エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
141 / 257
第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

何かが崩れ落ちる音がした

しおりを挟む
「あんたのせいよ!! この偽善者!!」


 聞き覚えがあるのに、まったく聞き覚えのない怒号。
 談話室にいたほとんどの人間が、女子部屋に続いているドアを、思わず振り返っていたのではなかろうか。


「菜々美! 待って! しっかり話し合おうよ!?」
「ついて来ないでってば!!」


 そのドアから出てきたのは、早歩きで今にも泣きそうな橘さんと、焦った顔をした真由。
 まさかとは思ったが、やっぱりさっきの怒号は橘さんだったのだと、俺は再認識した。


「菜々美……え? 喧嘩?」
「あ、二人とも、どうしたの……?」


 すぐさま、ソニアとクレアが心配して二人に駆け寄るが……


「何かあったの? 菜々美?」


 ある人物の呼びかけに、橘さんは体をビクつかせたかと思ったら、そのまま誰とも目を合わせることなく談話室と、家を飛び出して行ってしまった。


「サトル? お前ら何かあったのか?」
「え? あ、いやあ……?」


 シンの言葉に、橘さんの出て行った方向を見つめていたサトルは振り返り、首を捻りながら曖昧に答えた。
 そう、ある人物とはサトルのことだ。
 橘さんはサトルの呼びかけに、一瞬だったけれど、とても傷付いた顔をした。
 そして、そのまま部屋を飛び出したわけで……けど、シンはの質問に答えるサトルの様子からして、本気で理由に身に覚えがないということを感じた。


「あ……菜々美! 追わなきゃ……!!」
「真由、待って! 今の状況で真由が菜々美のことを追いかけるのは、あまり良くないと思うわ……」


 俺は真由の声にハッとして、慌てて引き止めようと、口を開くが……もう既に俺の代わりにクレアが、真由のことを止めてくれていた。
 普段なら橘さんを追いかけるのはどう考えても真由が適任だけど、今みたいなお互いがお互いに冷静さを欠いた状態では、さらにひどいことになる。
 それを理解したのか、クレアの言葉に真由は悲しそうに、小さく頷いていた。


「あ、じゃあ、僕が……」
「サトルくんも……多分なんだけど、今は行かない方がいいと思うよ?」


 そんな様子に、それなら自分が行くと名乗りを上げたサトルだったが、言いにくそうだったジェームズに、やんわりと止められていた。
 俺も、その意見には同感だった。
 あの橘さんのただならぬ雰囲気を見た後では、サトルに連れて帰って来いとはとてもじゃないが言えない。
 多分、他のみんなもそうで、そんな雰囲気を察したのか、サトルもわかったと気まずそうに返事をしていた。


「ごめん、二人とも……代わりに、私が見て来るわ!」
「あ、クレア待って! あたしも!」
「俺も行く。もうすぐ暗くなるからな」


 クレアは気まずそうに謝ると、気を取り直すように、橘さんのことは自分が捜してくると言う。
 そんなクレアに続き、ソニアとデルタの二人も声を上げた。
 あまり大人数で行っても大事になってしまうだろとのことで、俺達は、三人に橘さんのことを頼んで見送った。


「ハロルド! ジェームズ!」


 その見送った直後に、ずっと黙って傍観したままだったゾーイが、ハロルドとジェームズの名前を呼ぶ。
 条件反射なのか、二人とも呼ばれた瞬間にビクッっと肩が跳ね上がっていた。


「ゾーイ、どうしたのだ?」
「何か用事?」
「あのさ、ナサニエルの……あ、やっぱり、そうじゃなくて……」


 気を取り直すようにハロルドとジェームズは、ゾーイに問いかける。
 しかし、珍しいことに問われたゾーイは、何かを言い淀んでいた。
 そんな様子に、俺もだけど、ハロルドとジェームズは不安そうに、ゾーイのことを見る。
 そうして、ゾーイは考えがまとまったとでもいうように向き直り……


「モーリスってさ、今どこにいるとか知ってる?」


 ゾーイからの質問に、ハロルドとジェームズの二人はキョトンとしていた。


「あ、そうだな……ジェームズ、どうだっただろうか!?」
「そこ丸投げなの!? あ、ゾーイ? ごめん、僕達もモーリスが作業時間以外で何をしてるか、わからないんだ。元々、ナサニエルにいた時から、あまり話すタイプでもなかったし……」
「そっか、オーケー」


 ハロルドはポンコツだが、ジェームズはすぐに我に返り、ゾーイに答える。
 けど、二人の反応は、ある意味当然のことのように思う。
 ゾーイから、よりによってモーリスの名前が出てくるなんて、あまりに意外だし、異色だもんな……


「じゃあ、サトル! モーリスの居場所とか知ってる?」
「え? あー、モーリスは……ちょっと知らないかな?」


 すると、次にゾーイは、サトルにモーリスの居場所を聞く……何でだ?
 サトルとモーリスは特に仲が良いってわけでもないのに……ついでに聞いただけかな?


「真由、大丈夫か?」
「あ、昴……どうしよう、私……!!」
「うん、夜に部屋行くよ。そこでゆっくり話を聞く」
「ありがとう……」


 そんなゾーイの様子を気にしつつ、俺は真由の隣に座って手を握った。
 俺の右手を弱々しく握る真由は、泣くのを我慢してるように見えた……本当に何があったんだよ?


「望! お前も、今日の夜は真由の部屋集合な!」
「え? あ、ああ……わかった!」


 そして、俺だけだと、あまり良いアドバイスもできないと思って、俺は部屋を出て行こうとしてた望に声をかけた。
 少し驚きながらも、返事をしてくれた望だったけど……その後に何倍も驚く言葉が、投げかけられた。


「ねえ。あたしも真由の部屋行くわ」
「……え?」


 思わず、自分の耳を疑ってしまった。


「ぞ、ゾーイ、有難いけど……」
「お前、どういう風の吹き回しだよ?」


 次の瞬間には、真由と望まで、俺と同じような反応を見せていた。
 俺達の普段は、ゾーイのもとに集まるといった表現が正しい。
 俺達が集まりに誘うと、本当にたまの気が向いた時は来てくれるが、ほぼほぼ自らの交流はしてはくれないのだ。

 
「別に深い意味とかないけど? 三人寄れば文殊の知恵じゃん?」


 ほぼほぼ確定で何か裏があると俺は思ったが、それを見抜けるほど、まだ俺は君に近付いてはいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...