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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
喧嘩別れは後味最悪よね
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「真由、頭上げて」
「ごめん……ゾーイが、うんって言ってくれるまでは絶対に上げない!」
「じゃあ、一生そのままよ?」
真由は床に手と額をつけて、ゾーイにはっきりと宣言する。
ゾーイはそんな真由の行動に驚くことさえせず、ため息をついて淡々と言い放っていた……さすがだよ。
一方で、俺とゾーイ以外のその場の全員は、目を見開いている。
「おい、昴! どうにかしろよ!」
「無駄だよ、望。真由はこうなると、絶対に曲げないだろ?」
「お前な……じゃあ、これいいのか!?」
全員の視線が俺に刺さり、一番に声を上げたのは望だ。
望の質問に俺は答えなかった。
良くはないけど、真由の真剣な気持ちと、ゾーイ説得への強い意志が痛いほど伝わってきたから、俺にはそれを止める権利はないと思ったんだ。
真由と橘さんはナサニエルで出会ったとは思えないほど、ずっと昔から二人は一緒にいたのではないかと思うほど、本当に仲が良かった。
真由を避けていたことがあって、あまりよくは覚えていないけど、真由の隣には絶対に橘さんがいたと思う。
恋人になってからも、真由は橘さんの話をよくしていた……時に妬けるほど。
けど、橘さんの穴を俺が埋めてあげることは絶対にできなくて……ああ、わかってはいても、やっぱり落ち込むわ。
すると、望はそんな俺と真由のことを何度も見比べて、やがて諦めたようにため息をついていた。
他のみんなも、それぞれがお互いに顔を見合せ、何か言いたそうにしながら押し黙っている。
ああ、そっか、俺と同じようにゾーイと真由を見守ることにしたんだな。
「真由。菜々美だって、真由がケガすることは望んでないと思うけど?」
すると、ゾーイは、イスから下りて真由の目の前にしゃがんで、いつも通りのテンションで、そう告げる。
それは最もだ、橘さんなら真由が傷付くことを一番嫌うだろう。
真由もそれについては嫌というほどにわかっているのだろう、その後の答えに迷っているようで、しばらく談話室に沈黙が続いていた時……
「……私のせいだから」
真由は小さく、力なくそう呟いた。
「今、何て……」
「私が! 自分のことばっかで、菜々美のことを気遣ってあげられなくて……喧嘩して、避けて、後回しにして、菜々美の側にいなかったから……!!」
そして、真由はゾーイに震える声を絞り出すように、そう叫んだ。
その後すぐに背中が震え始め、真由が泣いているんだとすぐにわかった。
今日の朝、真由の目は真っ赤に腫れており、きっと全員がわかったはずだ。
ああ、泣き腫らしたのだろうと……
しかし、気丈に振る舞っている真由に対して、大丈夫の一言を誰もかけることはできなかった。
それを告げたら、立ってるのもやっとの真由が壊れてしまうと思ったから。
その時に、俺はまだまだ真由を守るに値しないのだと、自分の弱さを知った。
あ、違う! 今は真由のことを……
「違う。それは全然違うよ、真由」
けど、俺が我に返り真由に駆け寄ろうとしたその時、聞き間違いではないかと思うほどの穏やかな声が、響いた。
「誰一人として、悪くなんてないよ」
ゾーイは、真由の背中をゆっくりと優しく摩ってあげていた。
窓から入る光に照らされたゾーイの髪と瞳が輝き、その時ばかりはその場の全員が見惚れてしまっていたと思う。
女神とかがいたら、きっとこんな姿形をしているのだろうかと、俺は思った。
その時のゾーイは、本当に穏やかに笑っていたから……
「少なくとも、今回の責任の大半はどこぞの陰気メガネと、そこにいる嘘つき王子にあるしね。どうやって責任をとらせようか、今からワクワクしてるわよ」
まあ、その発言で一気に現実に引き戻されたけどね?
あ、いつものゾーイだね、さっきのは完全に幻だ……うん。
その発言は、思わず俯いていた真由がその顔を上げてしまうほどの威力だ。
おまけに涙も引っ込んでるし……
全員が苦笑いをしつつ、嘘つき王子こと、サトルに同情の視線が飛ぶ。
当の本人のサトルは真っ青な顔で、何とか笑顔を作ってはいるのだが、足はガクガクに震えていた。
何ていうか、本当に愁傷さまだね……
「そもそも、菜々美の誘拐はあたし達の忙しさに紛れるっていう、クソほど女々しい卑怯な手口だったのよ。おかげで、誰も菜々美がいなくなったことに夜まで気付けなかったわけだし、真由だけが責任を感じることは一切ないわ」
さっきから、いつもより言葉の所々に棘を感じるけど、ゾーイなりに真由のことを励まそうとしてることはわかる。
「……無理だよ。今の私に責任を感じなくてもいいなんて、何回言われたって無理だよ」
それでも、やっぱり、真由は今回のことを後悔をせずにはいられないみたいだった。
「全部、自分のため」
「……え? どうした、急に」
そんなどうするんだと言いたげなモヤモヤした空気の中、突然声を上げたのは真由で、聞き返したのはゾーイだった。
というより、今の言葉って、どっかで聞いたことあるような?
