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第三章-⑴ 昴と望と真由
大きなりんごの木の下は
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「昴! 今のあたし、無性にりんごが食べたくてしょうがないの! 採って来てくれない?」
「え、今なの?」
「今すぐって言ってるでしょ?」
「ねえ、そのぐらいは自分で……」
「真由にバラすわよ?」
「え、え? ば、バラ……?」
「外で盗み聞きしてたこと、あたしが気付いてないとでも思ってたの?」
「あ、いや……!! その、あれはほんの出来心というやつで……!!」
「りんご! 木! ゴー!」
「……わかったよおおおおお!!」
最近、ますますゾーイの俺達に対する態度が横暴になってると感じるのは、気のせいなんかじゃないはず。
現に今なんて、これパシリだよな?
人に弱みを握られ、脅された上でのパシリってやつだよな?
それでも全速力で走っている自分に失望しつつ、俺は目的地にたどり着く。
大きな大きな、一本のりんごの木。
この木は、教科書で見たりんごの木の三倍は確実にある。
木を登らなきゃ、絶対にりんごを採ることはできない大きさだ。
どうして、こんな育ったのかは詳しくはわからないけど、きっと千年のうちに気候変動とかがあったのだろう。
「これを登るのか……」
右手で木の凹みを掴み、左足をしっかりと固定して、その繰り返しで俺は自分の身長の何倍もあるりんごの木を登る。
ようやく、俺は一本の太い枝にたどり着いたのだった。
「はあ、はあ……やっと、着いたよ」
「あ?」
「え……え? うおっ!?」
けど、そこには先客がいて、しかもその相手が相手だっただけに、俺は危うく木から落ちるところだったわけだ。
どうにか掴んだその太い枝と、己の右手には感謝しかないな。
「あ、危なかった……!!」
「このクソが、何をテメーまでここに登って来てやがる!! 下りろ!!」
「無茶言うな、今登ったんだぞ!?」
「そんなこと知るか!!」
俺がたどり着いた木の枝には、望が寝そべって待ち構えていたのだった。
どうにか、俺は枝に食らいついてそこに座り、ようやく落ち着く。
「そもそも、お前にこの木の何の権利があるって言うんだよ!! それこそ、お前に指図する筋合いはないだろ!!」
「うるせえな!! ただでさえ今は、どこか一人になりたいっていうのに、よりによって、お前と二人とか悪夢だ!!」
「そんなに嫌なら、お前が下りろ!!」
「はあ!? 何で、俺の方がお前に場所を譲ってやらなきゃならねえんだよ!!」
そのまま二人で残るか、どっちかが下りるか。
そんな簡単な答えなはずなのに、意地を張って引き下がれなくなった俺達の口喧嘩は、どんどん悪い方向にヒートアップしていった。
「何がそんなに……俺の何が、お前をそこまでにするんだよ!!」
「何もかもだ!! わからねえのか!?」
「当たり前だろ!? 何もかも具体的に言ってくれないと、こっちはどこにも身動きが取れないんだよ!!」
「……黙れ。俺の視界から……うあっ!?」
「望ッッ!!!!」
その時、望は俺のことを殴ろうとで思ったのだろう。
けど、そのせいで望は、ただでさえ不安定なバランスを崩してしまった。
全てがスローモーションに見えて、俺はどうにか望の腕を掴んだ。
「本当、お前はいつもそうやって……その手を離せ!!!!」
「何をバカなこと……おわあっ!?」
けど、せっかく掴んだその手を、望が離せと暴れたせいで、俺達は二人でそのまま木から落ちたのだった。
「イッテテ……最悪だ……」
「俺のセリフだ! 本当にお前と一緒だと、ろくなことが……」
「あんたら、その目は飾りなの」
その声の主が誰なのか、俺とおそらく望もすぐにわかっただろう。
けど、その聞こえた声はいつもの五割増ぐらいで低い気がした。
俺達は、そこでようやく周りに盛大に散らばった料理に気付く。
そして、自分や望の体中に野菜や果物をはじめとした食材が貼り付いていることにもだ。
どうやら、俺と望は今日の夕食の上に落ちてしまったようで……
「もう一度言うわよ。自分の周りの大惨事をどう思う? その目は飾りなの」
***
夕食は全て台無しになり、一から作る事態になってしまった。
どうにか、夕食は終えたけど……
「この量の皿洗いとか、三日はかかるに決まってるよ……」
「つべこべ言ってねえで、テメーも手を動かせ!」
「この期に及んで、あんたらって揃って学ばないの? 本物のバカなの?」
俺達は罰として、数百枚分の皿洗いをさせられている。
普通なら数十枚とかなのに、ゾーイが罰だからと、それは何世帯なのか数えたくもないほどの皿を犬族と猫族から集めてきて、結果がこれだ。
「またくだらない喧嘩してそこにある皿を割るなんてことがあったら、どうなると思う? 一枚割る度にあんたらの指を一本ずつへし折るわよ?」
まあ、ゾーイが無表情だったので、俺達は頷くしかなかったんだけどな。
そもそも、全面的に俺達が悪いし……
「は? お前に折られるようなヤワな指してねえけど?」
「望! お前は……」
「折るのはあたしじゃなくて、コタロウよ?」
「はあ!? 何だそれ!?」
どうやら、一番驚いているのは偶然通りがかったコタロウのようだ。
「コタロウ、ナイスタイミングよ! 指の五、六本とか、あんたなら折ったことあるでしょ? 十本ぐらい増えたって変わらないわよね?」
ゾーイは俺と望の肩を組んで、それは素晴らしい笑顔でコタロウに問う。
コタロウはもれなく、ドン引きだ。
誰か、誰か、助けてくれ……
「え、今なの?」
「今すぐって言ってるでしょ?」
「ねえ、そのぐらいは自分で……」
「真由にバラすわよ?」
「え、え? ば、バラ……?」
「外で盗み聞きしてたこと、あたしが気付いてないとでも思ってたの?」
「あ、いや……!! その、あれはほんの出来心というやつで……!!」
「りんご! 木! ゴー!」
「……わかったよおおおおお!!」
最近、ますますゾーイの俺達に対する態度が横暴になってると感じるのは、気のせいなんかじゃないはず。
現に今なんて、これパシリだよな?
