172 / 257
第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
覚悟皆無でお遊戯会決定
しおりを挟む
「わかった。あんたら全員殺して、あたしだけ生きるってのは、どう?」
ウェーブがかった高い位置に結ばれたポニーテールが、ゆらりと風に揺れる。
全てを見透かしているかのような、透き通る青の瞳が光る。
君のたった一言で俺達はいつだって支配されてきた。
それがわかってるというように――ゾーイ・エマーソンは笑うのだ。
その場の……戦場にいた全員が、争うことをやめ、たった一人の少女をその視界に入れるために、遥か上を見上げた。
「さてと……祭りの始まりじゃああ!!」
すると、一瞬は静まり返っていた戦場に再びというより……それ以上の悪夢が訪れることになった。
ゾーイの高らかなやけに響いた叫びとともに、次々と味方や敵は関係なくバズーカは連射され、地面を削り上げて、辺り一面に爆音と悲鳴が響く事態。
「ゾーイ!?!? 今度ばかりは、おかしいわよ!? 正気なの!?」
「どうするつもりなんだ!?!? このままでは死人が出てしまうぞ!!」
「もう頼むから、落ち着けって!! この後のことを考えてくれよ!!」
あまりの爆音に耳を押さえ、衝撃で転げ落ちないように踏ん張る、俺達。
クレア、ハロルド、コタロウの三人が代表し、そのバズーカの爆音に埋もれることのないようにこれでもかと大声を張り上げている。
すると、タイミング良く、バズーカの連射は止まったが、それは三人の訴えに答えたというよりは……
「あー、残念ね。弾が切れちゃった」
ゾーイは驚くほどの棒読みで、どこに隠し持っていたのか拡声器でそう呟く。
もう、何が何やら……俺はこの時点でどっと疲れが溢れ出していた。
「なっ……何が弾が切れただ、何が!! 頭の中どうなってんだ!!」
「ふざけやがって、このイカレ女が!!」
「信じられないんだけど!? 私達のこと殺すつもり!?!?」
王国の犬族と猫族、百鬼夜行、他の生徒達、本当にあちこちから味方や敵が関係ない状態で、ゾーイに対しての誹謗中傷が飛び交う始末。
まあ、そりゃそうだろうよなんて、俺達は目を合わせていたのだが……
「殺すつもりだったけど」
聞き間違いかと思ったが、君の声は良くも悪くも、よく響く。
拡声器を通した迷いのない言葉に、俺達は再び言葉を失っていた。
「……とか言ったら、どうするのよ?」
それは例えるならば、大きな今にも割れそうな風船に針が刺され、破裂することなく萎んだような状態。
まるで刺されるような空気は、その空気を作り上げた張本人のゾーイの淡々とした口調でぶった斬ることになった。
俺はそこで、止めてた息を吐き出す。
冗談だったのか……こんなに嘘でよかったと思うこともないと、俺だけじゃなくてその場の誰もが思っただろう。
「ねえ、暇になっちゃったから、興味本位で聞くんだけど、この中で人を殺したことある奴っている?」
けど、あいもかわらず、ゾーイのその青い瞳の真意を読み解くことは、俺にはまだできなかった。
ゾーイは、さっきの自分の発言の流れを完全に無視して、俺達にまた厄介な質問を投げかけてきたのだ。
当然だけど、その質問に答える者は誰一人いなかったのだが……
「何だ、揃いも揃ってこの戦争に覚悟を持ってないのね? じゃあ、これってお遊戯会か何か? あんたら全員さ、戦争を自由を掴み取って支配するための最終手段って思ってる? 違うからね? はっきり言わせてもらうけど、戦争はただの殺し合いだからね?」
それに返ってきたゾーイの答えは、まあ散々なものだった。
けど、それで気付いたことがある。
俺達が気付いた時点で、どれほどこの戦乱の状態が経過していたのかどうかはわからないけど、この時点で誰も死人が出ていなかったのだ。
ここから見た状態だとあまり正確にはわからないが、ケガをしてる者は少し見当たるが、明らかな死体は見当たらなかった。
少し前にレオに聞いたことがある。
地上では、殺害はこの世界の最大の悪とされており、その罪は死んでも消えることのない恐ろしいものだと、これは地上の神リンの啓司だと、子どもの頃に教えられるのだとか。
だから、よほどの理由でもない限りは犬族や猫族は仲間の命を絶つ行為をすることはありえないのだそう。
まあ、それを聞いたゾーイがあたし達のことは処刑したくせにと、何とも鋭く正直な気まずい指摘をしていたことは苦笑いしか出なかったが……
荒くれ集団だと噂されている百鬼夜行さえも殺しをしないのだと聞いたが、この状況を見るにそれは本当なのだろう。
他のナサニエルの生徒も、もちろん同じで俺達も同様だが、誰かを刺すという行為すらできる者はほぼいないだろう。
「それじゃ聞くがな? そんなこと言うくらいなら、お前は誰かの命を絶ったことがあるのかああああ!?!?」
「……人は殺したことなんてないわよ」
言われっぱなしに腹が立った百鬼夜行の一人の猫族が、大声でゾーイに叫ぶ。
その挑発に対して、ゾーイはそれまでよりも明らかに物静かに呟いた。
それを聞いた他の戦場に立たされてた奴らが、一斉にざわつき始める。
「けど、人が目の前で死ぬ瞬間は見たことはある。何度もね?」
