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第三章-⑸ クレアとハロルド
子守唄ではないですよ
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「望くん、今絶対惚れ直したよ」
「背中から、もう感激が伝わるわね」
サトルと真由は茶化すように、どこか見守るように頷き合う。
俺もさながら、心は親そのものだ。
ゾーイは無意識のうちの言葉だっただろうけど、望がその言葉にどれだけ安心して、どれだけ君のことを好きになってよかったと思ったか……
ぼんやりと、俺が、今の望はどんな顔をしてるんだろうと考えていた時だ。
「……そっち見てろ」
大きく深呼吸をして、意を決したかのように望はゾーイに呟くけど……
「は? そんなにあたしの顔を見るのが苦痛なわけ?」
望の言葉に、迷わずにゾーイは呆れ半分で聞き返していた。
けど、いくら何でもゾーイの顔を見て話すのが照れくさいとはいえ、自分と逆を向いとけなんて……
真由はがっくりしてるし、サトルも苦笑いで首を振ってるよ、望?
けど、断固として譲らない望に珍しくゾーイの方が譲歩して、言われた通りに逆を向いたのだ。
「これで満足ですか? お坊ちゃま?」
あ、ゾーイ、もう絶対に面倒くさくなってるよね?
「……俺、昴に近付きたいって、追い抜きたいって、物心ついた時からずっと思ってたんだ」
けど、望はそんなゾーイに言い返す余裕もないのか、いつの間にかあんなに渋っていた本題に入っていた。
そして、何よりも、俺は自分の名前が出てきたことに少し緊張していた。
「知ってるけど?」
「俺にとって、とにかく昴は絶対的な存在で、それは今もで……そんな昴が俺のせいで傷ついて、それなら他の奴らは俺と関わったら、取り返しのつかねえことになるんじゃねえかって……」
望は不器用に言葉を紡ぎ、ゾーイは黙ってそれを聞いていた。
「あー! クソッ、まとまらねえ!」
上手く言葉にできずにイラついてる望を見て、俺は、どうしようもなく泣いてしまいたかった。
「そりゃまた、自意識過剰だわね」
そんな望に、ずっと無言だったゾーイは淡々と吐き捨てた。
「はあ!? 何だと!? 俺は真剣に……!!」
「他の連中は知らんけど」
案の定、否定された望は瞬時に怒りをあらわにしたが、それはゾーイ本人によって遮られる。
「少なくとも、あたしは、そんなにヤワじゃないけど? あと、あんたはどこかのドラマの悲劇のヒーローなわけ? ドラマの見すぎ。人間って、そんな簡単にどうにかならんでしょ? それに、昴だって、二度と同じ失敗は繰り返さないでしょうよ」
ゾーイは望に背中を向けたまま、一切の迷いもなく言い切ったのだ。
本当にゾーイ、君っていう奴は……
「まだ、俺に勇気をくれんのかよ……」
変なとこで以心伝心、双子の性ということなのか、奇しくも望が震える声で小さく呟いたその言葉は、俺の思っていたこととまったく同じだった。
けど、聞こえてるはずのゾーイは、その呟きに答えなかった。
「ゾーイ。お前さ、あの時のこと、俺と昴が仲直りした時のこと覚えてるか? あの時、俺……お前にお礼を言ってなかったんだ」
望は、無言のゾーイにいつもと違った穏やかな口調で、問いかけていた。
自然と湧き上がってくるような、何に例えることのできないこの感情。
もしかしたら、俺は自分の知らないとこで、望が一歩を踏み出そうとしてることを寂しく思っているのだろうか……
「俺が知る限りは、これが望の初恋だと思う」
そんな初めての感情を振り切っていくように、俺は二人に向けてそう呟いた。