「ごめん……ゾーイが、うんって言ってくれるまでは絶対に上げない!」
「じゃあ、一生そのままよ?」
真由は床に手と額をつけて、ゾーイにはっきりと宣言する。
ゾーイはそんな真由の行動に驚くことさえせず、ため息をついて淡々と言い放っていた……さすがだよ。
一方で、俺とゾーイ以外のその場の全員は、目を見開いている。
「おい、昴! どうにかしろよ!」
「無駄だよ、望。真由はこうなると、絶対に曲げないだろ?」
「お前な……じゃあ、これいいのか!?」
全員の視線が俺に刺さり、一番に声を上げたのは望だ。
望の質問に俺は答えなかった。
良くはないけど、真由の真剣な気持ちと、ゾーイ説得への強い意志が痛いほど伝わってきたから、俺にはそれを止める権利はないと思ったんだ。
真由と橘さんはナサニエルで出会ったとは思えないほど、ずっと昔から二人は一緒にいたのではないかと思うほど、本当に仲が良かった。
真由を避けていたことがあって、あまりよくは覚えていないけど、真由の隣には絶対に橘さんがいたと思う。
恋人になってからも、真由は橘さんの話をよくしていた……時に妬けるほど。
けど、橘さんの穴を俺が埋めてあげることは絶対にできなくて……ああ、わかってはいても、やっぱり落ち込むわ。
すると、望はそんな俺と真由のことを何度も見比べて、やがて諦めたようにため息をついていた。
他のみんなも、それぞれがお互いに顔を見合せ、何か言いたそうにしながら押し黙っている。
ああ、そっか、俺と同じようにゾーイと真由を見守ることにしたんだな。
「真由。菜々美だって、真由がケガすることは望んでないと思うけど?」
すると、ゾーイは、イスから下りて真由の目の前にしゃがんで、いつも通りのテンションで、そう告げる。
それは最もだ、橘さんなら真由が傷付くことを一番嫌うだろう。
真由もそれについては嫌というほどにわかっているのだろう、その後の答えに迷っているようで、しばらく談話室に沈黙が続いていた時……
「……私のせいだから」
真由は小さく、力なくそう呟いた。
「今、何て……」
「私が! 自分のことばっかで、菜々美のことを気遣ってあげられなくて……喧嘩して、避けて、後回しにして、菜々美の側にいなかったから……!!」
そして、真由はゾーイに震える声を絞り出すように、そう叫んだ。
その後すぐに背中が震え始め、真由が泣いているんだとすぐにわかった。
今日の朝、真由の目は真っ赤に腫れており、きっと全員がわかったはずだ。
ああ、泣き腫らしたのだろうと……
しかし、気丈に振る舞っている真由に対して、大丈夫の一言を誰もかけることはできなかった。
それを告げたら、立ってるのもやっとの真由が壊れてしまうと思ったから。
その時に、俺はまだまだ真由を守るに値しないのだと、自分の弱さを知った。
あ、違う! 今は真由のことを……
「違う。それは全然違うよ、真由」
けど、俺が我に返り真由に駆け寄ろうとしたその時、聞き間違いではないかと思うほどの穏やかな声が、響いた。
「誰一人として、悪くなんてないよ」
ゾーイは、真由の背中をゆっくりと優しく摩ってあげていた。
窓から入る光に照らされたゾーイの髪と瞳が輝き、その時ばかりはその場の全員が見惚れてしまっていたと思う。
女神とかがいたら、きっとこんな姿形をしているのだろうかと、俺は思った。
その時のゾーイは、本当に穏やかに笑っていたから……
「少なくとも、今回の責任の大半はどこぞの陰気メガネと、そこにいる嘘つき王子にあるしね。どうやって責任をとらせようか、今からワクワクしてるわよ」
まあ、その発言で一気に現実に引き戻されたけどね?
あ、いつものゾーイだね、さっきのは完全に幻だ……うん。
その発言は、思わず俯いていた真由がその顔を上げてしまうほどの威力だ。
おまけに涙も引っ込んでるし……
全員が苦笑いをしつつ、嘘つき王子こと、サトルに同情の視線が飛ぶ。
当の本人のサトルは真っ青な顔で、何とか笑顔を作ってはいるのだが、足はガクガクに震えていた。
何ていうか、本当に愁傷さまだね……
「そもそも、菜々美の誘拐はあたし達の忙しさに紛れるっていう、クソほど女々しい卑怯な手口だったのよ。おかげで、誰も菜々美がいなくなったことに夜まで気付けなかったわけだし、真由だけが責任を感じることは一切ないわ」
さっきから、いつもより言葉の所々に棘を感じるけど、ゾーイなりに真由のことを励まそうとしてることはわかる。
「……無理だよ。今の私に責任を感じなくてもいいなんて、何回言われたって無理だよ」
それでも、やっぱり、真由は今回のことを後悔をせずにはいられないみたいだった。
「全部、自分のため」
「……え? どうした、急に」
そんなどうするんだと言いたげなモヤモヤした空気の中、突然声を上げたのは真由で、聞き返したのはゾーイだった。
というより、今の言葉って、どっかで聞いたことあるような?
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