エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑶ ジェームズとコタロウ

鶴なんかより亀なんかより

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「まあ、春とか秋に比べたら大変なことはあるにはあるけれど、それも冬の間だけだから、すぐだよ」
「約三十日ぐらいの辛抱かしらね?」


 けど、レオとモカは何でもないというように笑いながら答えていた。
 あれ、待ってくれ?
 そう思って食べるのをやめたのは俺だけではなかったようで、俺は近くにいるサトル、真由、望と目を見合わせる。


「え、待って? 地上の冬って、そんな短いの?」


 真っ先に反応して、レオとモカにそう驚いたように問うのはゾーイだった。
 ただし、りんごを右手に、フライドチキンを左手に持ちながら。
 ねえ……本当に驚いてるのかよ……


「そうだよ。というより、冬が短い以前に、気付いたら春がすぎて、あっという間に夏が来てるかな」
「そうね……数えると、六か月くらいは夏みたいなものだしね」
「ろ、ろろっ、六か月が夏!?!?」


 レオとモカの言葉に、ハロルドはその場でひっくり返っていた。
 そう、これが驚くってことだよ……


「じゃあ、ずっと暑いってこと!? よりによって最悪!」
「本当よね……地上と空島で、そこまで環境が違ってくるものなのかしら?」


 橘さんはシンプルに感想を叫んで絶望していたけれど、それを聞いた真由は返答しつつ、表情は困惑そのものだった。
 まあ、頭が混乱しているのはほとんどの人間が同じだと思うけど……


「そんな焦ることか? 赤道付近とかだったら、ありえない話じゃなくね?」
「そうだけど……僕の歴史での地理の授業の記憶が正しければ、日本は空島と同様に四季がある国だったはず……」


 シンの疑問に、サトルが神妙な顔で答えていた。


「あれじゃないのか? 地殻変動で、日本の位置が変わったとか……」
「それか、地球温暖化が進んだとか!」
「地殻変動は……多分ないわ。ここ数百年の間で、そんなことが起きるほどの大災害などの現象はないもの……」
「温暖化については百パーセントで否定はできませんが、それだと地上と空島での環境の変化の説明がつきません」


 デルタが絞り出すように呟く横で、ソニアが元気よく手を挙げて発言をする。
 けど、すぐにクレアが苦笑いでデルタの意見をやんわりと、続くモーリスも考え込みながら、それぞれ否定する。


「昴、何か原因とかわからねえのか?」


 そんな不気味な地上の環境問題の討論に行き詰まってしまった時に、望がそう俺に尋ねてきた。


「あー、けど……やっぱり、考えられるのは第三次世界大戦の影響で地上の環境破壊が進んだってことかな。元々、山と地上ですら気温とか、その他の環境が違っていたし……極端だけど、まったくありえない話でもないとは思う」


 はっきりしたことが言えずに、俺は申し訳なくなる。
 あとどれくらい、この地上には衝撃の事実が隠れているのかと……情けないことに、俺は意気消沈してしまっていた。
 その場の空気も重くなっていく。
 けど、そんな空気をいつだって君は変えていくんだね……


「それじゃ、冷蔵庫作らなきゃね」
「は?」


 思わず、俺はそんな声が出てしまったけど、誰もがそうなると思うんだ。


「いやいや、何をみんな揃ってそんな間抜けな顔してんのよ。話の流れからして真っ先に出てくるでしょ」
「どの流れかを説明しろよ……」


 その場にいた全員が、また始まったよと言いたげにゾーイに注目する。
 ゾーイは、信じられないというような言葉を俺達に浴びせる。
 けど、そのすぐ後に発せられた望の言葉が俺達全員の総意だと思う。
 まあ、通常運転でそんな俺達の心の声を置いてけぼりにして、どんどんゾーイは話を進めていくわけで……


「だって、絶対冷蔵庫は必要よ? 夏の茹だるような暑さが半年も続くとか、下手したら毎日食中毒が発生して、夏の終わりには王国の人数が三分の一とかになっちゃうわよ?」


 まあ、確かにそうだ……夏の暑さが空島と変わらないか、もしくはそれ以上だとしたら、食料は数時間で悪くなる。
 冬より夏の時期に食料問題が発生するとは、予想外だったな……

 
「あ、その心配はないよ? 夏特有の食料保存方法があって、乾燥したり、塩を使ったり、果物や野菜はジャムとか発酵させると腐らないでいてくれるんだ」
「もちろん、ゾーイ達の全員の食料も準備するわよ? このぐらいの人数なら増えても平気だから」
「さすがは地上の民だ! 助かった!」


 けど、ゾーイの最悪の想定を、レオとモカは優しく否定してくれた。
 天の助けだとでも言うようなレベルの割れんばかりの拍手喝采が、ハロルドの叫びを皮切りに響き渡る。
 しかし、そんな風に俺達が安心して笑っていたのも束の間……


「盛り上がっているとこ悪いけど、あたし半年も食べ物が塩漬けとジャムとか無理だから、普通に飽きる」


 鶴の一声どころか、それ以上の効果を持つゾーイの一声だった。
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