エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第二章 未知の世界への移住

ドキドキの新生活へ

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 結果的にナサニエルから地上に移り住むことにしたのは十五人だけ、それも全員が身内だった。


「……外で野垂れ死ぬのがオチだろ」
「本当に疫病神よね……?」


 ナサニエルの廊下を歩く度に、そんな陰口が聞こえてくる。
 視線も突き刺さるようだ。
 俺も、ナサニエルを出ていく十五人の中の一人だからしょうがないことだ。


「サトル、荷造り終わったか?」
「見ての通り全然よ……何を持って行くべきか、迷いに迷ってスタート地点」


 寮の自室に戻ると、中は無茶苦茶で足の踏み場もないほどだった。
 ここ最近のサトルは、こんな調子で外に持っていく自分の手荷物を、ずっと決めかねているようだ。
 傍から見たら、俺はサトルが行くから外に行くのだと思われているようだ。
 そのことについて、特に俺から否定や肯定をするつもりはなかった。
 もちろん、サトルの存在は俺にとっては大きかったが、それ以上に俺はゾーイのことが気になってしょうがないという自覚がある。
 それは多分、サトルも一緒だろう。
 というか、サトルはゾーイの意見に最初から全面的に賛成してたしな。


「少し、手伝おうか?」
「え? マジで? 本当に助かる!」
「一つ貸しな?」
「了解です! そこの本頼む!」
「オッケー」
「……昴、聞いてもいいか?」
「うん?」
「弟くんのこと、どう思ったんだ?」


 思わず、俺は手が止まった。
 あいつも……望も、俺と同じように地上に移り住むことを選んだ。
 当たっているかはわからないが、望は俺、アラン、そしてゾーイを、一方的に敵視している。
 計画立案者のゾーイはもちろん、俺自身も移り住むことを決めたし、アランを筆頭にチーム・ロジャーも地上に移り住むことが決まった。
 多分、望自身は移り住むのも、ナサニエルに残るのも、どっちでもよかったと思っていたのだろうけど、その三人が外に出ていくのに自分だけ残るというのは負けた気がして、我慢ならなかったのではないかというのが、俺の推理だ。


「あいつらしいとは思うし、目の届くところにいてくれるのは安心かな……」
「さすが、お兄様ですな~!」
「喋ってる暇があったら、二人とも手を動かしなさい!」
「へっ!?」
「あ……ま、真由と、橘さん」
「ヤッホー! お二人さん!」


 突然、部屋の中に入って来たのは真由と橘さんだった。
 開口一番がそれかよ……


「あと何時間かで出発なのよ!? このままじゃ、終わるかどうかも怪しいわ! それなのに、どうしたらそんなにのんびりしていられるのよ!」
「まあ、確かにひどい有様! 私達も手伝うから、早くやっちゃおう!」


 俺達二人が口を挟む間もなく、あれよあれよという間に片付けは猛スピードで進んでいく。
 真由と橘さん、今はいないけど、ローレンさんも地上に移り住む。
 俺達兄弟が揃って行くなら、真由には行かないという選択肢はないだろう。
 本人曰く母親代わりらしいし、たとえ俺達のどっちかが行かないという意見だったとしても、是が非でもどっちかを説得して同じ場所にいるように強要しただろうな。
 そして、橘さんに関しては、真由とサトルが行くなら行くという、単純明快な答えだ。
 あと、何時間かで夜が明けて俺達はナサニエルを出ていくのだ――


 ***


「それでは、私達は今から……そ、外に出発を……えー、第一歩を」
「前置きがうぜえ!!」
「さっさとしろ、俺の気は短いんだ」


 そんなことが必要なのか疑問だった出発の挨拶をするハロルドを、綺麗に一蹴したのは望とアランだ。
 夜が明け、俺達は前に出発したナサニエルの地下扉から、外に出ていく。


「ねえ、昴?」
「あ、ゾーイ、どうかした?」
「あの子」
「え?」


 ハロルド、望、アランのやり取りを横目に、隣にいたゾーイがローレンさんに視線を送りながら、話しかけてきた。


「ベージュの髪で青い瞳の……シャノンとかだっけ?」
「すごいね、覚えてるんだ」
「何となくだけどね? あの子も地上に行くわけ?」
「うん、そうだよ?」
「理由とか言ってた?」
「俺は、そこまで仲良くないから……」
「それじゃ、あんたの幼なじみとその友達の真由と菜々美は仲良いの?」
「さ、さあ……? けど、同じ医療科だとは言ってたよ」
「そう、同じ医療科ね……」


 ローレンさんへの視線を逸らさず、ゾーイは無表情で何かを考えてる。


「ゾーイ? ローレンさんが何か……」
「あたし」
「うん……」
「あの子のこと好きじゃないわ」
「うん……え?」
「まあ、忘れて」
「わ、わかった……」


 忘れられるわけないよ、ゾーイ!
 好きじゃないって……確かに、ローレンさんは謎が多いけど、単なる好み?
 ゾーイの視線には、それ以上の意味が込められている気がして、その時の俺にはとても怖かった。 
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