エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
163 / 257
第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

チョップチョップチョップ

しおりを挟む
「飼うって……!?」
「黙って聞いてりゃ……俺達人間のことをどうしようってんだ!!」


 真由が震えながら呟いて、望が我慢の限界とばかりに吠える。


「また、こんなこと続けるのか! 人間とは共存できる! どうして、争うことしか選ばないんだ!」
「何で……!? 昔は昔で今は今! もう私達は、前に進むべきだわ!」


 レオは悔しそうに悲しそうに、モカは訴えかけるように叫ぶ。


「私達の先祖達の過ちは事実だ! しかし、そこで同じ道を辿っては、何一つ変わらないではないか!」
「お願いだ! これからの僕達のことを見てから決めてよ!」
「もう私達は、あなた達の自由を奪うことはないわ! 約束よ!」
「……こんなことして、楽しいのか?」


 隣の檻からは、ハロルドが悲痛な心が込められた言葉を、ジェームズは必死の懇願を、クレアは涙声の訴えを、それぞれに叫ぶ。
 その後から、コタロウが何の感情も感じられないような言葉を吐き捨てる。


「また歴史を繰り返すのか……」
「ふざけんな!! どいつもこいつも、面倒くせえな!! そんな安全地帯で好き勝手に言いやがってよ!!」
「……犬っころ、殺されてえのか?」


 サトルは失望したように呟き、シンは怒鳴り散らし、アランは静かに殺気を放った。


「ここ開けろ! 閉じ込めるよりも、話し合うのが先だろうが!」
「本当にムカつく! 頭固すぎよ!」


 デルタは諭すように、一方でソニアは今の感情のままに叫んでいた。


「おー、おー、人間は野蛮だね。躾のなってねえペットだ。お前らは、その檻の中で、せいぜい飼い主が迎えに来るのを待ってるんだな? ククッ……!!」


 口々にその犬族に罵詈雑言の限りを飛ばすが、そいつは俺達のことを見て卑屈に笑うばかりだ……
 理不尽なこの状況に、怒りは滞りなく湧いてくるのに、俺は拳を強く握って奥歯を噛むことしかできなくて……
 何でだよ……何で俺達が、こんな目に遭わなきゃならないんだ!


「あのさ、楽しそうなところを水さして悪いんだけど? あんた、モーリスって人間のこと知ってる?」


 しかし、そんな状況で君だけは呆れるほどに、いつもと変わらなくて……
 ゾーイは真顔でその犬族に、そう質問をするものだから、そいつはそれまでの憎たらしい顔とは打って変わり、急な間抜け面を晒す。


「はあ? モーリスだ?」
「知らない? 髪がセンター分けの、ネチネチ細そうな嫌味眼鏡の人間」
「……ああ! この前にフウタが連れて来た、駒のことか!」


 ゾーイ、それ言い訳できないよ? 悪口でしかないよ?
 全員の引くつく顔を背中に、ゾーイはご丁寧に、センター分けと眼鏡のジェスチャー付きで、質問を繰り返す。
 しかし、それが功を奏したのか、その犬族は思い出したように声を上げた。


「……駒?」
「あの人間もバカだよな! 甘い言葉に乗せられたんだろうが、事が済んだら即効で廃棄に決まってるのによ! 完璧な世界がとかどうとか、宗教じみたことばっかり言いやがってよ? 不気味でしかねえぜ!」


 そして、その犬族は、さらにモーリスへの中傷を、それは面白おかしそうに大笑いしながら得意気に話した。
 モーリス……何があったにせよ、裏切り者だという事実は変わらないが、あまり気持ちのいい話ではなかった。
 完璧な世界? 奴は何をしようと……


「あ、もしや、アイツってお前らの知り合いか? 本当に人間って、バカばっかりなんだな! ククッ……この千年で進化じゃなくて、猿に退化したのか?」


 しかし、そんな考察もままならないほどに、その犬族は檻の中にいるの俺達のことを、これでもかと煽り続けた。
 俺は久しぶりに、奥からせり上がってくる腸が煮えくり返る感覚に陥った。
 何で、こんな安全圏にいる卑怯な奴にここまでコケにされるんだよ!


「このクソ野郎がいい加減に……!!」
「あ、ねえ、ブーツに毛虫乗ってるよ」


 しかし、あと少しで堪忍袋の緒がブチ切れ寸前の望が前に出ようとした時、君はまた突拍子のないことを言う。
 あまりに突然で理解するのに数秒かかったほどだ……え、毛虫?


「……あ? 何て言った?」
「だから、毛虫! あんたのブーツ!」
「はあ!? どこ……グアアア!?」


 けど、やっぱりゾーイ、君は俺達の常識を軽く超えてくる。
 ゾーイは、その犬族がブーツを見ようとして俯いた瞬間に首を掴み、そのまま鉄格子と鉄格子の間に無理矢理ねじ込むように、頭部を押し付けた。
 そいつは押し付けてからそのまま悲鳴にもならないような、聞くに絶えない悲鳴を上げた。


「どうせ働き詰めでしょ。しばらく、眠っとけばいいわ」
「ガッ……!!」


 そして、ゾーイはそいつの首の後ろに鋭い手刀を落とし、気絶させたのだ。
 俺達はその瞬間は、誰も動くことができなかった……


「まんまと飼い犬に手を噛まれてくれたわね。犬だけに?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...