エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

それは何かの分かれ道

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「よし! 鍵、発見なり~!」


 ゾーイは、気絶させたその犬族をそのまま床に倒し、鉄格子の間から手を伸ばして、そいつの服を探る。
 そこから昔ながらの錆び付いた鍵を取り出し宣言すると、鍵を開けて檻の外に出たのだった。


「何してんの? 出たら? こんな陰気臭いとこ、早いとこ出るわよ?」


 そんなゾーイの言葉に、檻の中の俺達は我に返り、促されるままに檻の外へと出る。


「やっほー。全員無事みたいね?」
「え、ゾーイって……あれ、みんなまで外に!?」
「待って、いつの間に!?」
「どうやって、外に出たんだ!?」
「てか、さっきの叫びと大きな音は何だったんだ!?」
「ストップ! そんな喋られたところで聞き取れないっての。とりあえず、全員檻から出な」


 すると、ゾーイは隣の檻にいるクレア達に呑気に挨拶をかます。
 そんなゾーイや俺達の様子を見て、案の定にクレア、ジェームズ、ハロルドは驚く。
 おまけに、コタロウはさっきの一連の流れから出た騒音についても指摘をしてくるが、ゾーイはそれを全てスルー。
 とりあえずはと、隣の檻の鍵を開けて全員を外に出していたが……


「それもそうねって……ちょっと!? どうして、ゾーイが鍵を持ってるの!?」


 クレアが根本的なことに気付き、また大声を上げていた。


「は……し、死んでる? 死んでる!?」
「なっ、なななな、何なんだこの状況はああああ!?!?」


 そして、変わらずに、鉄格子との間にねじ込まれて白目を向いて気絶している犬族を見ると、ジェームズとハロルドは絶叫していた。


「あの一瞬で、何があった……!?」
「あー、それは……」
「……コタロウ、わかるだろ?」


 慌てて説明を求めるコタロウだが、それに答えるモカは苦笑いで、レオにいたっては虚ろな目をする。
 当然のようにその虚ろな目先にはゾーイがいて、即座に察したコタロウはもう何も言わずに、すぐに顔を背けた。


「コタロウ! ケガを見せて!」
「え、真由?」
「武器は根こそぎ奪われたけど、救急箱は無事だったの!」
「おー、よかったな。じゃあ、頼む」


 そんな脱出早々頭を抱えるコタロウに駆け寄って、真由は声をかけた。
 医療科としては放っておけないよな。
 その真由の申し出をコタロウは快く受け入れ、端の方でケガを見せていた。
 それにしても、想像してたよりも元気そうで安心した……


「さて、それじゃ、効率良く、ここで二手に分かれるわよ」


 すると、ゾーイは全員が檻から出るのを確認して、俺達にそう宣言する。


「あんたら全員で、他のナサニエルの生徒達を助け出しといて。あ、そうだ、監禁されてるとしたらこの先の重機とかを入れておく倉庫が怪しいと思うのよ。あそこなら、千人なんて余裕で入る。あたしは別行動する。それじゃ、解散!」
「了解! 私達は……え? 待って、ゾーイはどこに行くのよ!?」


 そして、言うだけ言って俺達を残して立ち去ろうとする、ゾーイ。
 あまりのスピードに全員が了承しようとしてしまったが、いち早く違和感を覚えたクレアが急いで制止の声を上げ、俺達も我に返り口々に叫ぶ。
 すると、ゾーイは止まり、それは面倒くさそうに振り返ると……


「コックピットだけど?」
「え、コックピット?」
「ナサニエルを支配するなら、あそこが一番都合がいいでしょ。きっと、そこではモーリスとフウタとの感動の再会が待ってるでしょうね? それじゃ!」
「待って! 待って、待って! そんなこと言われて、君を一人で行かせられるわけないだろ!?」


 今度は走り出そうとするゾーイの腕を掴んで、俺はゾーイを多少は強引だったけど、引き止めた。


「ゾーイ! 私も連れてって! 菜々美の居場所がわかるかもしれないし!」
「僕も行くよ! フウタとちゃんと、話をしないと……!!」


 そして、俺に続くように、次々と懇願とともにゾーイの腕を掴む真由とレオ。


「……あんた達、これは仲良しこよしの遠足じゃないのよ? わかってる?」


 そんな俺達を振り返ることもせず、ゾーイは淡々と吐き捨てる。
 今、ゾーイがどんな表情をしてるのかは想像できないけど、怒っているわけではないと思う……
 その証拠に、ゾーイは俺達の手を振り払うことはなかった。
 そして、沈黙が続く、時間に換算するとそうでもないのだろうが、その時の俺にはその時間がとても長く感じられた。


「はあ……昴、真由、サトル、レオ。この四人を連れて行く」


 やがて、ゾーイは深いため息とともに振り返りながら、言い放って……え?


「何でだよ!? 俺達も連れて行けよ!?」


 名前を呼ばれた者以外は、望の声を皮切りに口々に文句をゾーイに浴びせる。


「何でって……今の真由は少しでも目を離すと、一人で菜々美を捜しに突っ走りそうだし? そうなる前に、一緒に行動した方が安心。そして、それを守るのは昴、あんただからね? レオは、フウタとそんなに話したいなら話せば? あたしに止める気はないし。あと、文句は受け付けない、わかった?」


 しかし、ゾーイは有無を言わせない青く透き通る鋭い瞳で、一瞬にして全ての文句を黙らせた。
 あの瞳の前では、誰もがそうなる。
 実際、名指しされた俺達はただただ頷くことしか、選択肢はなかった。


「サトルは当然、菜々美の救出隊要員でしかないからね?」
「……は?」
「何をボケてんのよ? あんた、菜々美の恋人でしょ?」
「え? あ……ああ、うん」


 そして、ゾーイは残りの一人であるサトルに話を振るが、サトルは驚いたように聞き返した。
 すかさず、ゾーイはサトルの態度を指摘し、それに対してサトルはまるでその事実を思い出したかのように頷いた。
 その短いやり取りに、俺の心の底では再びざわめきを取り戻していた……


「それじゃ、健闘を祈っとくわ」


 俺達はそれぞれがそれぞれに挨拶を交わしてから、反対方向に走り出したのであった。
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