エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

今の地球で一番残酷な再会

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「生きてる……も、もうダメだ……」
「わた、私も足が……!!」
「あー! 自分でもよく頑張った!」


 俺と真由とサトルは揃って肩で必死に息をしながら、その場に座り込んだ。
 やっとの思いでたどり着いた、コックピットの扉の前で。
 あれから、俺達はゾーイを最前、レオを後方、真由、サトル、俺は中央という配置にして、どうにかこうにか次々と襲ってくる敵の犬族と猫族を耐え凌いだ。
 本当に死にものぐるいで走り、剣を振り、倒れないことに必死だった。
 そして、ようやく、久方ぶりのコックピットにたどり着いたというわけだ。


「三人とも、戦闘なんて慣れてないのによく耐えたよ! 偉いよ!」


 目の前では、まだ余裕といった具合のレオが笑顔で俺達に励ましの声をかけてくれる。


「ちょっと、休んでる暇ないわよ?」


 そして、ゾーイも顔色一つ変えずに俺達に立ち上がるように、声をかけた。
 本当に、レオはまだ犬族だからわかるとして……ゾーイは何なの? 人間?
 まあ、いつも通りにそのゾーイの瞳に逆らえるわけもなく、俺達は体に鞭を打って、どうにか立ち上がった。


「けどさ、ゾーイ? どうやって、中に入るんだい?」
「ああ、それなら大丈夫よ」
「え? そんな曖昧なって……」


 俺達のことを気にしながら、レオがゾーイに尋ねる。
 コックピットの扉は内側からしか鍵の開閉ができないようになっており、何よりこの状況で鍵が開いているわけないだろうと、誰もが思っていた。
 しかし、ゾーイはいたって冷静に大丈夫だと主張する。
 それを聞いていたレオが、苦笑いで追求しようとした時……


「ほら、招き入れる気満々よ」


 コックピットの扉が静かに、ゆっくりと開いたのだ。
 そこにゾーイは、特に躊躇なく欠伸をしながら入って行く……どんな精神力だよ、本当に!


「来るなら来いってか……行こう!」


 俺、真由、サトル、レオは顔を見合わせてから、レオの深呼吸からの掛け声を合図に足を踏み入れた。


「久しぶりだな? 恋しかったぜ」
「予想よりも、遥かに早い到着。本当にさすがです。ゾーイ・エマーソン」


 そして、ゾーイの背中越しには皮肉に笑うフウタ、無表情で眼鏡を直すモーリス、他の犬族と猫族が何人かと……


「なっ、菜々美ッ!!!!」
「真由? ま、真由ぅ……!!!!」
「菜々美か?」
「……ッ!! サ、トル……!!」


 手足を固定されて、得体の知れない中央に穴があいたドーナツ型の機械に繋がれた橘さんがいた。
 一目散に走り出した真由と、少し真由より遅れて駆け寄るサトル。
 しかし、真由が、橘さんが繋がれた機械に触れようとした時……


「触らない方がいいですよ」
「……え?」
「触ったその瞬間に、あなたは感電死をしてしまいますから」


 モーリスの残酷な言葉が、俺達の全ての動きを止めた。


「感電死だあ?」
「サトル、抑えろよ……」


 俺はすぐにサトルに釘を刺すが、既にサトルの顔には青筋が立っていた。


「お前らが妙な動きをした瞬間に、俺はこのボタンを押す。そうすると、この女は一瞬であの世行きってわけだ! ハハハハッ! 喜べ、もっと絶望しろ!」
「嫌ぁ……!! 助け、て……!!」
「菜々美! 気をしっかり持って! 絶対に大丈夫だから!」


 悪魔のような笑い声を上げるフウタに俺は人生で初めて、殺意というものを向けた。
 それを聞いた橘さんは、ほとんど半狂乱に陥っており、真由が必死に宥める。


「安心してくださいよ。こちらの要望を聞き入れていただければ、橘さんに危害を加えることはありませんので」
「要望って何だ?」
「雨野サトル、あなたには私達が作る王国の王になってもらいます」
「それは何度も……!!」


 ピシャリと、この場にそぐわないすごく冷たいモーリスの言葉が放たれ、敵意むき出しのサトルが、それに反応する。
 要望は、この前のサトルから聞いたことと変わらないもので、サトルはすぐに断ろうと口を開く。
 しかし、俺は妙に決定したようなその言い方に違和感を覚えた、その時……


「断れば、不本意ですが……私はこのボタンを押すことになります」


 絶対零度の瞳で、モーリスははっきりと殺人予告を告げたのだ。


「そんなこと卑怯だよ! 脅迫もいいとこじゃないか!」
「モーリス! こんなの間違ってる!」
「何と言われようと、私の考えが変わることはありません」


 すかさず、レオと真由がモーリスに猛抗議をするが、それを当選のようにモーリスが受け入れることはなかった。


「……またかよ」
「サトル?」


 そんな時に、隣からサトルの消え入りそうな声が聞こえて俺が振り向くと、そこには不気味に笑いながら、今にも泣きそうな震えるサトルがいた。


「いつだって、選択肢は一つしかないくせに、僕が決めたことだと責任を押し付けて……僕に罪悪感を植え付けることがお前らのやり方じゃないか!!」
「サトル、急にどうし……」
「あの時だって!! 僕は、母さんのことを助けたかっただけなんだ!! けど、父さんも母さんも死んで……だから、次は絶対に助けるって、その思いだけでここに来たんだ!! それなのに、僕にまた選択しろと言うのかあああ!!」


 そして、サトルは絶叫しながら、頭を抱えてその場にうずくまる。
 俺の声も、まったく耳に届いてないようで、まるで壊れかけの人間を見ているようで怖くなり、俺は後退った。


「あのさ、一つ提案なんだけど」


 しかし、またいつもの様に自分中心で話を進める君がいて、本当に助かった。


「あ? 何だよ?」
「あんたの後ろにいる、そのデカブツ」


 すると、ゾーイはこれでもかと顔を歪ませて返事をしてくるフウタの、後ろを指差す。
 その物体はゆっくりと立ち上がり、俺達のことを見下ろした。


「そいつにあたしが勝ったら、菜々美のこと解放してよ」


 そこには、ゾーイの倍、余裕で三メートルは超えてるであろう巨大な、怪物のような、犬族がいた。
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