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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
地獄への招待を君は嘲笑う
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サトルが王に? 何なんだ、モーリスは何を言っている?
「黙れ!! この裏切り者があああ!! その穢れまくった面の皮、必ず、次会った時に剥いでやる!!」
真由を宥めながらでは余計にモーリスの言葉の意味は、俺はわからなかった。
そして、そんな俺の考えがまとまることを目の前の目まぐるしい状況が待ってくれるはずもなく……
モーリスの言葉を聞いたサトルは、より一層の逆上を見せた。
「私を裏切り者だと言うのですか……」
しかし、そんなサトルにモーリスは動揺することもなく、むしろ……え? 少し笑っているのか?
「何だ……何がおかしいんだ? 今のテメーは、何を笑った? ああ!?」
「これは失礼。いや、自分のことをここまで棚に上げる人間もいるのかと思ってしまいまして……」
「あ? 何て言った?」
興奮状態のサトルが相手だと、モーリスの冷静さがとても際立った。
淡々と、どこか面白そうに告げるモーリスの言葉は、とても不気味だった。
てか、棚に上げる? サトルも同じ部分に引っかかったようで、次のモーリスの言葉を待っていると……
「だって、あなたも知っていたではありませんか? 知っていながら、あなたは何もしなかった。それなら、あなたも同罪なのでは?」
「……殺してやる」
「誰か、そのアホ止めて」
モーリスの言葉の後、サトルは一瞬で空気を変えた。
心做しか、部屋の温度が二、三度下がっているような気が……いや、これは気のせいじゃないのかもしれない。
そして、静まり返った空間にサトルの普段より何倍も低い声が響くとほぼ同時に、ゾーイの淡々としたいつもと同じ調子の声が響く。
「離せ!! 今すぐナサニエルに行く!! ナサニエルに行って、このふざけた野郎をこの手でぶっ殺してやる!!」
「離せるか、そんなこと言われて!」
とっさにゾーイの言葉に、俺、望、アラン、デルタ、シンが従ったのは条件反射だったか、本能的にか……
暴れまくるサトルを、男五人がかりで抑えつけて必死に叫ぶのだが、興奮状態のサトルには何一つ無駄だった。
「舐め腐りやが……グハッ!!」
「少しは落ち着け、頭冷やせ、しばらく息するな。全然話が進まないのよ」
そんな状態のサトルに終止符を打ったのは、ゾーイだった。
俺達が抑えつけてるおかげで、まったく身動き取れないサトルに、ゾーイは真正面から鳩尾に拳をめり込んだ。
今、とんでもない音がしたけど……
その場にうずくまるサトルを気にするより早く、ゾーイは通信機を奪い取って淡々とそう告げた。
尋常じゃないよこれ、容赦なさすぎるというか……おかげでサトルは強制的に落ち着いたけど。
「ふん、間抜けだな! ようやく、事の重大さに気付いたのか?」
安心したのもつかの間、通信機からは新たな俺達への敵意むき出しの声が聞こえてきたのだ……この声って!?
