エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑸ クレアとハロルド

スイーツは時に世界を救う

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「だって、久しぶりだよ!? 一刻も早く食べたくて仕方なかったもん!」
「わかった、わかった。じゃあ、そこで待ってろ」
「待ちま~す! 喜んで!」


 キラキラした笑顔を浮かべるゾーイに対し、デルタは愛しそうにゾーイのことを見つめながら座るように促す。
 すると、ノリノリで着席したゾーイを確認してデルタは冷蔵庫へと向かった。
 ちなみにだけど、その冷蔵庫ってのはゾーイがどこかのレストランだった場所の厨房から拾ってきた大型のもの。
 ゾーイ直々の恐怖の命を受けたシンが徹夜で修理した、戦利品である。


「何か、今のゾーイって、いつもとどことなく違くないか?」


 そのゾーイとデルタの光景に、俺は激しすぎる違和感を覚えて、二人に問いかけていた。
 いや、だって、あんなゾーイの純粋な笑顔見たことないよ!?
 ゾーイが笑う時って、何かを企んでる時とか、事が自分の思い通りになった時とか、相手をコテンパンにしようとする時がほとんどだよ!?


「フフン……あの笑顔こそが、ゾーイが一人の女子だったって証拠よ!」


 すると、半分パニックな俺に、なぜか得意気に不敵に笑うソニア。


「え、ジェームズ、どういうこと? 全然わからないんだけど……」
「よし! じゃあ、ジェームズ! あたしの素晴らしい計画を、昴にドンッと説明してあげて!」


 どんなに考えてもソニアの言いたいことが理解できず、俺は助けを求めるようにジェームズに尋ねた。
 すると、またまた得意気にソニアは無駄に芝居がかった感じで、ジェームズにお願いをしていた。


「あー、えっと……昴くん? ゾーイがフルーツを何かと食べてる光景ってよく見ない?」
「は? フルーツって……あ、けど……」


 それを受け取ったジェームズは、俺に突然質問をしてきた。
 初めはわけがわからなくて聞き返そうとしたけど、ふと気付く。
 俺は確かにゾーイとフルーツの組み合わせには、見覚えがあったからだ。
 作業中も、食事の後も、よくゾーイはフルーツをかじっていたような……


「女子って、基本的には甘いもの好きでしょ? それってさ、多分ゾーイも例外じゃないと思うの」
「まあ、ゾーイも女子だしって……」


 そんな光景を思い出していると、ソニアがそう投げかけてくる。
 そこで俺は、そりゃそうだと返事を返そうとして我に返る。
 もしかしてだけど、この展開って……


「デルタね? ゾーイのためにスイーツのこと、すごく研究してたんだ」


 俺の思考を先読みするように、ジェームズは笑顔で俺にそう投げかけた。


「あの富士山って山を見てると、これがめちゃくちゃ食べたくなるのよ!」
「それが食べたかった理由か? 本当に行き当たりばったりだよな?」


 そんなやり取りをしてると、ゾーイは窓から見える地上時代に日本一の山だと言われた富士山を指差し、満面の笑みでそう言い切る。
 そのゾーイに笑いかけながら、シンのお手製の冷蔵庫からデルタが取り出してきたのは……


「プリンだ……まさか、地上でこれが拝めるなんてすごすぎ! 何億年ぶりかのプリンだ~!」
「大げさだな……地上に落ちてから、何億年も経ってないだろ」


 ゾーイが見たことのないテンションで歓喜を上げたのは、プリン。
 あ、富士山とプリン……似てるか?
 それに、ここからじゃあまりよくは見えないけど、あのプリン結構な大きさがあるんじゃないか?


「食べていいの!?」
「何のためにここに来たんだ?」
「それもそうよね? ではでは、いただきま~す!」


 待ってましたとばかりに、嬉しそうにプリンを食べ始めたゾーイのことを、優しげな顔でデルタは見ていた。
 そんな二人を見るだけで、ソニアのゾーイの甘味好きという読みが当たってたこと、デルタがどれだけゾーイを思ってあのプリンを作ったかがわかる。
 確かに、地上に落ちてからの甘味ってフルーツか、そのフルーツを使ったジャムか、砂糖そのものかの選択肢しかなかったし、これは普通に嬉しいよな……
 今までずっと、生きるために、明日の体力のために食べてるって感じで、食事をようやく落ち着いて食べれるようになったのは、本当に最近だしな。
 けど、大成功なその光景に、俺は望を思って複雑な気持ちになってしまった。


「胃袋を掴むのが、何よりの近道よ」


 きっと、そんな俺の感情がソニアに伝わったのか、ソニアは俺の方を向いて得意気に笑うことはなかった。
 本当に、恋って難しくて人生を豊かにしてくれる、残酷なイベントだよな……
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