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第三章-⑵ デルタとソニア
ハードな生活には若頭が似合う
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「うちはソニアが生まれてすぐに父親が死んでからは母親、俺、ソニアの三人で生きてきた。けれど、俺が十三歳、ソニアが十二歳の頃に母親も病気で死んで、俺とソニアは文字通り路頭に迷ってその日暮らしをするしかなくなった」
険しい顔で、デルタは自分の人生を語り始めた。
俺とゾーイは黙って聞いていたが、ソニアはデルタの隣で俯いていた。
「特にうちの空島は圧倒的に治安が悪かったからな……俺達だけで生きるのは、結構ハードなことだったよ」
「デルタ……」
「何かっていうと、ソニアが標的になることが多くてな……けど、まだ子どもだった俺には、女装してソニアから目を背けることぐらいでしか、こいつを守ることができなかったんだ」
十三歳なんて、まだまだ親に守られて生きている頃だ。
自分の家があり、学校に行って、明日の食事に困ることなんてなく、寝る時は暖かい布団の中。
そんな風に平凡でとても幸せな生活を送ってきた俺が、デルタとソニアの生活を想像するなんて、何だかすごく傲慢なように感じた。
「どんな汚いこともやったぜ? 俺達は生きることに必死だったんだ」
「汚いことって……」
「昴、本当に聞きたいのか? 好奇心だけだったら、やめとけよな」
デルタは俺にそう忠告すると、自分に対して、自嘲気味に笑っていた。
思わず溢れた疑問だったけど、こんなこと聞いて何になる……アホかよ。
俺は体を引いて、俯くしかなかった。
「別にいいわよ。あんたらって、あのアイランド63の出身なんでしょ? 想像ぐらい付くし」
「まあ……あれ、そういえば、ゾーイの出身の空島はどこなの?」
ゾーイがサラッと流したことに対して苦笑いで答えるソニアだったが、思い出したかのようにゾーイに問いかける。
確かにそういえば、ゾーイの出身って聞いたことなかった……というか、出身以前に、俺達ってゾーイのことをほぼほぼ知らないんだよな。
そんなことを思ってゾーイの方を見ると、ゾーイにしては珍しくなぜか言いよどんでいるようだった。
「……アイランド77」
「77? 聞いたことないけど……」
「そりゃあね。何もなくてつまらない空島だもの。ていうか、あたしのこととかどうでもいいから、早く続き」
ゾーイがそう言ったことで、ゾーイの出身だというアイランド77の話は終わってしまった。
まあ、話題がズレたから軌道修正したって感じなんだろうけど……
俺には、ゾーイがわざと話を逸らしたような気がしてならなかった。
「まあ、アランに出会うまでの生活は地獄そのものだったよ」
「アランに?」
「ロジャー家って裏社会では結構名前が通ってるらしくて、特にアイランド63の中では絶大な勢力を誇ってる。アラン自身も、ナサニエルに入学するまでは無法地帯のボスに君臨してたんだ」
「へ、へえ……」
「なーんだ、実は王子様でしたよとかだったら驚いてあげたのに。本当に、意外性のない男だわね~?」
デルタが話してくれたアランのエピソードは、見た目通りで、予想通りのものばかりだった。
そういうこともあり、俺は曖昧な返事しかすることができなかったけど、ゾーイは違う。
「意外性って言われてもな……」
「ある意味では、王子様というか……」
「いやいや、アランには王子様より若頭とかの単語の方がお似合いでしょ?」
ゾーイの言葉に、レイモンド兄妹は顔を引きつらせながらも何とかフォローを試みる。
けど、それはやっぱりゾーイによって一蹴されてしまうのだった。
まあ、ゾーイの言いたいこともわかるけど、それを言葉にするのはね……?
「ていうか、あの幽霊騒動の様子からだと、シンはデルタの正体知らないっぽかったけど、アランはどうなの?」
「え? あ、ああ……知ってるよ」
「もっと言うと、ナサニエルに入学する前から、アランしか知らなかったの」
どうにかこの話題から別の話題に切り替えようと、俺の頭がフル回転している時、まさかのこの微妙な空気の原因のゾーイの方から話題を変えてきた。
あまりに突然すぎる話題転換に動揺を隠せないデルタが答えると、それをフォローするかのようにソニアが続く。
というか、アランしか知らないのか。
「何で、あいつだけなの? デルタに夜這いかけてそれでバレたとか?」
しかし、そんな疑問も吹き飛ぶほどの爆弾をこのゾーイは落とす。
文字通り、本当に誰も動けなかった。
何か、動いたらどうしようもなく後悔をする気しかしなかったからだ。
「はあ……冗談通じないわね。そんなに殺気を出さないでくれます?」
すると、突然ゾーイがため息と共に俺達の誰とも目を合わせず、そんなことを言い出した。
え? 誰かに言ったのか? 独り言にしては、はっきりとしすぎだよな?