「そうね。望のあんな優しい声、初めて聞いたような気がする……」
「心地いいけど、どこか切ないな」
真由は驚きと同時にどこか安心したように、サトルは聞き入るようにして望とゾーイから目を離さなかった。
俺はそんな二人を見て、再び望達に視線を戻す。
「お前は、俺にお礼を言う代わりに温泉を作れって言った。あの時は、俺の性格をある程度わかってたから、あんな風に無茶ぶりを、言ったんだろ?」
何も語らないゾーイに、望はさらに言葉を紡ぐ。
子どもの頃、気が弱いくせに意地っ張りで、素直にお礼を言うことと、謝ることが苦手だったくせに……
「お前も前に言ったように、性格はそう簡単に変わるもんじゃねえけど……俺はお前にだけは、ゾーイ・エマーソンにだけは素直でいたいんだ……!!」
必死に言葉を紡いで、一世一代の勇気を振り絞るように、望は吐き出す。
恋は人を変えるって、本当なんだな。
「ずっと謝りたかったし、ずっとお礼が言いたかったんだ……そして、意地張ることもなるべくやめて、俺が今度は、お前の力になりたいんだ!」
全て言い終わると、望は力が抜けたようにその場に座り込む。
「言い切ったな……ふう、息が詰まる」
知らず知らずのうちに俺は息を止めてしまっていたらしく、そのせいで肩で息をすることになってしまった。
「何で、昴が緊張してるのよ?」
「これが、兄心っていうやつだよ!」
「兄って言っても、双子じゃん」
そんな俺に対して、真由は少し笑いをこらえながらツッコミを入れてくる。
まあ、この気持ちは俺にしかわからねえだろうと思っていた時……
「この……!! このクソカス女があああああああああああ!!!!」
大声で叫び出したと思えば、望はそのまま屋上を出て行ってしまった。
は? 俺達が、そんな突然の急展開に動けないでいた時……
「あれ? みんな、まだ来てないの?」
少し遅れてた橘さんが、屋上に入って来たのだ。
とりあえず、お昼だと三人で顔を見合せてから、真由が橘さんの名前を呼ぼうとした時……
「え……ゾーイ? こんなとこで、何で寝てるの?」
俺達にとっての、ミサイル級の爆弾発言が耳に飛び込んできた。
大慌てで、一目散にゾーイのとこまで行き、見下ろすと……
ゾーイが規則正しい寝息を立て、爆睡している姿が、そこにあった。
「……部屋に運ぼうか」
俺からの静かな問いかけに、真由とサトルは疲れたように頷いた。
横では橘さんから、何があったのかと聞かれたけど、今はそれに答える気力が誰も残っていなかった。
望、お前の恋はまだまだ前途多難だと思うよ?
「背中から、もう感激が伝わるわね」
サトルと真由は茶化すように、どこか見守るように頷き合う。
俺もさながら、心は親そのものだ。
ゾーイは無意識のうちの言葉だっただろうけど、望がその言葉にどれだけ安心して、どれだけ君のことを好きになってよかったと思ったか……
ぼんやりと、俺が、今の望はどんな顔をしてるんだろうと考えていた時だ。
「……そっち見てろ」
大きく深呼吸をして、意を決したかのように望はゾーイに呟くけど……
「は? そんなにあたしの顔を見るのが苦痛なわけ?」
望の言葉に、迷わずにゾーイは呆れ半分で聞き返していた。
けど、いくら何でもゾーイの顔を見て話すのが照れくさいとはいえ、自分と逆を向いとけなんて……
真由はがっくりしてるし、サトルも苦笑いで首を振ってるよ、望?
けど、断固として譲らない望に珍しくゾーイの方が譲歩して、言われた通りに逆を向いたのだ。
「これで満足ですか? お坊ちゃま?」
あ、ゾーイ、もう絶対に面倒くさくなってるよね?
