エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
159 / 257
第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

すいみんすいみん不足

しおりを挟む
「この調子だと、案外早くナサニエルに到着できそうだな?」
「……そうね」


 俺は隣に座る真由に、なるべく自然にそう問いかけたが、その真由の顔から険しさがとれることはなかった。
 ぐるりと周りを見渡すが、後ろに座る望とサトル、向かい側に座るアランとシン、その後ろに座るデルタとソニアも顔色は暗く、前に座るレオとモカや、他の犬族と猫族達も耳が垂れ下がったままだった。
 俺達を含めた王国に残る兵士達や、戦えそうな男連中全員は今、それぞれがバスでナサニエルに向かっている。
 ローレンさんや、王国に残る全員に見送られて、太陽が一番高い時に俺達は王国を出発した。
 あれから、通信機に何度となく話しかけてもクレア達や、ましてやフウタやモーリスと繋がることはなかった。
 俺達は罠だと知った上で、そして何の情報も知らないまま、敵地に乗り込もうとしていた。
 そりゃ、全員が不安や恐怖で、顔色が悪くなることは不思議じゃないだろう。


「……しかし、この状況でよくもまあ爆睡できるよな」


 まあ、ここにはそんな緊張感とは無縁の人間もいるけどね。
 シンの呆れたような呟きに、俺達全員は一斉に後ろを振り返る。
 そこには、一番後ろの一番広い席を独り占めして気持ち良さそうに眠るゾーイの姿。
 そう、君だけはいつも変わらないね。

 
「あいかわらず、大物だよな」
「いやいや、コイツの場合、ただ単に感情がぶっ壊れてるだけだろ」
 

 そんなゾーイの姿を見たデルタは肩を竦め、望は嫌味交じりで返す。
 けど、その二人の顔はどこか安心したように綻んでいて、ふと見た向かい側の窓際に座るアランも口角を上げている。
 他のみんなも、どこかしょうがないなという雰囲気を醸し出すのとともに、空気が柔らかくなるのを感じる。
 君のその変わらない姿に、いつだって俺達は救われている……そう思考の渦に沈んでいた時だ。


「……到着かな?」


 バスが止まり、レオが俺達の顔を見て確認を取るように問いかける。
 そして、俺達は窓の外を覗き込む。
 そこに広がってるのは、俺達のかつての学び舎である、ナサニエル。


「久方ぶりの帰還だわね」


 しかし、久しぶりの光景に、特に感情の整理もつかぬままに、その突然の言葉に俺達は窓から視線を外して、一斉に振り返った。


「え、ゾーイ……!? いつ起きたの!?」
「今だけど? それより全員、しっかり寝たの? 中に何が待っているのか全然わからないんだから、使い物にならなかったら眼球えぐり出すわよ?」


 俺の叫びに、ゾーイはマイペースに伸びをしながら呑気にそう答える。
 え、五分前まで爆睡してなかった!?
 そんな風にゾーイの寝起きの良さに驚きつつも、答えの内容の物騒さに身の危険を感じて、俺は背筋が凍っていく感覚に陥った。
 ゾーイには出発する時、余計なことは考えずにとにかく寝ろとしつこいほど言われていた、全員が。
 きっと、俺達が揃って、昨夜からよく眠れていないことを察しての言葉だったのだろうけど、やっぱり眠れないものは眠れないのである。
 まあ、そんなわけで、ゾーイ以外の大半が睡眠不足のまま、ナサニエルに到着してしまったのだ。
 しかし、この心配は、最悪な形で解消されることになるのであった……


「他のバスも着いたっぽいわね? とりあえず、下りるわよ」


 そして、ゾーイの言葉を皮切りに、俺達は続々とバスを下りていく。
 そこには、他の犬族と猫族達を乗せた六台のバスも到着しており、合流する。
 バスは、少しナサニエルからは離れた場所に停車していた。
 今回、王国からは三百を超える人数がこの救出作戦に参加している。


「じゃあ、作戦通りよ。それぞれ武器を持って配置につき、潜入を開始して。あと、何度も言うけど、銃は最後の手段だってことを忘れないでね?」


 ゾーイは全員の前に立つと、はっきりと、念を押すように宣言をする。
 そして、それぞれがその言葉に重く頷き、バスのトランクに積まれた大量の剣と銃を持ち出していく。
 そう、俺達は救出作戦のために、封印していた武器庫を開けた。
 改めて整備をし、全員分の拳銃や、ライフルにバズーカまでもを、バスに詰め込んだ。
 ゾーイの言う通り、銃はあくまでも護身用である。
 むしろ、これを使うことになるような事態は避けたいというのが、この場の全員の総意だ。
 しかし、ゾーイが武器庫を開けようと言い出した時に、誰も反対をする者が誰一人いなかったのも事実だ。
 それぐらいの危険が、ここにはある。


「全員に行き渡ったわね? じゃあ、解散。健闘を祈るわ」
「……全員、無茶はしないでくれ!」


 武器が行き渡ったのを見計らって、ゾーイは静かに、レオは絞り出すように全員に告げた。
 それを受けると、犬族と猫族達はそれぞれの配置に散らばって行くのだった。
 そして、俺達もゾーイとレオを先頭にして周りを警戒しながらも、ゆっくりとナサニエルに近付いて行く。
 ナサニエルの周りは俺達が出て行った半年前と何ら変わらなかった。
 まあ、強いて言うなら、雑草が伸びたぐらいかな……と、どこか呑気に周りの景色を観察していた時だ。


「ストップ!」


 先頭を歩いていたゾーイが、突如の宣言とともに足を止めた。


「え? あ、ゾーイ?」
「聞いて」


 俺達はゾーイのその急停止に戸惑いを見せ、何だどうしたと顔を見合わせる。
 そんな俺達を代表してレオがゾーイに問いかけるが、ゾーイはまったくもって答えにならない一言告げると……


「全員、倒れる時は受け身をとって」


 俺達に背中を向けたまま、そんな風にわけのわからないことを呟く。
 どういう意味なのだと問いかけようとした時に、なぜか俺の視界が揺らぐ。










 そして、次の瞬間には俺達は、全員で地面に倒れていた――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...