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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
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「けどよ、それはそれとして、何でモーリスは王になってくれとか、本物の王子のサトルに頼むんだよ?」
「確かに! 偶然にしては話が上手くできすぎてるもんね!」
シンとソニアが思い出すように、そう言い放った。
ようやく一段落したと思えば落ち着く暇もなく、次々と問題が浮上する……
けど、その二人の言うことは最もなことで、俺はさらに頭を抱える。
サトルがアイランド58の第一王位継承権を持つ、正真正銘の王子だということをモーリスは知っていたのか?
けど、どうやって知れるんだよ?
アイランド58の内情は、なぜだかほとんど知らされることもなく、いつの時代でも謎に包まれてきた。
王族の顔も公開されていないし、何より複雑な事情が絡み合って、サトルはナサニエルの誰にも自分の素性を明かしてはいなかった。
ということは、これは偶然なのか?
「偶然じゃなくて、確信犯でしょ?」
しかし、そんな俺の考えを、ゾーイは真っ向から否定する言葉を言い放った。
「え、それって、モーリスはサトルの正体を知ってたっていうのか?」
「そうよ?」
「いや、どうやって知るんだよ。本人に聞いたってか?」
すかさず、デルタと望がゾーイの言葉を指摘する。
当たり前だけど、サトルは望の言葉を首を横に振って否定していたが……
「そんなことしなくたって、その銀髪で見る人が見れば一目瞭然よ」
「ぎ、銀髪?」
その瞬間、その場が何か微妙な空気に包まれたのは気のせいじゃないと思う。
「ゾーイ、銀髪がどうかしたの?」
「どうもこうも、まあほとんどの人間が知らないだろうけど……銀髪は、王族の遺伝子でしか生まれない髪色なのよ」
キョトンとする俺たちを見回して、ゾーイは肩を竦める。
そして、自然と零れていた俺の言葉にゾーイはサラリと、何とも衝撃的な答えを吐き捨てたのだった。
「……聞いたことないけど」
「は? 何だそれ?」
「まあ、ここ数十年でいろんな遺伝子の組み換えが起こって、アランの青とか、デルタとソニアの赤とか、いつの間にか珍しい髪色の子どもが産まれるようになったしね。あとは、地上時代の頃の髪を染めるって文化も戻ってきたし、違和感を覚えなくても当然よ」
途端にその場は混乱し、デルタと望は揃って声を上げる。
しかし、そんな俺達のことには目もくれず、ゾーイはいたって冷静だった。
「けど、空島広しと言えども、地毛の銀髪は、アイランド58の王族の代々受け継がれてきた伝統よ。まあ、こんなマニアックなこと、歴史関係の仕事をしてる人間か、よっぽどの暇人じゃなきゃ知る由もないでしょうね?」
「え……雨野、そうなの!?」
「あ、いや……僕も知らなかった」
ゾーイの説明が終わると、驚く真由の問いかけにさらに当事者のサトルが目を見開いて驚く始末。
「まあ、賭けてもいいけど、絶対にモーリスは暇人の方ね。あれは見るからに友達いなそうだし? というより、何を考えてるのかわかんないし?」
けど、そんな俺達の困惑の雰囲気は関係なしに、ゾーイはいつも通りに素直にどこまでも正直に、言い放っていた。
いや、何ていうのか……何を考えてるのかわからないってことだけなら、ゾーイにだけは言われたくないと思うよ?
