エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑵ デルタとソニア

スリルなんていらないよ

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 望との一件から二週間ほど経った時にその事件は起こった。


「出たあああああ!!!!」
「ゆ、ゆゆ、幽霊だあああああ……!!」


 闇に月夜が輝くその時間に、似つかわしくない叫びが森中に響いたのだ。
 遠く、狼の遠吠えが聞こえていた。


 ***


「それで、真夜中も真夜中にあたし達を大声で叩き起こしておいて、その理由が幽霊を見た? 海に沈められたいの?」
「わ、悪かった……それは謝る……!!」
「ゾーイ、お願いだ……さっきの私達は冷静ではなくて……」
「あ? 何つった?」
「申し訳ありませんでしたあああ!!」
「命だけは! どうか、命だけは……!!」


 泣く子も黙るゾーイの鬼の形相に、俺達はすっかり頭が冴えていた。


「まあ、ゾーイが怒る気持ちも、すごくわかるけどね……」
「けど、あれは子どもが見たらトラウマレベルだよね? 忘れたけど、昔見た妖怪特集とかに出てた気がするもん」


 真由が苦笑いでゾーイを擁護する隣では、橘さんが無邪気な発言をしている。
 俺達はシンとハロルドの叫びで飛び起きて、すぐにランプを片手に二人のもとに向かった。
 空島は眠らない島だった。
 夜でもまるで昼間のように、ほとんどの空島では明るかった。
 けど、ここはそうじゃないんだ。
 夜になれば途端に真っ暗で、月や星が出ているからといっても、右も左もそこに何があるかわからないほどだ。
 だから、夜は絶対にこのワンニャン王国から出てはいけないと、レオ達からキツく言われている。
 正直、俺達はいまだに真っ暗な空間に慣れなくて、夜は王国内を出歩くのも少し勇気がいる。
 けど、あの時は何かあったのかと、本当に全員が気が気じゃなかったと思う。
 ゾーイは一番にランプを持たず、教会を飛び出したほどだったし。
 しかし、到着すると二人は温泉施設の前で腰を抜かしており、事情を聞くと幽霊だと……
 まあ、今ではゾーイに対して腰を抜かしてるけど。
 収拾つくのか、続々と犬族と猫族も集まって来ちゃってるぞ……


「はあ……何かと思えば、幽霊って」
「う、嘘じゃねえんだよ! 頼むよ、信じてくれってば!」
「この目ではっきり見たんだ!」


 ゾーイは眠さと呆れで、珍しくため息をついていた。
 うん、いつもはゾーイがため息を俺達につかれてる側だから、新鮮だな。
 けど、そんなゾーイを見上げるように地面に土下座スタイルのシンとハロルドは、必死に懇願する。


「実に非科学的です。失礼ですが、私は眠らせてもらいますので」
「あ、ごめんなさいね? 私も今日は疲れてしまって……」
「私も休ませてもらいます」
「僕も! 明日は、少し早いから……」


 どうやら、話が長くなりそうだなと察したのか、モーリスを皮切りにして、クレア、ローレンさん、ジェームズが一足先に教会に帰って行った。


「昴、どうするよ?」
「うーん……とりあえず、最後までは見届けようかな? あの三人だけを残すのは後が怖いし……」
「確かに同感だな……了解」


 サトルに尋ねられ、俺は包み隠さず本音を言った。
 それにサトルも苦笑いで頷く。
 この三人を残してどうなるかなんて想像もしたくないけど、十中八九後始末は俺かサトルに回るんだし、その可能性は排除しておきたいよ……


「聞くだけは聞くけど、その幽霊ってのはどんなだったの?」
「あ、えっと! 女だった!」
「髪が長かったんだ!」
「どこにいたの?」
「そこがまた驚きなんだよ!」
「何と、男湯なんだ! 湯船に長い髪の女の幽霊が浸かってたんだ!」


 ハロルドの言葉を聞くと、途端に全員それぞれがざわつき始めている。
 空島にも、地上時代から続く怪談話や幽霊という文化は、まだマニアの中ではしぶとく残っている。
 けど、約千年分の科学技術が発展した空島では、ほとんどのホラー作品は下火になっているというのが現状だ。
 それに、もしかしたらここ何年かで生まれた子ども達なんて、幽霊って言葉を知らないんじゃないだろうか?
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