エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
162 / 257
第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

上品なのは見た目だけか

しおりを挟む
「出るって、どうやってだよ?」


 ゾーイの言葉に俺達を代表して反応をしたのは、困惑気味のシンだ。
 その疑問は、俺達の総意だった。
 地下であろうこの食料庫兼檻には、小さな窓すらついておらず、必然的に俺達の出口は正規の出入り口しかない。
 しかし、当たり前だけれどその出入り口はしっかりと施錠されている。
 しかも、催眠ガスで眠らされた時に武器を根こそぎ奪われたみたいで、ここにあるのは真由が持ってきた救急箱のみ。
 ピッキングできるようなものは何一つとして持ってないし、人間の力で鉄格子をこじ開けるなんて不可能。
 そんな状況を打破する方法は、俺にはわからなかったが……ゾーイは俺達の視線を背中に浴びても微動だにせず、鉄格子を見たまま何かを考えていた。


「ねえ、ここって、見回りとかは来たりしないの?」


 すると、前触れもなく、いつも通りにゾーイは突拍子もないことを言い出す。


「え? あ、見回りというか、三回は食事を運びに来るけど……」
「それって、何時ぐらい?」


 少しだけ驚いた後に、気を取り直して慣れたように返事をする、クレア。
 そのクレアに、さらにゾーイは質問を重ねる。


「そうね。多分、もうすぐ……」
「人間ども! 食い物だ!」


 けど、クレアが言葉を続けようとした瞬間、嫌な威圧的な声が響く。
 とっさに、ゾーイ以外の全員は、鉄格子から身を引く。


「しかし、増えたな? 本当に、餌代の無駄になってしょうがねえよ!」


 そう言って、檻の前で皮肉たっぷりに笑うのは、初対面の犬族だった。
 その犬族は、シルバーグレーの単色の毛色で、頭は先細りで長く、耳は垂れており、目は小さくて、瞳は明るいブルーグレー。
 これは確か……高貴な印象を与える犬種で……あ、ワイマラナーだ!
 その今まで出会ったどの犬族とも違う雰囲気のそいつは、レオ達が普段身に付けている中世ヨーロッパのような服装とは似ても似つかない服装だ。
 何だったっけな、この服装……?
 そんな風に、突然の見慣れない犬族の登場に俺達が動揺してた時……


「お前、その服装って……まさか、百鬼夜行 ひゃっきやぎょうの……!?」
「ヒャッキヤギョウ?」


 レオが真っ青なまるでこの世の終わりのような顔で、その犬族に問いただす。
 そんな見たことのないレオの動揺っぷりに戸惑いつつ、モカにどうしたのか事情を聞こうと振り返ると、モカもワナワナと尋常じゃないほど震えていた。


「確か百鬼夜行って、日本の説話などに登場する深夜に徘徊をする鬼や妖怪の群れのことよね? あ、それで和服?」


 しかし、そんな静まり返った雰囲気などを気にすることなく、ゾーイは相手の犬族にさらに問いただす。
 和服……あ、そうだ! このワイマラナーの犬族の服装、和服だ!
 けど、何か違うよな……? 黒い着物はまだいいけど、その下とか、袴じゃなくて黒いパンツだし、草履じゃなくてブーツだし……なんちゃって和服か?


「百鬼夜行は、ここら一帯を嗅ぎ回る荒くれ集団だよ……」


 すると、レオが顔を強ばらせながら鉄格子に近付き、そう答える。
 そういや、少し前に聞いた気がする。
 殺し以外は何でもやる、絶対どこの集落にも属さない物騒な集団がいるって。


「どうして、お前達がここにいる!」
「ああ、お前がレオか? フウタから話は聞いてるぜ? 人間なんかと仲良く馴れ合う、駄犬だってな? ククッ……」
「フウタが……!? 何で……」
「よりにもよって、百鬼夜行にゾーイ達のことを話すなんて……!!」


 レオは警戒しながら、目の前の犬族に話しかける。
 しかし、犬族は、そんなレオのことを面白そうに見つめて、さらに煽るような態度をとり続けて、その名前を出した。
 フウタ……その名前を出せば、レオとモカが動揺するだろうと、わかっていたのだろう……
 レオが苦痛に満ちたような表情を浮かべる一方で、モカは怒りに満ちていた。


「半信半疑だったが、フウタの言ってた通りに、人間の味方なんだな? どうかしてるんじゃねえのか? 相手は人間だぞ? 俺達を飼い殺してた奴らだぞ?」
「それはもう千年も前の……!!」
「うるせえ!! 何年経とうが、この人間どもが、俺達、犬や猫を飼い殺し、自由を奪っていた事実は変わらねえ!!」


 そんな二人のことを見て、その犬族は驚きつつ、軽蔑の目を向ける。
 それにレオが反応しようとしたところに、突然その犬族は怒鳴り声を上げた。
 思わず、レオは押し黙り、俺達も静まり返った。


「まあ、それも過去の話だ。そうなった大きな原因は、千年前の俺達が人間に圧倒的に劣っていたからだ。しかし、今の俺達はどうだ? 人間と対等、あるいは身体能力的には人間以上だ!! これが何を意味するかわかるか?」


 そんな俺達を嘲笑うように、犬族は俺達に煽るように問う。


「次はお前ら人間が、飼われる番なんだよ!! ククッ……ハハハハハ!!」


 そして、そいつは勝ち誇ったのように高笑いを上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...