠を誓うようにランベルトの指先に口付けた。
「レオン~……そんな事言われて、そんな事されるとヤバい。心臓持たない……」
「最強の精霊王が何言ってんだよ」
「そんな肩書きいらないよ。無意味。しかもさレオン、裸でこの体勢ヤバい。抑えようと思ったから隣に座ったのに!」
 ——しまった。ランベルトに嬉しいと言われて気が昂った。
 無言で降りようとすると腰を固定されてしまい、動けなくされる。身の危険を感じた。飢えた獣が目の前にいる。
「ランベルト。そろそろのぼせそうだから上がりたい」
「さっき入ったばかりでしょ。それに俺、レオンが熱気に強いの知ってるよ」
「え、何で?」
「サーシャとエスが言ってたからね」
 逃げ場を絶たれた。腰と後頭部をそれぞれ引き寄せられ密着される。
 隆起したモノを押し当てられ、息を呑んだ。
「レオン、だめ?」
 無駄に良い顔で首を傾げられる。
「お前…………俺がそれに弱いの知ってて態とやってるだろ?」
「うん。レオンたら俺の顔と体好きだもんね?」
 喉を鳴らして笑われた。
 ——ああ、くそ。ムカつく。
 違うと言えないのが悔しい。その後めちゃくちゃセックスした。


 ***


 ランベルトとの関係が少し変わってきて、一月が経った。
 人前でベタベタされない分、その隙間を埋めたくなって自分から動いてしまい、それもまた新鮮な気持ちになって心地良い。
 ランベルトの事を知っていたようで、知らない事が多すぎるのだと知れた。
 三年間もあんなに濃密な時間を過ごしていたのに、これまでは本当に体だけの関係だったんだな、と苦笑する。
 それと今までが供給過多だったのだ。
 サーシャがランベルトにあえて厳しく点数をつけたのは、これが狙いだったのかもしれない。
 レオンが自ら進んでやりたいと思って頑張れる事柄が溢れているのだ。
 意外と甘い焼き菓子が好きだとか、花が好きだとか、湯浴みの時には絶対お気に入りの青い花を浮かべるとか、朝に強そうに見えて実は弱いとか、幼い頃は怖がりで外で遊ぶより絵を描いたり本を読んだりするのが好きで本当にエスポワールに似ていただとか、両利きだとか、側室にいた亡き母親は他種族の体の弱い姫君だったとか、酒豪だとか、特定の人を好きになったのが自分だけだとか、これまで自室に誰かを招いたのは幼馴染の男と自分だけだとか。
 最後の二項目は、レオンにとっては本当に嬉しかった。
 ランベルトと一緒にベッドに転がっていると、扉がノックされる。
 ベッドの縁に腰掛け直したランベルトが「入っていいぞ」と声をかける。
 そこには見知った顔があった。
「え、ケミル⁉︎」
「よっ、レオン久しぶり! 頼まれごとで出掛けている間にランベルトがお妃様を迎えたって聞いたからさ、名前聞いたらレオンって言うし驚いたわ!」
 大学院に居た時、同じ寮の部屋で三年間過ごしていた男だ。
「どういう事?」
「ごめん。オレ実はランベルトの幼馴染でさ、大学院内でのコイツの護衛でもあったんだよ。本当は人族じゃなくて精霊族なんだ。でもレオンと同室になったのはマジで偶々だからな? 当時、オレコイツにめちゃくちゃ僻まれてたからね」
 驚いた。幼馴染というのはケミルだったらしい。
 まさかそんな繋がりがあったなんて露知らず、ランベルトの事を友人だとか、部屋に泊まりに行っただとか言ってしまった気がする。
 ランベルトと契約して恋人ごっこしていたのもバレていたのかと思うと居た堪れない。
「ケミル、俺のレオンといちゃいちゃし過ぎだよ」
 ランベルトに抱えられて膝の上に乗せられた。
「いや、それ王様でしょ。レオンの母君のサーシャ様に怒られていたって官人も女官も噂してましたよ。ブフッ」
「アレはアレでかえって良かったよ。だってレオンから俺の事を知りたがったり引っ付いてくれるようになってさ、俺はいま幸せだからね」
 少し持ち上げられて頬を擦り寄せられる。
「うはは、王様口調じゃなくて良かったんすか? 大学院生時代に戻ってますよ」
「レオンの前では良いんだよ」
「それにしても卒業式前に居なくなったと思ってたら、まさかの展開だったわ。大学院内でランベルトの子ども産んでたとかね……。オレには教えてくれといても良くね? あ、さっきエスポワール皇子に会ったけどあの子はマジでランベルトそっくりな。双子ちゃんたちは足して二で割った感じだった」
 気まずくて目を合わせられない。
 とりあえずまたお礼だけは言っておこうと思い、口を開いた。
「あー……あの時は荷物持ってきてくれてありがとうケミル。とても助かったよ」
 絶望の淵にいたな、と遠い目をする。
「やっぱアレ? 焦れたコイツに無理矢理孕まされちゃった?」
 窺うように聞かれ、何も言えずに視線を横に流した。


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