「は……? フウ、タ……!?」
「レオ、久しぶりだな? 元気に人間と馴れ合いしてるのか?」
「お前……何で、こんな……!!」
目を見開いたレオが、震える声でそう告げる。
やっぱりと、俺は拳を強く握る。
フウタ……アランとのいざこざで王国を自ら出て行った犬族だ。
「きっと、俺とは近いうちに再会すると思うぜ? その時に、俺はお前の絶望に染まる顔を見るのが楽しみだ」
誰が、こんなに最悪な形で残酷な再会を望んだというのか……
俺達を嘲笑うように、フウタは通信機の向こうでそう吐き捨てた。
「一度しか言わねえ。大事なお仲間に無事でいてほしかったら、お前らが俺達に会いに来な」
罠だと、誰もがわかるそのフウタの言葉は俺達への地獄の切符。
けど、行かなければ、橘さん、クレア達、他のナサニエルの生徒も、どんな目に遭わされるか……
最悪な光景しか浮かばず、その場の空気がドン底に沈んだ時……
「あらま、ご丁寧にどうも? 直々に招待してもらえるなんて光景だわ。ドレスコードは何か決まってるわけ?」
ゾーイが通信機に、いつも通りに無意識に相手を煽るように話しかけたのだ。
「ゾーイ・エマーソン……お前か、俺は誰より一番に……!!」
「あー、ごめんよ。フウタ? あんたとの会話ってマジでつまらなさすぎなんだよね。飽きたから、切るね?」
ゾーイとわかった途端に、フウタやモーリスが息を呑むのがわかった。
そして、満を持してゾーイに言い返そうとしたフウタだったが……
綺麗に遮られ、おまけにゾーイの好き放題の傷付ける気満々の言葉の刃が、フウタに容赦なく降り注ぐ。
当たり前でお馴染みだが、俺達やフウタは絶句した。
「飽きた……!? こ、このクソ女!! 俺をどれだけコケにすれば……!!」
「それと、あと一つ。この通信を切った後で、誰か一人でも手出したら……」
そして、気を取り直してもう一度何かを言い返そうとしたフウタ。
またまた綺麗に遮られていた。
こんな状態だけど、何か可哀想だなと同情してる自分がいる……
ゾーイ、絶対聞く気っていうか、興味自体がないんだろうな。
そんな何とも言えない空気の最中、それを変えるのはいつだって君だ。
「一人残らず、その首へし折るわよ?」
けど、今回だけは本当にゾーイ、君が味方でよかったと思った。
真顔で言い放った言葉……それだけを言うと、ゾーイは通信機を切った。
一瞬にして、ゾーイはその場の空気を支配した。
漂う圧倒的な威圧感と迫力は、通信機の向こうにも、間違いなく伝わっていたのではないだろうか……
けど、そんなものではこの場の嵐は収まらなかった。
「それじゃ、全部話して。王子様?」
「黙れ!! この裏切り者があああ!! その穢れまくった面の皮、必ず、次会った時に剥いでやる!!」
真由を宥めながらでは余計にモーリスの言葉の意味は、俺はわからなかった。
そして、そんな俺の考えがまとまることを目の前の目まぐるしい状況が待ってくれるはずもなく……
モーリスの言葉を聞いたサトルは、より一層の逆上を見せた。
「私を裏切り者だと言うのですか……」
しかし、そんなサトルにモーリスは動揺することもなく、むしろ……え? 少し笑っているのか?
「何だ……何がおかしいんだ? 今のテメーは、何を笑った? ああ!?」
「これは失礼。いや、自分のことをここまで棚に上げる人間もいるのかと思ってしまいまして……」
「あ? 何て言った?」
興奮状態のサトルが相手だと、モーリスの冷静さがとても際立った。
淡々と、どこか面白そうに告げるモーリスの言葉は、とても不気味だった。
てか、棚に上げる? サトルも同じ部分に引っかかったようで、次のモーリスの言葉を待っていると……
「だって、あなたも知っていたではありませんか? 知っていながら、あなたは何もしなかった。それなら、あなたも同罪なのでは?」
「……殺してやる」
「誰か、そのアホ止めて」
モーリスの言葉の後、サトルは一瞬で空気を変えた。
心做しか、部屋の温度が二、三度下がっているような気が……いや、これは気のせいじゃないのかもしれない。
そして、静まり返った空間にサトルの普段より何倍も低い声が響くとほぼ同時に、ゾーイの淡々としたいつもと同じ調子の声が響く。
「離せ!! 今すぐナサニエルに行く!! ナサニエルに行って、このふざけた野郎をこの手でぶっ殺してやる!!」
「離せるか、そんなこと言われて!」
とっさにゾーイの言葉に、俺、望、アラン、デルタ、シンが従ったのは条件反射だったか、本能的にか……
暴れまくるサトルを、男五人がかりで抑えつけて必死に叫ぶのだが、興奮状態のサトルには何一つ無駄だった。
「舐め腐りやが……グハッ!!」
「少しは落ち着け、頭冷やせ、しばらく息するな。全然話が進まないのよ」
そんな状態のサトルに終止符を打ったのは、ゾーイだった。
俺達が抑えつけてるおかげで、まったく身動き取れないサトルに、ゾーイは真正面から鳩尾に拳をめり込んだ。
今、とんでもない音がしたけど……
その場にうずくまるサトルを気にするより早く、ゾーイは通信機を奪い取って淡々とそう告げた。
尋常じゃないよこれ、容赦なさすぎるというか……おかげでサトルは強制的に落ち着いたけど。
「ふん、間抜けだな! ようやく、事の重大さに気付いたのか?」
安心したのもつかの間、通信機からは新たな俺達への敵意むき出しの声が聞こえてきたのだ……この声って!?
