エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑴ 昴と望と真由

推理力を身につけよう

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 ゾーイの言葉に俺は雷に撃たれたかのような衝撃だった。
 そして、ゆっくりと記憶をたどる。


「そうだ、やっと思い出した。俺が望に作ったんだ。十年前に……」


 俺と望がまだ四歳の時に、父は病気で亡くなった。
 朝から晩まで母は俺達を育てるために働くようになり、母の顔を見ることはほとんどなくなった。
 そして、十年前のあるテレビ番組でカンガルーの特集をやっていた。
 カンガルーの子どもは母親のお腹の袋の中に入り、いつも一緒だとその番組では説明していた。
 それを聞いた望がいいなと、僕もカンガルーになりたいなと言ったのだ。


「けど、そのこと、何でゾーイが……」
「真由から聞いたのよ」
「ごめん……」
「全然、謝ることじゃないよ」


 まだ地面にうつ伏せになる望のことを気にしつつ、俺は真由に視線を送る。
 真由は、申し訳なさそうに下を向く。


「十年前じゃ、物持ちはいい方ね」
「まあね……とっくに捨てられてると思ってたよ」
「逆よ、後生大事にベルトにチェーン付きで肌身離さずよ?」
「よく気が付いたね……?」
「望、ナサニエルから持ってきた荷物が少なかったでしょ? 考えられる理由は極度のミニマリストか、常に大事なものは身に付けているかの二択。まあ、望の性格を考えると後者だと思って、寝てる間に漁らせてもらったら、お宝発見ってわけ。プライバシーの侵害ごめんよ?」


 どんな環境で育てば、ゾーイのような推理が思いつくんだろう。
 とりあえず、謝るんだな。
 口だけ感満載だし、望は地面に寝たままだけど、謝るんだな……うん。
 七歳の俺はこの世でたった一人の片割れであり、大事な弟のために初めての裁縫を必死でこなして、当時の望の好きな色だった青のカンガルーを作った。
 その時は、指のあちこちに針を刺しまくってたから絆創膏だらけだったな。


「本当、下手くそだな……カンガルーは耳長くないし、縫い目も雑すぎる」
「その毛玉みたいなのは?」
「多分、子どものカンガルーかな?」
「そういうことね? まあ、ポケットは上出来じゃない?」
「ポケットだけはの、間違いだろ?」


 望の手からその青いカンガルーを手に取り、俺は真由と懐かしむ。
 けど、今の俺の気持ちは複雑だった。


「それで? 望くんはいつまで寝たふりを押し通すおつもり?」
「……寝てねえよ」
「そんなこと知ってるわよ、誰が寝てるとこの状況で思えるのよ」
「望? 俺に顔を見せてくれないか?」
「……死んでも嫌だ」


 かろうじて、ゾーイへの言葉への反抗と俺へ返事はしてくれているが、望は絶対に起き上がろうとはしなかった。
 真由と顔を見合わせ、どうしたものかと頭を悩ませると……


「長い反抗期。あんたには、この単語が本当にお似合いよ」


 しびれを切らして、ゾーイが望を説得というか……言いたいことを好き勝手に話し始めた。


「本当にいい加減ね、見てるこっちも飽きてくるのよ? 話しかけるな、視界に入るななんて理由で、毎回のように喧嘩されて、また夕食を台無しにされたら、あんたら二人をどうするか、自分でも未知数だわ」
「それは本当に申し訳ないです……」


 そんな事態は避けたいし、絶対に想像したくもないよ……


「そもそも、一生このままなんてゾッとしない? 血を分けた双子でしょ? 唯一無二の存在だって、少しはロマンに浸ったら冷静になれない?」
「何がロマンだよ」
「あと、昴はもう少しドンと構えて、自信持ちなよ」
「え? あ、いやあ……」
「大丈夫だって! 二人には、あんたがヒーローらしいし! その左腕の傷も昴には勲章でしょ? まあ、本人には海より深い傷を作ったみたいだけど」
「は?」


 ゾーイの言葉を聞いて、ようやく望は地面から顔を上げた。
 けど、俺達はもうそれどころじゃなかったんだ。


「え、ゾーイ、それ何か、俺が左腕を怪我した理由を知ってるみたいに聞こえてくるんだけど……」
「そう?」
「ま、真由! お前、どこまで……」
「私じゃないわよ! さすがにそのことは言ってない!」
「じゃあ、誰がこいつに喋んだよ!」
「誰も喋ってないわよ?」


 俺の恐る恐るの問いかけに、ゾーイは否定しなかった。
 そうなると誰が喋ったかになり、真由しか考えられなかったけど、当の本人は言ってないと言うし、望は怒鳴るし……
 そんな俺達の言い争いにまた終止符を打ったのは、ゾーイで……何て?


「真由が喋ったのは、昴の怪我と望の反抗期のことをざっくりとよ。けど、話を聞くとその二つの時期は重なってるってわかったの。そうなると、昴の左腕の怪我の原因にこうなった理由があるって予想しただけよ。どうやら、あんたらの動揺っぷり見ると、正解みたいね?」


 ここまでくると感動すら覚える、あと俺達の無駄な足掻きが無様すぎて……


「まあ、お膳立てはここまで。あとは適当にやっといて」
「え? まっ、ゾーイ!? ねえ!?」


 ゾーイは言いたいことを言って、自分のやりたいことをやって、場を荒らすだけ荒らして、今度こそ立ち去ったのだ。
 その場に残されたのは、俺と望と真由の三人だけになった。
 どうすんだよ、この気まずさを!


「……望! 何で、変わっちゃったの」
「は?」
「真由……もっと聞き方が……」
「散々遠回りしたわよ! けど、今度こそは、ゾーイがくれたこの時間は、絶対に無駄にしたくないの!」


 意を決した真由は、まさかのいきなり本題に入ろうとしていて、望はびっくりしてるし、俺は慌てて間に入る。
 けど、真由は今にも泣きそうな顔で俺と望にそう叫ぶのだ。
 遠回りか……散々待ったもんな。


「望? まさか、俺の左腕の責任とか感じてるんじゃないだろうな?」
「……うるせえよ」
「あれは、お前のせいじゃないぞ?」


 俺達が十三歳の秋に、それは起こってしまった。
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