エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第二章 未知の世界への移住

緊急事態は法律違反を白にする

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「それにしてもさ、エリート集団もお馴染みすぎるメンツしかいないわね」
「あ、ああ……そうだね」


 そんな俺の心の叫びは虚しく、ゾーイはさっさと話題を変えた。
 アーデル、通称エリート集団の人数は全員で十二人。
 ナサニエルと地上に移住、どちらの生徒の動向も気になるということで、アーデルは二手に別れることになった。
 外に行くのは、クレア、ハロルド、モーリス、ジェームズの計四人。
 あとの八人はナサニエルに残る。
 まあ、ナサニエルの方が圧倒的に人数は多いし、多分妥当な人数編成かな。


「まあ、新しいのが入って来たらそれはまた面倒だから、別にいいけどね」
「本当にはっきり言うね、ゾーイ……」


 けど、このメンツになった理由は俺の憶測だけど、個人的理由があるように見受けられる。
 まず、クレアはゾーイの言動に不信感を強く持っている気がする。
 そこで自分がしっかりゾーイのストッパーにならなければと、意気込んでいるように俺には見える。
 一方で、なぜかハロルドからは理由を直接聞かされた。
 その理由も、クレアが行くなら自分が守るしかないという、よくわからない理由だった、ハロルドは通常運転だ。
 そんなハロルドにほぼほぼ強制されるような形で、モーリスも決まった。
 そして、ジェームズは素直に地上への興味だと言ってたけど……
 デルタが行くからだろうな、絶対に。
 そうこうしているうちに、ハロルドの謎の挨拶は終わったらしかった。


「諸君! それでは、しばしの長い別れになってしまうが……」
「あ、ストップ! これで連絡とれば、しばしの長い別れとやらにはならないでしょ?」


 やっと出発かとなった時にハロルドに待ったをかけたのは、ゾーイだった。
 そんなゾーイが取り出したのは、昔の映画で見た携帯のような形状の……


「待てよ、ゾーイ! それ無線機じゃねえのか!?」
「意外中の意外案件だわ! シン、よくわかったね?」
「結構、機械いじりとか好きなんだよ」


 シンが興奮気味に乗り出して、その無線機と呼ばれたものを手に取る。


「電池は満タンなはず! これで毎日連絡をとり合えば、お互いに少しは安心でしょ? ここから声が出るから……」
「待って、ゾーイ!」
「何よ、クレア?」
「あ、えっと……私達ってまだ未成年だし、個人的な連絡手段を持つことって法律違反だと思うわ……」


 後半になるにつれてどんどん小声になりながらも、クレアはそうゾーイに反論した。
 空島では、未成年が家族以外の人物と個人的な連絡をとる通信手段や自分の情報を発信する類の機器を持つことを一切禁止としている、という法律が定められている。
 まだ地上に人類が住んでいた時は、ソーシャル・ネットワーキング・サービスとかの誰とでも簡単に繋がれるものが世界中に普及していたらしい。
 便利な反面、それを使った未成年を巻き込んだ犯罪や事件が多発した。
 第三次世界大戦の原因も、大元をたどればそれが関係しているとか……
 それを受けて、空島に移住した当時の人類は未成年通信法を定めて、成人するまでソーシャル・ネットワーキング・サービスを使用することを禁じたのだ。
 違反すれば、五年以下の懲役か三十万円以下の罰金とかだったかな?
 そこそこ重い罪になるので、そのことをクレアは危惧しているのだろう。


「あー、あの法律ね。確かに、クレアの言ってることもわかる」
「よ、よかった……!! じゃあ……」
「けどね、クレア?」
「え?」
「ここは空島じゃないの。地上なのよ? そんな法律は無効よ」


 とてもいい笑顔で、ゾーイは答えた。


「そんな……!!」
「まあまあ、落ち着こう! クレア?」
「サトルくん……」
「今は緊急事態だ。法律なんてもの気にしてる場合じゃないだろ」


 興奮気味に反論しようとするクレアをサトルが抑え、それに続くようにしてアランが冷たく言い放った。


「大丈夫だって、バレやしないよ」
「そ、そういう問題じゃないわ! それにこの無線機はどこから?」
「これは確か……今は使っていない地下倉庫からだったっけな?」
「そんな勝手に!?」
「勝手っていうか、この場の誰のものでもないなら、最初に見つけた人間にどうするか判断する権利があるでしょ?」


 ゾーイの一言が決定打になり、毎日昼の十二時にナサニエルの方から連絡を入れてもらうことになった。
 確かにこんな事態だけど、俺は慎重で真面目なクレアの気持ちもわかるから、どこか気まずかった。
 そして、改めてゾーイのように俺はなれないだろうなと悟った。
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