エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑸ クレアとハロルド

一つになったなんて幻想だ

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「俺達の心配を返せや、コラアアアアアアアア!!!!」
「お前は、人騒がせにもほどがあるだろおおおおおおおお!!!!」


 予想通りに、一番にキレたのは望とコタロウだった。
 望はジェームズとシンに、コタロウはレオとモカに、それぞれ抑えられてる。


「本当にいつか殺されるぞ……」
「そうなったなら、まず裁判じゃ勝ち目はないだろうな。十中八九、悪いのはゾーイの方だ」


 デルタが頭を抱え、真っ青な顔でそう呟くと、その隣ではアランが真顔で妙にリアルなことを話していた。


「ごめん、ちょっと目眩が……」
「え!? ま、真由!?」
「大丈夫!? 聞こえてる!?」


 そして、真由がその場に崩れ落ち、それを慌てて、橘さんとソニアが支える。
 真由、めちゃくちゃ一生懸命ゾーイののこと看病してたもんな……


「昴、お疲れ様」
「ああ、サトルか……お疲れ」
「大丈夫か? 今にも魂が抜けそうな顔してるけど……」
「そうもなるって! あの日、ゾーイのこと運んだの俺だぜ!? 本当にあの時は生きた心地がしなかったのに……こんなオチって……!!」


 俺は苦笑いのサトルの目の前で、文字通りに崩れ落ちた。
 その俺の背中を擦りながら、サトルはおかしなことを口にした。


「けど、ぶっちゃけ、今回のこと、全部ゾーイの計算だと思うんだよな」
「え?」
「まあ、さすがに、クレアとハロルドの事故のことは偶然だろうけど……瞬時に考えて、あの状況を利用して仮病だと偽ったんじゃないかな?」
「ま、まさか……」


 俺はサトルの言葉に、苦笑いで曖昧な答えを返すしかなかった。
 仮にサトルの言う通りだとしたら、ゾーイは最初から、クレアに自信をつけさせるためと、ハロルドと仲直りさせるためにずっとケガ人を演じていたということになる……そんなこと、あのゾーイだとしても、さすがに……?


「あ、それとさ、ドアの下敷き三人衆に言いたいことあるんだけど」


 すると、そんな風に俺がまた思考の渦に入っている間に、四方八方からの苦情をかわしてたゾーイが、望、デルタ、アランに向かってそう言い放った。
 そういや、最近のバタバタですっかり忘れてたけど、ここの恋愛問題もあったよな……
 メンバーがメンバーだけに、俺達の注目は自然とそこに集まった。


「あたしさ、お城で大人しく王子様が助けに来るのを待ってるような、人任せのお姫様タイプじゃないのよ」
「は?」
「何だって?」
「……ほう」


 そして、満を持して放たれたゾーイの言葉に望とデルタは聞き返し、アランは含み笑いを返した。
 藪から棒にどういう意味だ?
 けど、理解が追いつかぬまま、ゾーイはさらに言葉を続けた。


「自由でいたいの。だから、誰かのものになる気とかはないから。まあ、来世であんたらが世界を統べるような伝説の存在にでもなってから、出直して?」


 真顔でそう言い放ったゾーイは、そのまま部屋を出て行った。
 あれ、待てよ? 今のって……?


「仲良く振られたな? これで、とりあえずは、恨みっこなしだな?」


 アランは面白そうに、絶望の縁に立たされたような顔の望とデルタに、そう告げたのだ。
 あ、やっぱり、あれって、振られたであってるよね?
 そのアランの言葉を皮切りに、当事者の三人に触れないように、俺を含めた他の全員は、気まずそうに目を逸らした。


「タイミングを考えろよなああ!!」
「心の準備してなかったってのおお!!」


 後ろでは、望とデルタのそう叫ぶ声が聞こえてきた。


 これで大丈夫、俺達はようやく本当に一つになれた。
 この仲間とならば、この先のどんな困難でも乗り越えられる……この時の俺は本気で、そう思っていた。


「モーリス、どこか行くのか?」
「……忘れ物に気付きました」


 ハロルドの質問に、いつも通りにモーリスは素っ気なく答えて、部屋を出て行った。


「サトル、今日の夜会えないかな!?」
「あー、菜々美、ごめんね? 今日は疲れてて……」


 橘さんからの誘いを、手を合わせてサトルは申し訳なさそうに断る。
 残念そうにしてた橘さんだが、すぐに笑顔に戻っていた。


「ゾーイ・エマーソン……本当に、どこまでも油断ならないわ」


 そうボソリとローレンさんは呟き、不穏な空気を残して、部屋を出て行った。
 鈍感なのは、俺だったのだと思う。
 全てがいつも通りだろうと、この前と同じだろうと、目を瞑ってしまった。


「あ、てか、ゾーイ! 暗くなるのにどこ行ったんだよ!」


 俺は部屋の誰かに聞こえただろう声を残して、そのまま部屋を飛び出した。
 家を出て、裏に回ったところに君は空を見上げて立っていた。
 知らなかった、すぐそこまで俺達にとっての最大の困難が訪れようとしていたことなんて……


「……これは嵐が来るな」


 ゾーイ・エマーソン、君以外は――
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