エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑴ 良い子は謎解きの時間だよ

アドベンチャーライブラリー

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 ナサニエルには、それはそれは巨大な図書室が存在している。
 ナサニエルの図書室は、空島総合図書館と空島歴史資料館とともに、空島の三大資料館と呼ばれている。
 その理由は、圧倒的な取り扱い文献の数である。
 ナサニエルの別館部分を丸々陣取る図書室は、何日居座ったらすべての図書を読破できるのか……想像できないほどの数の資料と広さを誇っていた。


「久しぶりに来たな! 我が母校、ナサニエルの誇る聖地! 図書室よ!」
「……にしても、あいかわらず、ド迫力の本棚の整列っぷりだな?」
「あたし、実を言うと、端まで行ったことないんだよね」


 天井は三階まで突き抜けで、ガラス張りの窓からの景色は良好、生徒達の勉強環境を第一に考えた、開放感たっぷりの空間。
 開口一番の意味不明なハロルドの言う通りに、俺達がここを訪れるのはナサニエルが墜落して以来だろうから、本当に久しぶりだな。
 その中で、ハロルドを冷え切った目で見ながら、デルタとソニアは久しぶりの光景に圧倒されているようだ。
 壁一面は当たり前として、俺の身長の倍以上はあるだろう本棚。
 それが一体いくつなのかなんて数えるのは途方もないが、その整列っぷりは見事なもので、端が見えないのである。
 空島有数のエリートを創出する学園として名高いナサニエルに、まさにふさわしくて、申し分のない図書室なのだ。
 ここに来れば、確実に自分の学科の授業で学ぶ資料は手に入るし、テストの前の日に篭城する勢いで居座っていた生徒を何人も見たことがある。


「ねえ、気のせいかな? 何だか、若干埃っぽい気がするんだけど……」
「それなら、決して気のせいではないと思いますよ? サバイバル生活の中で図書室を使うなんてことは、あまりないでしょうからね」


 すると、ジェームズが苦い顔をして俺達を見ながら問うてくるので、モーリスは同調と補足をする。
 本当にその意見には激しく同意だ。
 突然始まったサバイバル生活で、図書室で過ごそうだなんて奇特な人間は、あまりいないだろう。
 どこか空気もよどんでる気がする……


「そうなると……まず明日は、掃除を始めた方が良さそうね?」
「確かに! 約一年分の埃が溜まってるわけだもんね!?」
「とりあえずだけど、窓開けない? 換気しないと変な病気になりそう!」


 図書室の様子を見渡しながら、クレアは素早く提案してくるので、それに菜々美が手を叩いて勢いよく賛成する。
 おそらく、本棚なんてハウスダストが埋まってるようなもんだな……
 とにかく空気が悪いということで、真由は正面の大きなガラスの窓を開けた。
 すると、途端に風が舞い上がり、光がどこからともなく差してくる。
 その光は、俺達の前に立ったゾーイの髪を、何倍にも煌めかせた。


「とにかくよ? これだけ大量の資料があるわけだから、一つぐらいはこの白黒の大蛇のシンボルに関係する資料とかが見つかるはず! 探し出して、絶対に空島に帰るぞおおおおお!」


 光に照らされて輝くゾーイは、珍しく気合い十分という感じで、そう高らかに宣言をする。
 俺達もつられるように、全員で拳を突き上げて、気合いの声を上げた。
 その日から、望、サトル、アラン、シンの飛行機修理組以外の俺達は、全員で図書室に篭って、手がかりを探し続けることになったのだが……










 一か月経っても、何も手がかりを得ることはできなかった。


 ***


「お疲れって……まあ、そんな平和な感じでもないよな?」
「おーい? 全員、生きてるか? それとも、死んでるか?」
「少しは、休んだらどう? 逆に効率が悪いと思うけど……」


 毎日のように顔を合わせてるし、夜に何回かは一緒に食事もする。
 何なら、出会って、共に過ごして、あと少しで一年が経とうとしている。


「あ……? ああ、何だ。レオ、コタロウ、モカだったか……」


 それなのに俺は一瞬、苦笑ぎみのレオの声も、呆れたようなコタロウの声も、心配そうなモカの声も、何一つとして理解ができなかった。
 やっとの思いで絞り出した声も、それは情けないほどにか細くて、今にも消えそうなもので……
 単純に言うと、簡単な状況判断も鈍るほどに、俺は……俺達は限界だった。
 横目で薄く周りを見るけど、全員が意識が朦朧としてる中で、本のページをめくるという地獄絵図が広がっている。


「あっれれ~? レオ、コタロウ、モカじゃん! どうしたよ?」


 まあ、一人を……ゾーイ・エマーソンという超人を除いてはだけど。
 ゾーイは分厚い本を片手にし、レオ達の前にいつも通りの健康体そのもので現れた。
 そして、すっかり床が見えなくなるほどに散らばった本の山を掻き分けて、椅子を探り当てて、レオ達に座るように促していた。
 何を話しているかなんて、もう聞き取れるほどの体力は残っていなかった……
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