エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑸ クレアとハロルド

あの子はあいつが君は誰が

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「それにしてもさ、アランって本当に優しくなったよね?」
「付き合って早々、浮気かよ?」
「そうね、浮気しちゃおうかしら?」


 俺が考えを巡らせてると、隣にそう呟きながら真由が座る。
 俺はそれに軽い感じで返事をして、真由も俺の軽口に乗ってくる。
 そんな何気ないやり取りを楽しんでる時に、君という名の嵐はやって来た。


「皆のもの、控えおろう~!」


 談話室の扉をすごい勢いで開け放ったゾーイは、なぜか体のあちこちに葉っぱをくっ付けていた……え、何事?
 全員の視線が、一瞬にしてゾーイに釘付けとなる。
 すると、ゾーイの帰宅のタイミングを見計らっていたかのように、デルタとソニアがキッチンから現れたのだ。


「ゾーイ、今日の弁当って……え!?」


 案の定、デルタはゾーイの姿を見て絶句し、ソニアも目を見開いていた。


「デルタ、ありがとう! 今日の弁当の中身は?」
「いやいや、そんなことより! それはどうしたんだよ!?」
「は? 何がよ?」
「葉っぱに決まってるだろ! そこら中にくっ付いてる、その葉っぱ!」


 何食わぬ顔をしてそのまま普通の会話を始めたゾーイに、たまらずにデルタが待ったをかける。
 瞬間に心底面倒くさそうな顔をしたゾーイだったが、どう考えてもその反応はおかしいからね? 説明必須でしょ!?


「ああ、練習中についたんだよ」
「練習って、運転のだよな!? 一体、何をどうしたら大量の葉っぱがくっ付いてくるんだよ!?」
「だって、練習も実戦形式でのスリル満点の方がよくない?」


 ゾーイは面倒くさそうに答えたが、その回答には違和感しかなかった。
 すかさず、その答えにデルタがツッコミを入れてたが……実戦形式のスリル満点って何? ゾーイ、君は運転の練習で何をしているの!?
 本気でコタロウが心配になるが、その後の展開にそんな心配は吹き飛んだ。


「少しは落ち着けよ、お前は」


 アランがおもむろに立ち上がり、そのままゾーイの前に立つと……


「失礼ね? 普通に生きてるだけよ!」
「じゃあ、普通にするな」
「その理論、無茶苦茶だからね!?」


 ゾーイとアラン以外の視線は、二人にしか注がれていなかった。
 二人にいたってはいつも通りの軽めの言い合いって感じだし、おかげでその光景が異常さを増した……
 アランは優しく丁寧な手際で、ゾーイにくっ付いていた全部の葉っぱを取ってあげていたのだ。


「何か、髪までぐちゃぐちゃだぞ?」
「そうなの? 見えないからさ」
「はあ……この葉っぱ持って、大人しく後ろ向いとけ」
「了解の助で~す!」


 おまけに、アランは取りきった葉っぱをゾーイに手渡し、乱れたゾーイの髪を直してあげる始末だ。
 あの一件から、アランは明らかに変わったが、その中でも大きく変わったのはゾーイに対する態度だった。
 以前のアランは、同族嫌悪ってわけではないけど、どちらかというとゾーイのことを避けていたと思う。
 けど、今となってはアランは何かとゾーイの世話を焼くようになった……
 そして、正直俺はこの目の前の光景に気が気ではなかった。


「……ゾーイ! あなた、また自動車を修理送りにするつもり!?」


 案の定、俺の予想通りの展開へ進もうとしていた。


「あー、あれは不可抗力っていうか、未来への架け橋っていうか?」
「本当にあなたって……こっちにどれほど迷惑がかかるか、わかってるの!?」


 普段の冷静さはどこへやら、感情丸出しの状態で、クレアはゾーイのことをこれでもかというほど睨みつける。
 そう、ゾーイのことを怒鳴ったのはクレアだ。


「まあ、持ちつ持たれつの関係って人間関係の基本じゃない?」
「……本当にいい加減にしてよ!!」
「クレア!? 待ってくれ!」


 通常通りのゾーイの態度にますます苛立ったのか、クレアはバンッと激しくテーブルを叩いて立ち上がる。
 そして、そのままハロルドの制止の声をまったく聞かず、談話室を出て行ってしまったのだった……


「あらら、我らがリーダーはご立腹だ」


 まあ、怒鳴られた本人のゾーイがその調子だから、談話室の空気はますます気まずくなった……
 元々、クレアはゾーイにどことなく不信感を抱いていた節がある。
 まあ、見るからに考えとか性格が正反対な二人だし、クレアは自分勝手で無茶苦茶なゾーイのことが理解できないのだと思う。


「じゃあ、あたし、練習してからそのまま狩りで夕方まで戻らないから!」


 きっとゾーイは気にはしてないだろうけど……
 その証拠に、すぐに気を取り直し、ゾーイはそう告げ、俺達の言葉を待たずに談話室を出て行ったのだ。
 とにかく、そんな風に元々微妙な関係を保っていたクレアとゾーイに追い討ちをかけたのが、アランの存在だ。
 クレアがアランに恋をし、さらに突然のアランのゾーイへの構いっぷりから、クレアのゾーイへのマイナスの感情に嫉妬までもプラスされ、最近のクレアのゾーイへの態度はますますキツくなった。
 その度合いは見ていて、不安になるほどのものだった……


「お前、少し顔貸せ」
「アラン……俺も話があるんだ」


 すると、ゾーイが出て行ってからすぐにアランに声をかけたのは、睨みつける望と、気まずそうなデルタだ。
 そんな二人の申し出にアランは……


「話はここでしろよ。全員の前で」


 無表情で、全員を見渡しながら、そう言い放ったのだ。
 そう、今の俺達の抱える問題はゾーイを中心に巻き起こされる、複雑に絡み合った恋の行方のことだった――
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