人に弱みを握られ、脅された上でのパシリってやつだよな?
それでも全速力で走っている自分に失望しつつ、俺は目的地にたどり着く。
大きな大きな、一本のりんごの木。
この木は、教科書で見たりんごの木の三倍は確実にある。
木を登らなきゃ、絶対にりんごを採ることはできない大きさだ。
どうして、こんな育ったのかは詳しくはわからないけど、きっと千年のうちに気候変動とかがあったのだろう。
「これを登るのか……」
右手で木の凹みを掴み、左足をしっかりと固定して、その繰り返しで俺は自分の身長の何倍もあるりんごの木を登る。
ようやく、俺は一本の太い枝にたどり着いたのだった。
「はあ、はあ……やっと、着いたよ」
「あ?」
「え……え? うおっ!?」
けど、そこには先客がいて、しかもその相手が相手だっただけに、俺は危うく木から落ちるところだったわけだ。
どうにか掴んだその太い枝と、己の右手には感謝しかないな。
「あ、危なかった……!!」
「このクソが、何をテメーまでここに登って来てやがる!! 下りろ!!」
「無茶言うな、今登ったんだぞ!?」
「そんなこと知るか!!」
俺がたどり着いた木の枝には、望が寝そべって待ち構えていたのだった。
どうにか、俺は枝に食らいついてそこに座り、ようやく落ち着く。
「そもそも、お前にこの木の何の権利があるって言うんだよ!! それこそ、お前に指図する筋合いはないだろ!!」
「うるせえな!! ただでさえ今は、どこか一人になりたいっていうのに、よりによって、お前と二人とか悪夢だ!!」
「そんなに嫌なら、お前が下りろ!!」
「はあ!? 何で、俺の方がお前に場所を譲ってやらなきゃならねえんだよ!!」
そのまま二人で残るか、どっちかが下りるか。
そんな簡単な答えなはずなのに、意地を張って引き下がれなくなった俺達の口喧嘩は、どんどん悪い方向にヒートアップしていった。
「何がそんなに……俺の何が、お前をそこまでにするんだよ!!」
「何もかもだ!! わからねえのか!?」
「当たり前だろ!? 何もかも具体的に言ってくれないと、こっちはどこにも身動きが取れないんだよ!!」
「……黙れ。俺の視界から……うあっ!?」
「望ッッ!!!!」
その時、望は俺のことを殴ろうとで思ったのだろう。
けど、そのせいで望は、ただでさえ不安定なバランスを崩してしまった。
全てがスローモーションに見えて、俺はどうにか望の腕を掴んだ。
「本当、お前はいつもそうやって……その手を離せ!!!!」
「何をバカなこと……おわあっ!?」
けど、せっかく掴んだその手を、望が離せと暴れたせいで、俺達は二人でそのまま木から落ちたのだった。
「イッテテ……最悪だ……」
「俺のセリフだ! 本当にお前と一緒だと、ろくなことが……」
「あんたら、その目は飾りなの」
その声の主が誰なのか、俺とおそらく望もすぐにわかっただろう。
けど、その聞こえた声はいつもの五割増ぐらいで低い気がした。
俺達は、そこでようやく周りに盛大に散らばった料理に気付く。
そして、自分や望の体中に野菜や果物をはじめとした食材が貼り付いていることにもだ。
どうやら、俺と望は今日の夕食の上に落ちてしまったようで……
「もう一度言うわよ。自分の周りの大惨事をどう思う? その目は飾りなの」
***
夕食は全て台無しになり、一から作る事態になってしまった。
どうにか、夕食は終えたけど……
「この量の皿洗いとか、三日はかかるに決まってるよ……」
「つべこべ言ってねえで、テメーも手を動かせ!」
「この期に及んで、あんたらって揃って学ばないの? 本物のバカなの?」
俺達は罰として、数百枚分の皿洗いをさせられている。
普通なら数十枚とかなのに、ゾーイが罰だからと、それは何世帯なのか数えたくもないほどの皿を犬族と猫族から集めてきて、結果がこれだ。
「またくだらない喧嘩してそこにある皿を割るなんてことがあったら、どうなると思う? 一枚割る度にあんたらの指を一本ずつへし折るわよ?」
まあ、ゾーイが無表情だったので、俺達は頷くしかなかったんだけどな。
そもそも、全面的に俺達が悪いし……
「は? お前に折られるようなヤワな指してねえけど?」
「望! お前は……」
「折るのはあたしじゃなくて、コタロウよ?」
「はあ!? 何だそれ!?」
どうやら、一番驚いているのは偶然通りがかったコタロウのようだ。
「コタロウ、ナイスタイミングよ! 指の五、六本とか、あんたなら折ったことあるでしょ? 十本ぐらい増えたって変わらないわよね?」
ゾーイは俺と望の肩を組んで、それは素晴らしい笑顔でコタロウに問う。
コタロウはもれなく、ドン引きだ。
誰か、誰か、助けてくれ……
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