エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

それが故意か自己中か

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「その反応、正解ってことね?」
「ゾーイ! 何で……何で、そんなことを君が知ってるのさ!?」
「想像よ。ただの想像が、たまたま正解しただけよ」


 ゾーイの答えを、ここに素直に受け止める者はいないだろう。
 想像って……さすがに無理あるよ?
 まるで、答えを知っていてそれを確かめたかのように、俺は妙に確信めいたゾーイの反応がすごく気になった。
 けど、それは当事者のサトルの方が感じていたようで、顔面蒼白でゾーイに理由を尋ねるが、ゾーイは肩を竦めてそう告げるだけだった。


「そんなわけないだろ!? これは、内部しか知らない情報なんだよ!!」
「あ、そう。あたしの推理も、腕が磨かれてきたわね」
「推理!? 推理の域超えてるでしょ!! ゾーイ、答えてくれ!! 君は一体、どこまで知ってるの!?」
「どこまでも何も……あたしはあんたのお家事情なんて、興味ないわよ」


 けど、サトルは諦めずにゾーイに詰め寄り続けて、それをゾーイはサラリとかわしていく。
 きっと、この場にいる全員がサトルの言い分には賛成だろうけど、当事者のゾーイはあくまでシラを切るつもりだ。
 

「ま、真面目に答えてくれ!! まず、出会った時から思ってたけど、君こそ何か隠してるんじゃないのか!?」


 ついに痺れを切らしたサトルは、それまでより少し強い口調でゾーイに問う。
 その言葉に、俺は心臓が早鐘を打ったような気がした……だって、この光景は見たことがある。
 きっと、この後のゾーイは……


「想像だって言ってんだろが。あたしの出身島はアイランド77。遠く離れた時代遅れの王国なんかに、興味はないって言ってんのがわからないわけ?」


 ああ、やっぱり……俺、望、サトルはこのゾーイの表情を知っている。
 逆に他のみんなは知らないから、息を呑んでゾーイから距離をとる。
 初めて地上に出た時に、望がどうして史学科を選んだのかと……君の深い部分に入ろうとした質問をして、君はまったく同じ反応をした。
 今も同じだ、全身で俺達を拒絶するその目は、あの時とまるで同じ。


「あ……ゾーイ、ごめ……」
「そもそも、あたしのことを問い詰めるより、自分の抱えてる事情から話をするのが先なんじゃないの?」
「……え?」
「さっきの、菜々美が攫われたって発覚した直後のあんたの豹変ぶりは、絶対に普通じゃなかった」
「あ、それは……」


 あまりのことに普段の冷静さを忘れて気が動転していたのか、サトルは我に返り、慌ててゾーイに謝罪する。
 しかし、そんなサトルの言葉を遮って話を進めるのがゾーイだ。
 ゾーイは、話題をさっきのサトルの豹変ぶりにすり替えた。
 その当事者のサトルは、すごく気まずそうな表情を見せていたけど……


「隠し事はもう御免よ。話して」


 まっすぐと放たれる鋭い言葉の矢、ゾーイの圧倒的な迫力を前にして誰もが首を横に振ることはできないだろう。
 サトルも、観念したようにゆっくりと話し出す。


「……同じなんだ。僕が、知らぬ間に攫われて、部屋はもぬけの殻で……三年前のあの日に、母を失った時とまったく同じ流れで……」
「トラウマってことね」
「……そうだね。抑えられなかった」


 こういう時、何と声をかけるのが正解というものなのか……
 誰も教えてくれないし、そう簡単に出くわす場面でもないことだから、まだ子どもの俺は辛そうなサトルの表情から目を逸らすので精一杯だった。


「サトル。あたしは、あんたには何も言わないことに決めたから」
「え?」


 けど、ゾーイ……君はいつだって、俺達とは違う選択肢を選ぶね。


「だって、何を言っても、今目の前の状況は変わらないでしょ? それに、慰めとか励ましもらったとしても、あんたは大丈夫とか、ありがとうって答えることしかできないじゃん。そんな会話、時間の無駄でしょ?」
「……本当に容赦ないよね、君って」


 あまりのはっきりとした血の通ってるのかが怪しい物言いっぷりに、答えたサトルと同じように俺は、自分の表情筋の全てが引きつるのを感じた。


「だって、こういうことは、自分で落とし前つけないとどうにもならないし? とにかく、今は菜々美達の救出に全身全霊で集中すること。精神保ってよ? 少しでも暴れたら、今度は後頭部に蹴りを入れて、その場に捨ててくからね?」
「う、うん、肝に銘じます……」


 後頭部と、さっきゾーイに思いっきりくらった鳩尾を押えながら、サトルは苦笑いで頷く。
 そんなサトルに俺達は、それぞれ小さくドンマイと声をかけていく。
 けど、俺はそこでふと気付く……先ほどまでの暗い雰囲気が嘘のようになくなっていることに。
 そして、それはきっとゾーイの無茶苦茶な言い分のせいで……
 もしかして、ゾーイは計算してあんなことを言ったのだろうかと、俺は考えてしまった。
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