エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
63 / 257
第三章-⑵ デルタとソニア

幽霊なんていてたまるか

しおりを挟む
「レオ、本当にゾーイが無理を言ってごめんな?」
「全然大丈夫。何かは知らないけど、結構深刻な話をする感じなんだろ?」
「うん、まあな……」
「それなら、やっぱり、みんながいる教会よりはここの方がいいよ」
「本当に助かる! もしかしたら、結構長引くかもなんだけど……」
「気にしないでくれ、今日はコタロウの家に泊まるから。じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」


 レオは手だけでなく、しっぽまでも振って俺におやすみと言ってくれた。
 そんなレオの背中を見送り、俺は家の中に入る。
 無理を言って貸してくれたレオの家に今は、俺、ゾーイ、レイモンド兄妹の計四人がいる。
 昨日ゾーイが言ったように、昨日のことをはじめとしたその他もろもろのことを話し合うこの場は、いつも通りのゾーイの有無を言わさぬ態度から設けられることとなった。
 このメンバーの中に俺がいるのは、不本意にもゾーイについて行ってデルタの秘密を知ってしまったことから。
 ゾーイに強制参加だからと、あの目で言われたら断れるわけもなく……
 しかも、事が事だから他言無用で。
 ただでさえ、ソニアの引っ掻き傷が顔中にあるってのに、夜は遅くなるから先に寝てろなんて言おうものなら、もれなく全員に理由を詰められた。
 特に真由、サトル、望の三人は本当に言いくるめるのが大変だったし、きっと今も納得はしていないだろう。
 昨日の自分に言ってやりたいよ……
 頼むから、気になるだろうが、絶対にゾーイについて行くなと……


「何を突っ立ってんの? 座れば?」


 そして、そもそもの元凶であるゾーイは早くも我が物顔で、俺達に座れと言うマイペースっぷりを発揮する。
 ここはレオの家のはずだけどな……
 まあ、そんな言葉がゾーイに通じるわけもないので、俺は大人しくゾーイの隣のイスに座る。
 レイモンド兄妹も諦めたようで仕方なく、テーブルを挟んだ俺達の向かい側に並んで座る。


「さてと、それじゃ、回りくどいのは面倒だから、さっそく本題に入るわね」
「言っとくけど、話すってことを了承をした覚えはないけど?」


 ゾーイの言葉に、デルタは腕を組んで不気味な笑みを浮かべて挑発する。
 臨戦態勢バッチリという感じで……
 本当に見た目は女だけど、声とかは完全に男だよな……本当に慣れないよ。


「あらま、そんなこと言っちゃって大丈夫なの? じゃあ、今から実はデルタは男でしたって言いふらして来るけど?」
「は?」
「ま、待ってよ、ゾーイ! 昨日の夜は何もしないって……」


 そして、ゾーイはその喧嘩を買う気のようだ。
 まさかの言葉に、秒速でレイモンド兄妹は反応する。
 今のソニアの顔なんて、真っ青だ。


「ソニア? それは昨日のあたしの言葉よ? 心は移ろいやすいのよ、乙女心と秋の空って言うでしょ? それに、当の本人のデルタが非協力的だしね?」
「そ、そんな……!!」
「……俺を脅す気か?」
「そう捉えてくれて構わないけど?」


 さっきまでの平和的に話し合おう的な雰囲気が、一瞬で消し去られる。
 まさかの急展開による一触即発で、ソニアは泣きそうだし、ゾーイとデルタは無表情で睨み合っている。


「す、ストップ! 二人とも、ちょっと落ち着こう! 冷静に……そうだろ? ゾーイ、とりあえずはゾーイの考えとかを先に話した方がいいと思うよ?」


 このままじゃ血を見ることになると思った俺は、慌ててゾーイとデルタの間に入って話題を逸らす。


「あたしの考えを?」
「そう! どうして、昨日の夜に温泉に忍び込んだのか! そもそも、デルタが男って何で気付いたのか! 無断で秘密を暴いちゃったわけだし、ここは先にゾーイから歩み寄るというか……」
「あー、それもそうね? わかった」


 わかってくれて、よかった……本当によかった!
 まだ何も始まっていないのに、俺にとってひと仕事終えた感満載だった。


「昨日のあれは、幽霊の正体の答え合わせをするためよ」
「ゆ、幽霊?」
「三日しか経ってないわよ? さすがに覚えてるわよね?」
「え? 三日って……シンとジェームズの騒動のことぐらいしか……ああ!」
「思い出した? ついでに、騒動の謎が解けたって感じ?」
「う、うん……!」


 あの時シンとジェームズは、男湯で女の幽霊を見たと言っていた。
 そっか、その幽霊っていうのは温泉に入っていたデルタのことだったのか!
 あれ、待てよ、あの時そういえば……


「そうか! だから、あの時、デルタとソニアは途中から現れたんだね!?」
「おお、そこまで気が付いてたんだ」


 俺の言葉に、ゾーイは意外だと驚いたような顔を向けていた。
 一方で、レイモンド兄妹は揃って罰が悪そうな顔で俺から目を逸らしていた。


「けど、ゾーイ? 何で、昨日デルタが温泉にいるってわかったの?」
「三日が限界かなって思ったの」
「え?」
「人間って、どんなことでも習慣とかが狂うといつも通り調子は出ないし、イライラするのよ。特に温泉に入らないとスッキリしないし、何か気持ち悪くなってくるでしょ? だから、せいぜい我慢できて三日かなって思ったのよ」


 本当に、ゾーイの考えって先々のことまで及んでるんだな……
 全然追い付ける気がしないや。


「……やっぱり、ゾーイの第一印象はそのままだったな」
「あら、どんな印象よ?」
「敵には回したくないって印象だよ」
「随分、物騒だこと」
「……隠したってしょうがねえか、結構長くなるぞ?」


 どうやら、デルタは逃げられないと観念したようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...