エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
161 / 257
第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

まさかの隣人だったとはね

しおりを挟む
「ゾーイ……やっぱり、ゾーイなの!?」
「え、ゾーイ?」
「何だって……!?」


 ゾーイの声に答えたクレアのものと思われる声に続いて、二人分のこれまた聞き慣れた声が響いてきた。


「その声、ジェームズとハロルドね?」
「ほっ、本当に……? 本当の本当にゾーイなの!?」
「夢のよう……ハッ! まさか、本当に夢なのでは!?」


 姿は見えないけれど、声だけでも今の二人がどんな表情をしてるのかわかる。
 きっと、ジェームズはもう既に目に涙をためていて、ハロルドは真っ青な顔で慌てふためいているだろう。


「ちょっと、仮にも半年以上寝食ともにした人間の声を忘れるわけ?」
「その強気な口調……」
「ああ、まさしくだ!」


 すかさず、ゾーイが冷静に指摘すると二人は嬉しそうな、安心したような声を上げていた……俺は泣きそうだった。


「ゾーイ! どこ!? どこに……!!」
「落ち着いて。多分あたし達は、クレア達がいる隣の檻にいる」
「あたし達って……他にも?」
「全員いるわよ? ほら、そんなとこでぼさっとしてないで声かけなよ」


 またさらに、クレアが縋るような声で叫んでいるのに対し、ゾーイはいたって冷静に状況を伝えていく。
 そして、少しだけ落ち着きと驚きが交じったような声で尋ねたクレアを安心させるように、俺達に向かってゾーイは声をかけて、手を招く。
 それに対して、放心状態だった俺達はそれぞれで我に返り、一目散で檻の鉄格子に張り付いて叫んだ。


「三人とも、本当に大丈夫なのか!?」
「飯とか食わされてるのか!?」
「殴られたりだとか、何かひどいことはされてない!?」
「私達は大丈夫だ! 食事はパンと水が一つずつとかなのだが、檻に入れられた後は、特に危害は加えられていない!」


 俺、望、真由の言葉に、ハロルドは先ほどの不安が交じった声とは打って変わって、希望を取り戻したように大丈夫だとはっきり宣言する。


「本当に、全員よく頑張ったよ!」
「すぐ助ける! あと少しだけ、耐えてくれ!」
「……遅くなって、悪かったな」
「信じてよかった……もういくらでも耐えてみせるわ! ありがとう……来てくれて……!!」


 サトル、シン、アランの励ましに、クレアは涙声で答えた。
 安心して、涙腺が緩んだのだろう……


「よかった……本当によかった!」
「怖かったよね、不安だったよね、もう大丈夫だよ!」
「絶対に、みんなが助けに来るってわかってた! もう、怖いものはないよ!」


 デルタ、ソニアの方が泣いてしまいそうな勢いの言葉に、ジェームズは明るく力強い言葉で返していた。


「そこに、兵士達も一緒にいるの!?」
「コタロウは!? 通信した時に、ケガをしたって言ってたけど……!!」
「大げさなんだよ、騒ぐなって」


 そして、モカとレオが犬族と猫族、コタロウの安否を確認する。
 すると、その二人の声に答えたのはこれまでと違ってクレア、ジェームズ、ハロルドではなく、コタロウ自身だった。


「コタロウ!? 大丈夫なのか!?」
「ケガって、何が……!!」
「レオ、モカ。だから、騒ぐなよ。他の兵士達もここにいて無事だし、俺も特に問題はねえから」


 必死に鉄格子から頭を乗り出し、隣の檻の様子を探ろうとする、レオとモカ。
 そんな二人とは対照的に、コタロウは冷静に宥めていた。
 普通に会話できてるし、ケガも大したことはなかったのかな?


「ええ!? 問題大ありだよ!? 結構深く斬られて……イタッ!」
「ジェームズ! お前は、余計なことを言うな!」


 いや、そんなことはどうやらなかったようだな……
 心配をかけまいとして嘘をついたコタロウだったけど、あっさりとジェームズにバラされちゃって、今ジェームズの頭を小突いたってとこかな。
 うん、それを見たクレアとハロルドの苦笑いまで、隣の檻の光景が目に浮かぶようだよ。


「斬られたのか!?」
「どこを!?」
「あー、少し脇腹をな? けど、もう血は止まったんだ。そもそも、こんなの傷のうちに入らねえよ」


 すぐさまレオとモカが真っ青になって問いかけて、コタロウはまたもや冷静に宥める。
 けど、二人は……というか、この場の全員が不安そうに顔を歪めていたが、君はやっぱり違う。


「それで、何があったの?」
「よく覚えてはいないんだけど……ナサニエルの前に来たら、突然大勢の見たことない犬族と猫族に囲まれて……」
「そう、そこで不意打ちだったからモーリスを盾にされて……!! それで、コタロウが反撃できなくて、ケガを……」
「モーリスね……?」


 ゾーイのいつも通りの淡々とした口調の問いかけにつられるように、クレアとジェームズが重々しく話し出す。
 しかし、そこでゾーイは出てきたモーリスの……裏切り者の名前を真顔で、繰り返す。
 俺にはその一言が、まるで死の宣告のように思えた。


「あ、それが、モーリスのことで……本当に言い難いことがあってだな……」
「ああ、モーリスが裏切り者だったってことでしょ? 知ってるわよ?」
「は……?」
「知ってたの?」
「あと、菜々美まで誘拐されたし、状況察するに、ナサニエルはそいつらに占拠されてるわね」
「今、何て言った……?」
「ええ!?」


 そのゾーイの呟きに対して、恐る恐るという感じで、ハロルドが話し出そうとした時に、話の内容を予想しただろうゾーイが先回りをしていた。
 そして、驚く隣の檻の面々と言葉を無視して、さらに驚く事実を告げる。
 本当に情報量過多すぎるよ、これ……


「詳しいことは後で聞いといて。とりあえず、このムカつく檻から出るわよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...