「……俺、昴に近付きたいって、追い抜きたいって、物心ついた時からずっと思ってたんだ」
けど、望はそんなゾーイに言い返す余裕もないのか、いつの間にかあんなに渋っていた本題に入っていた。
そして、何よりも、俺は自分の名前が出てきたことに少し緊張していた。
「知ってるけど?」
「俺にとって、とにかく昴は絶対的な存在で、それは今もで……そんな昴が俺のせいで傷ついて、それなら他の奴らは俺と関わったら、取り返しのつかねえことになるんじゃねえかって……」
望は不器用に言葉を紡ぎ、ゾーイは黙ってそれを聞いていた。
「あー! クソッ、まとまらねえ!」
上手く言葉にできずにイラついてる望を見て、俺は、どうしようもなく泣いてしまいたかった。
「そりゃまた、自意識過剰だわね」
そんな望に、ずっと無言だったゾーイは淡々と吐き捨てた。
「はあ!? 何だと!? 俺は真剣に……!!」
「他の連中は知らんけど」
案の定、否定された望は瞬時に怒りをあらわにしたが、それはゾーイ本人によって遮られる。
「少なくとも、あたしは、そんなにヤワじゃないけど? あと、あんたはどこかのドラマの悲劇のヒーローなわけ? ドラマの見すぎ。人間って、そんな簡単にどうにかならんでしょ? それに、昴だって、二度と同じ失敗は繰り返さないでしょうよ」
ゾーイは望に背中を向けたまま、一切の迷いもなく言い切ったのだ。
本当にゾーイ、君っていう奴は……
「まだ、俺に勇気をくれんのかよ……」
変なとこで以心伝心、双子の性ということなのか、奇しくも望が震える声で小さく呟いたその言葉は、俺の思っていたこととまったく同じだった。
けど、聞こえてるはずのゾーイは、その呟きに答えなかった。
「ゾーイ。お前さ、あの時のこと、俺と昴が仲直りした時のこと覚えてるか? あの時、俺……お前にお礼を言ってなかったんだ」
望は、無言のゾーイにいつもと違った穏やかな口調で、問いかけていた。
自然と湧き上がってくるような、何に例えることのできないこの感情。
もしかしたら、俺は自分の知らないとこで、望が一歩を踏み出そうとしてることを寂しく思っているのだろうか……
「俺が知る限りは、これが望の初恋だと思う」
そんな初めての感情を振り切っていくように、俺は二人に向けてそう呟いた。
「そうね。望のあんな優しい声、初めて聞いたような気がする……」
「心地いいけど、どこか切ないな」
真由は驚きと同時にどこか安心したように、サトルは聞き入るようにして望とゾーイから目を離さなかった。
俺はそんな二人を見て、再び望達に視線を戻す。
「お前は、俺にお礼を言う代わりに温泉を作れって言った。あの時は、俺の性格をある程度わかってたから、あんな風に無茶ぶりを、言ったんだろ?」
何も語らないゾーイに、望はさらに言葉を紡ぐ。
子どもの頃、気が弱いくせに意地っ張りで、素直にお礼を言うことと、謝ることが苦手だったくせに……
「お前も前に言ったように、性格はそう簡単に変わるもんじゃねえけど……俺はお前にだけは、ゾーイ・エマーソンにだけは素直でいたいんだ……!!」
必死に言葉を紡いで、一世一代の勇気を振り絞るように、望は吐き出す。
恋は人を変えるって、本当なんだな。
「ずっと謝りたかったし、ずっとお礼が言いたかったんだ……そして、意地張ることもなるべくやめて、俺が今度は、お前の力になりたいんだ!」
全て言い終わると、望は力が抜けたようにその場に座り込む。
「言い切ったな……ふう、息が詰まる」
知らず知らずのうちに俺は息を止めてしまっていたらしく、そのせいで肩で息をすることになってしまった。
「何で、昴が緊張してるのよ?」
「これが、兄心っていうやつだよ!」
「兄って言っても、双子じゃん」
そんな俺に対して、真由は少し笑いをこらえながらツッコミを入れてくる。
まあ、この気持ちは俺にしかわからねえだろうと思っていた時……
「この……!! このクソカス女があああああああああああ!!!!」
大声で叫び出したと思えば、望はそのまま屋上を出て行ってしまった。
は? 俺達が、そんな突然の急展開に動けないでいた時……
「あれ? みんな、まだ来てないの?」
少し遅れてた橘さんが、屋上に入って来たのだ。
とりあえず、お昼だと三人で顔を見合せてから、真由が橘さんの名前を呼ぼうとした時……
「え……ゾーイ? こんなとこで、何で寝てるの?」
俺達にとっての、ミサイル級の爆弾発言が耳に飛び込んできた。
大慌てで、一目散にゾーイのとこまで行き、見下ろすと……
ゾーイが規則正しい寝息を立て、爆睡している姿が、そこにあった。
「……部屋に運ぼうか」
俺からの静かな問いかけに、真由とサトルは疲れたように頷いた。
横では橘さんから、何があったのかと聞かれたけど、今はそれに答える気力が誰も残っていなかった。
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