エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

正真正銘の王子様

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 ゾーイはしゃがみこみ、サトルの肩に手を置いてそう告げたのだ。


「ゾーイ……君って、何者なの……?」


 ゾーイの言葉に誰よりも驚いていたのは、質問されたサトル本人だった。
 これでもかと目を見開き、サトルはゾーイと目を合わせる。


「別に、普通の人間よ? ただ、ずっとあんたの世間に冷めてるその目が気になってたから、少し調べただけよ」


 サトルと怯えながら、ゾーイは真顔で淡々と会話を続ける。
 その時俺は、この先どうなってしまうのかという漠然とした、大きな焦りを覚えた。


「ゾーイ、サトル。いい加減、俺達を無視して二人で話すのはやめろ」
「そうだ。何が起こっているのか、説明してくれよ」


 そんな目の前の二人の不穏な空気に耐えきれず、アランとデルタが静かに声を上げる。
 すると、言われたゾーイは、無言でその場を立ち上がり、足を進める。
 どうしたのかと後をついて行くと、たどり着いた先は談話室。
 ゾーイは、自分の定位置に座ると……


「え、立ちっぱで話し合うわけ?」


 意味不明だという顔をして、ゾーイは俺達全員を見回す。
 いやいや、その顔をしたいのは俺達だよ? どう考えてもね?
 まあ、そんなことはこの場の誰もが言えるわけもなく、呆れたようにみんなは談話室に入り、各々で腰を下ろした。
 そして、全員が席につくと、アランがサトルに話しかけた。


「サトル。さっきの通信で、モーリスが言ってたよな? 知っていながら、お前は何もしなかったって」
「……うん」
「お前、モーリスが奴らと内通してること知ってたのか?」


 アランは、サトルのことを探るような鋭い視線を……出会った頃のような視線をサトルに向けながら、質問していく。
 俺達はそれを固唾を飲んで見守る。
 一方で、サトルは居心地が悪そうにアランから目を逸らした。
 そして、サトルはアランからの最後の質問に答えず、黙ったままで……


「……沈黙は肯定の意味か?」
「それは……!!」


 アランが静かに短い質問の中に怒りを含ませながら、もう一度、サトルに確かめるように問いかけた。
 そんなアランを察したのか、サトルが焦ったように反論しようとした時……


「そうよ。サトルは、モーリスの動向を知っていながら、目を瞑ってたの」


 ゾーイは容赦なく、サトルの裏切り行為を暴露した。
 嘘だろと、誰かが呟いた気がする……
 ゾーイのあまりの躊躇のなさに、俺はむしろ、清々しいとすら思ってしまう。


「あ……え? ぞ、なっ!?」
「いつだったか忘れたけど、偶然教会の裏で、物騒な計画にモーリスがサトルを勧誘してるのを見たのよ。まあ、専門用語的には犯行現場ってやつ?」


 言葉にならない叫びを上げるサトルを完全無視して、ゾーイは次々と驚きの事実を暴露してくる始末。


「待って! 待って待って! そこには誤解がっていうか……まず、僕は確かにモーリスに勧誘された! 何度も一緒に素晴らしい王国を作ろう、王様になってくれって頼まれたけど、断ったんだ!」


 思わず、サトルへの同情の空気が漂う中で、サトルは真っ青な顔で弁明した。
 あれ? 待てよ……それって?


「サトル? もしかして、あの緊急招集の夜も、モーリスに会ってたのか?」
「あ、あ、待って! それじゃ、ずっと菜々美が雨野が捕まらないって言ってたあれも、モーリスと会ってたから?」


 俺は、見えないモヤが晴れたような感覚に陥って、サトルにほぼ確信を込めて質問した。
 すると、隣に座っていた真由も思い出したかのように、声を上げた。


「……うん、正解だよ」


 俺の思った通りに、サトルはバツが悪そうに弱々しく吐き捨てた。


「何で……何で! もっと早く、俺達に相談しなかったたんだよ!?」
「シンの言う通り! どうして、一人で抱え込んだままにしたのよ!?」


 サトルの胸ぐらを掴み上げ、シンは悔しそうに詰め寄り、ソニアも続くように涙声で、サトルを責めた。
 そんな二人に、サトルは俯くばかりで何も答えなかった。


「雨野。お前、本当はもう、俺達を裏切ってるんじゃねえのか?」
「……え?」


 すると、少し笑いながらそう挑発的に問いかけたのは、望だった。


「向こうの汚れ役買って出て、このままナサニエルに誘導して、最後には盛大に俺達を裏切るパターンじゃねえのか!?」
「望、言いすぎだ」
「けど、昴! 信じられるのか!? 裏切り行為に勧誘されたのに報告はなし、おまけに向こうの動向は何一つ知らないときた、そんな上手い話があるか!?」
「本当なんだ!! 心から、黙っていたことは謝る……ごめん!! まさか、ここまで準備が整ってるなんて、ましてやこんなことになるなんて、思わなかったんだ!!」


 久しぶりにブチ切れている望に、俺は制止をかける。
 そんな俺に反論をする望と、さらに許しを乞うサトル。
 正直、この時の俺は何が正しくて何が間違ってるのか、判断ができなかった。


「そもそも、大前提としてわからないのは、何でモーリスはサトルに王様になれと頼んだのか……身に覚えあるだろ」


 一方で、そんな無茶苦茶な状況を立て直すように、アランはゾーイとサトルを見つめてそう告げる。
 ハッとして、俺は橘さんの部屋の前で繰り広げられたゾーイとサトルの会話を思い出す。


「大いにあるけど?」
「……それは何だ」
「あたしから言うことじゃないわ」


 すると、アランに先に含み笑いをして答えたのは、ゾーイだった。
 答えを促すアランだが、ゾーイは自分の後ろにいる人物に視線を移した。


「……僕はアイランド58の出身で、その空島の第一王位継承者なんだ」


 そして、サトルのため息とともにその重い口から告げられた事実は、何かの破滅を意味している気がした。
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