しかし、その君の一言によって、俺達の周りはまた、音を盗まれたように静まり返るのだった。
ウェーブがかった高い位置に結ばれたポニーテールが、ゆらりと風に揺れる。
全てを見透かしているかのような、透き通る青の瞳が光る。
君のたった一言で俺達はいつだって支配されてきた。
それがわかってるというように――ゾーイ・エマーソンは笑うのだ。
その場の……戦場にいた全員が、争うことをやめ、たった一人の少女をその視界に入れるために、遥か上を見上げた。
「さてと……祭りの始まりじゃああ!!」
すると、一瞬は静まり返っていた戦場に再びというより……それ以上の悪夢が訪れることになった。
ゾーイの高らかなやけに響いた叫びとともに、次々と味方や敵は関係なくバズーカは連射され、地面を削り上げて、辺り一面に爆音と悲鳴が響く事態。
「ゾーイ!?!? 今度ばかりは、おかしいわよ!? 正気なの!?」
「どうするつもりなんだ!?!? このままでは死人が出てしまうぞ!!」
「もう頼むから、落ち着けって!! この後のことを考えてくれよ!!」
あまりの爆音に耳を押さえ、衝撃で転げ落ちないように踏ん張る、俺達。
クレア、ハロルド、コタロウの三人が代表し、そのバズーカの爆音に埋もれることのないようにこれでもかと大声を張り上げている。
すると、タイミング良く、バズーカの連射は止まったが、それは三人の訴えに答えたというよりは……
「あー、残念ね。弾が切れちゃった」
ゾーイは驚くほどの棒読みで、どこに隠し持っていたのか拡声器でそう呟く。
もう、何が何やら……俺はこの時点でどっと疲れが溢れ出していた。
「なっ……何が弾が切れただ、何が!! 頭の中どうなってんだ!!」
「ふざけやがって、このイカレ女が!!」
「信じられないんだけど!? 私達のこと殺すつもり!?!?」
王国の犬族と猫族、百鬼夜行、他の生徒達、本当にあちこちから味方や敵が関係ない状態で、ゾーイに対しての誹謗中傷が飛び交う始末。
まあ、そりゃそうだろうよなんて、俺達は目を合わせていたのだが……
「殺すつもりだったけど」
聞き間違いかと思ったが、君の声は良くも悪くも、よく響く。
拡声器を通した迷いのない言葉に、俺達は再び言葉を失っていた。
「……とか言ったら、どうするのよ?」
それは例えるならば、大きな今にも割れそうな風船に針が刺され、破裂することなく萎んだような状態。
まるで刺されるような空気は、その空気を作り上げた張本人のゾーイの淡々とした口調でぶった斬ることになった。
俺はそこで、止めてた息を吐き出す。
冗談だったのか……こんなに嘘でよかったと思うこともないと、俺だけじゃなくてその場の誰もが思っただろう。
「ねえ、暇になっちゃったから、興味本位で聞くんだけど、この中で人を殺したことある奴っている?」
けど、あいもかわらず、ゾーイのその青い瞳の真意を読み解くことは、俺にはまだできなかった。
ゾーイは、さっきの自分の発言の流れを完全に無視して、俺達にまた厄介な質問を投げかけてきたのだ。
当然だけど、その質問に答える者は誰一人いなかったのだが……
「何だ、揃いも揃ってこの戦争に覚悟を持ってないのね? じゃあ、これってお遊戯会か何か? あんたら全員さ、戦争を自由を掴み取って支配するための最終手段って思ってる? 違うからね? はっきり言わせてもらうけど、戦争はただの殺し合いだからね?」
それに返ってきたゾーイの答えは、まあ散々なものだった。
けど、それで気付いたことがある。
俺達が気付いた時点で、どれほどこの戦乱の状態が経過していたのかどうかはわからないけど、この時点で誰も死人が出ていなかったのだ。
ここから見た状態だとあまり正確にはわからないが、ケガをしてる者は少し見当たるが、明らかな死体は見当たらなかった。
少し前にレオに聞いたことがある。
地上では、殺害はこの世界の最大の悪とされており、その罪は死んでも消えることのない恐ろしいものだと、これは地上の神リンの啓司だと、子どもの頃に教えられるのだとか。
だから、よほどの理由でもない限りは犬族や猫族は仲間の命を絶つ行為をすることはありえないのだそう。
まあ、それを聞いたゾーイがあたし達のことは処刑したくせにと、何とも鋭く正直な気まずい指摘をしていたことは苦笑いしか出なかったが……
荒くれ集団だと噂されている百鬼夜行さえも殺しをしないのだと聞いたが、この状況を見るにそれは本当なのだろう。
他のナサニエルの生徒も、もちろん同じで俺達も同様だが、誰かを刺すという行為すらできる者はほぼいないだろう。
「それじゃ聞くがな? そんなこと言うくらいなら、お前は誰かの命を絶ったことがあるのかああああ!?!?」
「……人は殺したことなんてないわよ」
言われっぱなしに腹が立った百鬼夜行の一人の猫族が、大声でゾーイに叫ぶ。
その挑発に対して、ゾーイはそれまでよりも明らかに物静かに呟いた。
それを聞いた他の戦場に立たされてた奴らが、一斉にざわつき始める。
「けど、人が目の前で死ぬ瞬間は見たことはある。何度もね?」
しかし、その君の一言によって、俺達の周りはまた、音を盗まれたように静まり返るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる