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第三章-⑸ クレアとハロルド
奇跡と書いて恋と読もう
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本当に油断したら涙が出るほど、俺にとっては共感の思いが強かった。
我が家も、まあクレアほどではないにしても、父が早くに亡くなり、ずっと女手一つで俺と望を育ててくれた母は、どれほど大変だっただろうか……
生活も一般レベルで見たらきっと楽ではなくて、それでも常に母は俺と望のことを優先してくれていた。
俺達には新しい服やゲームを買ってくれるのだが、自分は十年前の服をずっと大切に着ていたり、ボロボロのカバンを使っていたり……
クレアみたいに明確な目標を持つことはできなかったけど、一人前になり、稼げるようになって、早く母を楽させてあげたいとはずっと思っていた。
俺には、クレアの覚悟や思いが痛いほどわかった。
「自分は家族の希望として死ぬ気でナサニエルに入学したから、絶対トップで卒業して夢を叶えるのだと、とても綺麗な希望に満ち溢れた顔で語っていた……」
ハロルドは、あいかわらずの太い眉毛を下げて、穏やかな慈愛に満ちた表情でそう話した。
そのハロルドは、こんなこと言うとあれだけど、すごく大人っぽく見えた。
「それがきっかけで、クレアのことを好きになったのか?」
「え? きっかけとは……え? 私はその時にはクレアに恋をしていたのか!?」
「……ハロルド? まずだ、俺が知るわけもないし、その認識はあまりに恋愛初心者すぎるって……」
何とも言えない空気になり、それを変えようと俺はハロルドにそう問うた。
けど、ハロルドの返事があまりにポンコツすぎて俺は頭を抱えた。
俺に聞かれても……というか、そんな驚かれても……そんなことあるか?
「昴、正気? ハロルドが恋愛上級者に見えるの? そんなこと、モーリスがニコッて笑うぐらいありえないでしょ」
けど、ハロルドのさらに上をいって俺の頭を痛くさせるのが、ゾーイ……
今ハロルドだけじゃなく、関係ないモーリスまで傷付けていったよ?
「う……まあ、とにかく、自分とは正反対な環境で育った彼女のことを、もっと知りたいと思ったことが、正しいきっかけだとは……思うのだ」
「ねえ、てかさ、そんなに個人情報を簡単にベラベラ喋っていいわけ? 告白前に振られるよ?」
明らかに傷付きながらも、ハロルドは早く話を終わらせようと、記憶を手繰り寄せながら話す。
しかし、ゾーイはさらに傷をエグってくるわけで……
ハロルドは、闇の中でもわかるほどに絶望に染まった顔をしていた。
うん、ただでさえ濃い顔が胸焼けを起こすほどの濃さになってる……
「冗談よ。クレアは基本的には冷静に物事を考えられてるから、ハロルドに話をしても大丈夫な奴だと思って話したんだろうし? ついでに、ハロルドもかろうじてバカじゃないから、あたしと昴のことを信じて話したわけでしょ?」
「え? あ……そっ、それはそうだ!」
まあ、ここでゾーイはいたって軽い感じで逸れまくった話を元に戻す。
そんな恐ろしい話題転換のスピードに上手く乗ろうとして、ハロルドは首をブンブン上下に振っていた。
けど、ハロルド気付いてないだろ?
今さり気なく、かろうじてって……確実に傷付けられにきてるからな!?
まあ、そんなこと、いまさら過ぎて言えないけどさ。
「そして、あたしは話さないのが当たり前だとして、昴も話すとしたら大好きな真由ぐらいだろうし、そんな話が広まることもないでしょうよ」
そんなことを思ってると、これまた突然に俺に話の火の粉が飛んできた。
「いや、ゾーイ……急すぎない?」
「は? じゃあ、嫌いなの?」
「待って、待って、そういう意味じゃなくてね!? まず初めに……」
「そうだ! 昴くん、おめでとう!」
惚気みたいなそんなことをあちこちで言いふらすもんじゃないと思って、俺は恐る恐るゾーイに食い下がる。
というか、実際に言いふらしてたら頭おかしいでしょ!?
しかし、俺の勇気ある抵抗は、なぜかハロルドによって遮られてしまう。
「え? あ、ありがとう……そんな、何回も言わなくても大丈夫だぞ?」
まさかお祝いの言葉に怒るなんてことはできず、俺はお礼を言ってからやんわりとハロルドを促してみる。
そもそも、ゾーイの鋭い指摘により真由との関係が付き合ったその日にバレた瞬間に、ナサニエル組やレオ達からはお祝いの言葉をもらっている。
有難いけど、何度も気を遣わせるのは申し訳ないとも思って、そんなことを言ってみたのだが……
「いや、その場の流れじゃなくて、直接君の目を見て、真正面からおめでとうと言いたかったんだ!」
「え? そんな……ありがとう」
ハロルドはまっすぐにそう答え、何て律儀な奴だろうと俺は改めて思う。
「けれど、やはり両想いはすごく身近なことかもしれないが、自分の好きな人が自分のことを好きになる。これって、本当にすごい奇跡だと、私は思うんだ」
そして、ハロルドの素直な眩しすぎる言葉に、俺は胸の奥が締め付けられてるようだった。
今までで一度も、そんな風に考えたことがなかったからだ。
恋愛は絶対とは限らなくて、不透明な代物だ。
確かに、ハロルドの言う通りに俺は奇跡を起こしていて、すごく幸せ者なのではないだろうかと……満天の夜空の下で浸ってしまった。
そして、俺達は朝日が昇るまで屋上で話し続けて、まんまと次の日の朝には寝坊し、お叱りを受けることになった。
まあ、ゾーイだけは通常通りピンピンしてたけどね……
我が家も、まあクレアほどではないにしても、父が早くに亡くなり、ずっと女手一つで俺と望を育ててくれた母は、どれほど大変だっただろうか……
生活も一般レベルで見たらきっと楽ではなくて、それでも常に母は俺と望のことを優先してくれていた。
俺達には新しい服やゲームを買ってくれるのだが、自分は十年前の服をずっと大切に着ていたり、ボロボロのカバンを使っていたり……
クレアみたいに明確な目標を持つことはできなかったけど、一人前になり、稼げるようになって、早く母を楽させてあげたいとはずっと思っていた。
俺には、クレアの覚悟や思いが痛いほどわかった。
「自分は家族の希望として死ぬ気でナサニエルに入学したから、絶対トップで卒業して夢を叶えるのだと、とても綺麗な希望に満ち溢れた顔で語っていた……」
ハロルドは、あいかわらずの太い眉毛を下げて、穏やかな慈愛に満ちた表情でそう話した。
そのハロルドは、こんなこと言うとあれだけど、すごく大人っぽく見えた。
「それがきっかけで、クレアのことを好きになったのか?」
「え? きっかけとは……え? 私はその時にはクレアに恋をしていたのか!?」
「……ハロルド? まずだ、俺が知るわけもないし、その認識はあまりに恋愛初心者すぎるって……」
何とも言えない空気になり、それを変えようと俺はハロルドにそう問うた。
けど、ハロルドの返事があまりにポンコツすぎて俺は頭を抱えた。
俺に聞かれても……というか、そんな驚かれても……そんなことあるか?
「昴、正気? ハロルドが恋愛上級者に見えるの? そんなこと、モーリスがニコッて笑うぐらいありえないでしょ」
けど、ハロルドのさらに上をいって俺の頭を痛くさせるのが、ゾーイ……
今ハロルドだけじゃなく、関係ないモーリスまで傷付けていったよ?
「う……まあ、とにかく、自分とは正反対な環境で育った彼女のことを、もっと知りたいと思ったことが、正しいきっかけだとは……思うのだ」
「ねえ、てかさ、そんなに個人情報を簡単にベラベラ喋っていいわけ? 告白前に振られるよ?」
明らかに傷付きながらも、ハロルドは早く話を終わらせようと、記憶を手繰り寄せながら話す。
しかし、ゾーイはさらに傷をエグってくるわけで……
ハロルドは、闇の中でもわかるほどに絶望に染まった顔をしていた。
うん、ただでさえ濃い顔が胸焼けを起こすほどの濃さになってる……
「冗談よ。クレアは基本的には冷静に物事を考えられてるから、ハロルドに話をしても大丈夫な奴だと思って話したんだろうし? ついでに、ハロルドもかろうじてバカじゃないから、あたしと昴のことを信じて話したわけでしょ?」
「え? あ……そっ、それはそうだ!」
まあ、ここでゾーイはいたって軽い感じで逸れまくった話を元に戻す。
そんな恐ろしい話題転換のスピードに上手く乗ろうとして、ハロルドは首をブンブン上下に振っていた。
けど、ハロルド気付いてないだろ?
今さり気なく、かろうじてって……確実に傷付けられにきてるからな!?
まあ、そんなこと、いまさら過ぎて言えないけどさ。
「そして、あたしは話さないのが当たり前だとして、昴も話すとしたら大好きな真由ぐらいだろうし、そんな話が広まることもないでしょうよ」
そんなことを思ってると、これまた突然に俺に話の火の粉が飛んできた。
「いや、ゾーイ……急すぎない?」
「は? じゃあ、嫌いなの?」
「待って、待って、そういう意味じゃなくてね!? まず初めに……」
「そうだ! 昴くん、おめでとう!」
惚気みたいなそんなことをあちこちで言いふらすもんじゃないと思って、俺は恐る恐るゾーイに食い下がる。
というか、実際に言いふらしてたら頭おかしいでしょ!?
しかし、俺の勇気ある抵抗は、なぜかハロルドによって遮られてしまう。
「え? あ、ありがとう……そんな、何回も言わなくても大丈夫だぞ?」
まさかお祝いの言葉に怒るなんてことはできず、俺はお礼を言ってからやんわりとハロルドを促してみる。
そもそも、ゾーイの鋭い指摘により真由との関係が付き合ったその日にバレた瞬間に、ナサニエル組やレオ達からはお祝いの言葉をもらっている。
有難いけど、何度も気を遣わせるのは申し訳ないとも思って、そんなことを言ってみたのだが……
「いや、その場の流れじゃなくて、直接君の目を見て、真正面からおめでとうと言いたかったんだ!」
「え? そんな……ありがとう」
ハロルドはまっすぐにそう答え、何て律儀な奴だろうと俺は改めて思う。
「けれど、やはり両想いはすごく身近なことかもしれないが、自分の好きな人が自分のことを好きになる。これって、本当にすごい奇跡だと、私は思うんだ」
そして、ハロルドの素直な眩しすぎる言葉に、俺は胸の奥が締め付けられてるようだった。
今までで一度も、そんな風に考えたことがなかったからだ。
恋愛は絶対とは限らなくて、不透明な代物だ。
確かに、ハロルドの言う通りに俺は奇跡を起こしていて、すごく幸せ者なのではないだろうかと……満天の夜空の下で浸ってしまった。
そして、俺達は朝日が昇るまで屋上で話し続けて、まんまと次の日の朝には寝坊し、お叱りを受けることになった。
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