「ゾーイ? 何で、君だけ他のみんなが知らないことを知ってるんだい?」
「え? あー、史学科だし?」
「それ出会った日も聞いた気がするんだけど、どういう意味なの?」
「あたしが所属していた学科よ。史学科は主に歴史を学ぶ学科で、ひたすら過去と向き合う学科なの」
俺達の微妙な空気を察してか、単純に疑問だったのか、レオとモカはゾーイに不思議そうに問いかけ、それを受けたゾーイは答えていた。
しかし、それを聞いてさらに俺達が何とも言えない空気になっていたのは言うまでもない。
ゾーイが史学科って、やっぱりどうやっても結びつかないし……まあ、だからと言って、ゾーイにふさわしい学科がパッと思いつくわけじゃないけど。
君はいつでも前を見ているから、その過去と向き合うって言葉は、どうも君には不釣り合いに思えた。
「まあ、一先ずは、モーリスがサトルに目を付けた理由はわかったが……そうだとしても、謎が多すぎる。王国を出て行った奴らとモーリスのたった七人だけでナサニエルを制圧するのは、さすがに不可能だ」
そんな空気を断ち切ったのは、すごく難しい顔をしたアランの言葉だった。
「けど、そうなると、あと考えられるのは……まさか、他にも協力者が?」
「そう考えるのが妥当だな。第一、コタロウに勝てる奴なんて限られる」
それに続くように、モカが少しだけ思案してから、恐る恐るそう問う……
レオは、静かに俯きながら重い口調でモカの質問に答えていた。
本当にどこまでも、絶望的だよな……
「この後の展開、アホじゃなかったら全員わかってるわよね?」
そんな暗く重い空間に響く、君のよく通る声。
「出発は明日の昼。以上、解散!」
ゾーイはそう言うと、瞬く間に談話室を出て行ってしまった。
明日っていうか、もう今日だよ……
本当に君は自由だね……けど、そんな君の一言で、俺達は導かれてきた。
ゾーイの宣言通り、明日の昼に俺達はナサニエルに行くことになるだろう。
捕まっている橘さんや、クレア達のことを考えれば、なるべく早い方がいいに決まってる。
そうだとわかっているのに、俺はどこまでも拭いきれない不安を感じる。
「今度こそ……今度こそ、離さないよ」
そして、その原因がサトルだということは薄々気付いていた。
今も談話室の隅で祈りながら呟く声を聞いて、さらに俺は嫌な感覚に陥る。
俺からしたら今のサトルは恋人を心配しているというよりは、まるで……
「確かに! 偶然にしては話が上手くできすぎてるもんね!」
シンとソニアが思い出すように、そう言い放った。
ようやく一段落したと思えば落ち着く暇もなく、次々と問題が浮上する……
けど、その二人の言うことは最もなことで、俺はさらに頭を抱える。
サトルがアイランド58の第一王位継承権を持つ、正真正銘の王子だということをモーリスは知っていたのか?
けど、どうやって知れるんだよ?
アイランド58の内情は、なぜだかほとんど知らされることもなく、いつの時代でも謎に包まれてきた。
王族の顔も公開されていないし、何より複雑な事情が絡み合って、サトルはナサニエルの誰にも自分の素性を明かしてはいなかった。
ということは、これは偶然なのか?