「は……? フウ、タ……!?」
「レオ、久しぶりだな? 元気に人間と馴れ合いしてるのか?」
「お前……何で、こんな……!!」
目を見開いたレオが、震える声でそう告げる。
やっぱりと、俺は拳を強く握る。
フウタ……アランとのいざこざで王国を自ら出て行った犬族だ。
「きっと、俺とは近いうちに再会すると思うぜ? その時に、俺はお前の絶望に染まる顔を見るのが楽しみだ」
誰が、こんなに最悪な形で残酷な再会を望んだというのか……
俺達を嘲笑うように、フウタは通信機の向こうでそう吐き捨てた。
「一度しか言わねえ。大事なお仲間に無事でいてほしかったら、お前らが俺達に会いに来な」
罠だと、誰もがわかるそのフウタの言葉は俺達への地獄の切符。
けど、行かなければ、橘さん、クレア達、他のナサニエルの生徒も、どんな目に遭わされるか……
最悪な光景しか浮かばず、その場の空気がドン底に沈んだ時……
「あらま、ご丁寧にどうも? 直々に招待してもらえるなんて光景だわ。ドレスコードは何か決まってるわけ?」
ゾーイが通信機に、いつも通りに無意識に相手を煽るように話しかけたのだ。
「ゾーイ・エマーソン……お前か、俺は誰より一番に……!!」
「あー、ごめんよ。フウタ? あんたとの会話ってマジでつまらなさすぎなんだよね。飽きたから、切るね?」
ゾーイとわかった途端に、フウタやモーリスが息を呑むのがわかった。
そして、満を持してゾーイに言い返そうとしたフウタだったが……
綺麗に遮られ、おまけにゾーイの好き放題の傷付ける気満々の言葉の刃が、フウタに容赦なく降り注ぐ。
当たり前でお馴染みだが、俺達やフウタは絶句した。
「飽きた……!? こ、このクソ女!! 俺をどれだけコケにすれば……!!」
「それと、あと一つ。この通信を切った後で、誰か一人でも手出したら……」
そして、気を取り直してもう一度何かを言い返そうとしたフウタ。
またまた綺麗に遮られていた。
こんな状態だけど、何か可哀想だなと同情してる自分がいる……
ゾーイ、絶対聞く気っていうか、興味自体がないんだろうな。
そんな何とも言えない空気の最中、それを変えるのはいつだって君だ。
「一人残らず、その首へし折るわよ?」
けど、今回だけは本当にゾーイ、君が味方でよかったと思った。
真顔で言い放った言葉……それだけを言うと、ゾーイは通信機を切った。
一瞬にして、ゾーイはその場の空気を支配した。
漂う圧倒的な威圧感と迫力は、通信機の向こうにも、間違いなく伝わっていたのではないだろうか……
けど、そんなものではこの場の嵐は収まらなかった。
「それじゃ、全部話して。王子様?」
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