そんなことを考えていると、後ろでガタッと何か音がしたので、俺は反射的に振り返ってみる。
けど、今度はその音の正体に固まることになった。
「あ、アラン……!?」
険しい顔で、デルタは自分の人生を語り始めた。
俺とゾーイは黙って聞いていたが、ソニアはデルタの隣で俯いていた。
「特にうちの空島は圧倒的に治安が悪かったからな……俺達だけで生きるのは、結構ハードなことだったよ」
「デルタ……」
「何かっていうと、ソニアが標的になることが多くてな……けど、まだ子どもだった俺には、女装してソニアから目を背けることぐらいでしか、こいつを守ることができなかったんだ」
十三歳なんて、まだまだ親に守られて生きている頃だ。
自分の家があり、学校に行って、明日の食事に困ることなんてなく、寝る時は暖かい布団の中。
そんな風に平凡でとても幸せな生活を送ってきた俺が、デルタとソニアの生活を想像するなんて、何だかすごく傲慢なように感じた。
「どんな汚いこともやったぜ? 俺達は生きることに必死だったんだ」
「汚いことって……」
「昴、本当に聞きたいのか? 好奇心だけだったら、やめとけよな」
デルタは俺にそう忠告すると、自分に対して、自嘲気味に笑っていた。
思わず溢れた疑問だったけど、こんなこと聞いて何になる……アホかよ。
俺は体を引いて、俯くしかなかった。
「別にいいわよ。あんたらって、あのアイランド63の出身なんでしょ? 想像ぐらい付くし」
「まあ……あれ、そういえば、ゾーイの出身の空島はどこなの?」
ゾーイがサラッと流したことに対して苦笑いで答えるソニアだったが、思い出したかのようにゾーイに問いかける。
確かにそういえば、ゾーイの出身って聞いたことなかった……というか、出身以前に、俺達ってゾーイのことをほぼほぼ知らないんだよな。
そんなことを思ってゾーイの方を見ると、ゾーイにしては珍しくなぜか言いよどんでいるようだった。
「……アイランド77」
「77? 聞いたことないけど……」
「そりゃあね。何もなくてつまらない空島だもの。ていうか、あたしのこととかどうでもいいから、早く続き」
ゾーイがそう言ったことで、ゾーイの出身だというアイランド77の話は終わってしまった。
まあ、話題がズレたから軌道修正したって感じなんだろうけど……
俺には、ゾーイがわざと話を逸らしたような気がしてならなかった。
「まあ、アランに出会うまでの生活は地獄そのものだったよ」
「アランに?」
「ロジャー家って裏社会では結構名前が通ってるらしくて、特にアイランド63の中では絶大な勢力を誇ってる。アラン自身も、ナサニエルに入学するまでは無法地帯のボスに君臨してたんだ」
「へ、へえ……」
「なーんだ、実は王子様でしたよとかだったら驚いてあげたのに。本当に、意外性のない男だわね~?」
デルタが話してくれたアランのエピソードは、見た目通りで、予想通りのものばかりだった。
そういうこともあり、俺は曖昧な返事しかすることができなかったけど、ゾーイは違う。
「意外性って言われてもな……」
「ある意味では、王子様というか……」
「いやいや、アランには王子様より若頭とかの単語の方がお似合いでしょ?」
ゾーイの言葉に、レイモンド兄妹は顔を引きつらせながらも何とかフォローを試みる。
けど、それはやっぱりゾーイによって一蹴されてしまうのだった。
まあ、ゾーイの言いたいこともわかるけど、それを言葉にするのはね……?
「ていうか、あの幽霊騒動の様子からだと、シンはデルタの正体知らないっぽかったけど、アランはどうなの?」
「え? あ、ああ……知ってるよ」
「もっと言うと、ナサニエルに入学する前から、アランしか知らなかったの」
どうにかこの話題から別の話題に切り替えようと、俺の頭がフル回転している時、まさかのこの微妙な空気の原因のゾーイの方から話題を変えてきた。
あまりに突然すぎる話題転換に動揺を隠せないデルタが答えると、それをフォローするかのようにソニアが続く。
というか、アランしか知らないのか。
「何で、あいつだけなの? デルタに夜這いかけてそれでバレたとか?」
しかし、そんな疑問も吹き飛ぶほどの爆弾をこのゾーイは落とす。
文字通り、本当に誰も動けなかった。
何か、動いたらどうしようもなく後悔をする気しかしなかったからだ。
「はあ……冗談通じないわね。そんなに殺気を出さないでくれます?」
すると、突然ゾーイがため息と共に俺達の誰とも目を合わせず、そんなことを言い出した。
え? 誰かに言ったのか? 独り言にしては、はっきりとしすぎだよな?
そんなことを考えていると、後ろでガタッと何か音がしたので、俺は反射的に振り返ってみる。
けど、今度はその音の正体に固まることになった。
「あ、アラン……!?」
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