「偶然じゃなくて、確信犯でしょ?」
しかし、そんな俺の考えを、ゾーイは真っ向から否定する言葉を言い放った。
「え、それって、モーリスはサトルの正体を知ってたっていうのか?」
「そうよ?」
「いや、どうやって知るんだよ。本人に聞いたってか?」
すかさず、デルタと望がゾーイの言葉を指摘する。
当たり前だけど、サトルは望の言葉を首を横に振って否定していたが……
「そんなことしなくたって、その銀髪で見る人が見れば一目瞭然よ」
「ぎ、銀髪?」
その瞬間、その場が何か微妙な空気に包まれたのは気のせいじゃないと思う。
「ゾーイ、銀髪がどうかしたの?」
「どうもこうも、まあほとんどの人間が知らないだろうけど……銀髪は、王族の遺伝子でしか生まれない髪色なのよ」
キョトンとする俺たちを見回して、ゾーイは肩を竦める。
そして、自然と零れていた俺の言葉にゾーイはサラリと、何とも衝撃的な答えを吐き捨てたのだった。
「……聞いたことないけど」
「は? 何だそれ?」
「まあ、ここ数十年でいろんな遺伝子の組み換えが起こって、アランの青とか、デルタとソニアの赤とか、いつの間にか珍しい髪色の子どもが産まれるようになったしね。あとは、地上時代の頃の髪を染めるって文化も戻ってきたし、違和感を覚えなくても当然よ」
途端にその場は混乱し、デルタと望は揃って声を上げる。
しかし、そんな俺達のことには目もくれず、ゾーイはいたって冷静だった。
「けど、空島広しと言えども、地毛の銀髪は、アイランド58の王族の代々受け継がれてきた伝統よ。まあ、こんなマニアックなこと、歴史関係の仕事をしてる人間か、よっぽどの暇人じゃなきゃ知る由もないでしょうね?」
「え……雨野、そうなの!?」
「あ、いや……僕も知らなかった」
ゾーイの説明が終わると、驚く真由の問いかけにさらに当事者のサトルが目を見開いて驚く始末。
「まあ、賭けてもいいけど、絶対にモーリスは暇人の方ね。あれは見るからに友達いなそうだし? というより、何を考えてるのかわかんないし?」
けど、そんな俺達の困惑の雰囲気は関係なしに、ゾーイはいつも通りに素直にどこまでも正直に、言い放っていた。
いや、何ていうのか……何を考えてるのかわからないってことだけなら、ゾーイにだけは言われたくないと思うよ?
「ゾーイ? 何で、君だけ他のみんなが知らないことを知ってるんだい?」
「え? あー、史学科だし?」
「それ出会った日も聞いた気がするんだけど、どういう意味なの?」
「あたしが所属していた学科よ。史学科は主に歴史を学ぶ学科で、ひたすら過去と向き合う学科なの」
俺達の微妙な空気を察してか、単純に疑問だったのか、レオとモカはゾーイに不思議そうに問いかけ、それを受けたゾーイは答えていた。
しかし、それを聞いてさらに俺達が何とも言えない空気になっていたのは言うまでもない。
ゾーイが史学科って、やっぱりどうやっても結びつかないし……まあ、だからと言って、ゾーイにふさわしい学科がパッと思いつくわけじゃないけど。
君はいつでも前を見ているから、その過去と向き合うって言葉は、どうも君には不釣り合いに思えた。
「まあ、一先ずは、モーリスがサトルに目を付けた理由はわかったが……そうだとしても、謎が多すぎる。王国を出て行った奴らとモーリスのたった七人だけでナサニエルを制圧するのは、さすがに不可能だ」
そんな空気を断ち切ったのは、すごく難しい顔をしたアランの言葉だった。
「けど、そうなると、あと考えられるのは……まさか、他にも協力者が?」
「そう考えるのが妥当だな。第一、コタロウに勝てる奴なんて限られる」
それに続くように、モカが少しだけ思案してから、恐る恐るそう問う……
レオは、静かに俯きながら重い口調でモカの質問に答えていた。
本当にどこまでも、絶望的だよな……
「この後の展開、アホじゃなかったら全員わかってるわよね?」
そんな暗く重い空間に響く、君のよく通る声。
「出発は明日の昼。以上、解散!」
ゾーイはそう言うと、瞬く間に談話室を出て行ってしまった。
明日っていうか、もう今日だよ……
本当に君は自由だね……けど、そんな君の一言で、俺達は導かれてきた。
ゾーイの宣言通り、明日の昼に俺達はナサニエルに行くことになるだろう。
捕まっている橘さんや、クレア達のことを考えれば、なるべく早い方がいいに決まってる。
そうだとわかっているのに、俺はどこまでも拭いきれない不安を感じる。
「今度こそ……今度こそ、離さないよ」
そして、その原因がサトルだということは薄々気付いていた。
今も談話室の隅で祈りながら呟く声を聞いて、さらに俺は嫌な感覚に陥る。
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