エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑴ 良い子は謎解きの時間だよ

何が書いてあったのか

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 荻凛太郎本人が残したであろうその手記には、ゾーイの翻訳曰く、このようなことが書かれていた。


『改めて、私は、荻凛太郎と言う者だ。
私の手記を見つけ出してくれたこと、心より感謝を述べさせてもらう。
これを書いている今は、2037年だ。
空島への人類の移住計画が完了して、三年の月日が流れた。
私は明日の午後、安楽死をさせられ、この世から消えることになる。
その理由は、私が人類の方針に逆らってしまったからだ。
私は、しがない日本人の研究者だ。
しかし、第三次世界大戦で地上が滅び数年、私は人類の存亡をかけた世紀の大発明を完成させた。
それが、シエロだ。
驚かせてしまったかな? 私が空島を作り出した張本人なんだ。
まあ、きっと、表の歴史は綺麗さっぱり塗り替えられて、私の名前が出てくることはないだろうが。
信じられないだろうか?
しかし、空島に住む君達が使っている共通言語は、元々は日本語と呼ばれていたものでね? 
それを使い始めたのも、すべては私が日本人だったからという理由だ。
シエロや空島のことにおいてのすべての情報を知り尽くし、不利にならないための各国の虚勢であったのだろう。
そんな私が殺される理由を、先ほど人類の方針に逆らったからだと言ったが、正確には人類存続条約に反対したからだ。
私は、新世界の反乱分子だと見なされてしまったのだ。
しかし、私にはどうしても納得ができるわけがなかった。
人類だけを優先して、その他の動物を見殺しにするなんて、人間にそんなことを決める権利はないはずだ。
私には妻や子はいなかったが、愛犬と愛猫が、唯一の私の家族だったんだ。
その子達すらも、奴らはこの荒廃した地上に置いて行けと言う。
そんなことをすれば、すぐさまこの子達は死んでしまうだろう。
それだけは我慢ならなかった。
どんな形であったとしても、生きていてほしかった。
そこで、私はある研究を完成させた。
人類は進化を繰り返し、今のように言葉を話すことや、足で歩くこと、手で道具を使うようになった。
人類に可能なのならば、犬や猫にもそれは可能だろうと、私は考えた。
そして、私はを完成させ、それを私は愛犬と愛猫に飲ませた。
私の計算では、約千年で私達人類の進化に追いつくはずだ。
おそらく、地上は生まれ変わるだろう。
それを一番に君みたいな若者に知って空島の未来に役立ててもらいたくて、私はナサニエルを創設し、図書室にこの手記を隠したんだ』


「これはまたまた、衝撃の事実のオンパレードね? 全員ついて来れてる?」


 そこまで読んで、ゾーイは顔を上げて俺達のことをぐるりと見渡した。


「無理だろ。すでに脳みそが限界だ」
「ほとんどが、ゾーイの仮説のまんまではないか!?」
「不本意とはいえ、千年分の封印を、俺達が解いたってことなのか……」


 そのゾーイに一番に答えたのは、天を仰ぐアランだった。
 ハロルドは立ち上がり、そこら中を歩き回り、望も頭を抱えて机に突っ伏す。


「その、荻凛太郎という人物が空島と地上を作り、そして反乱分子として安楽死という手段で殺された……!?」
「こんな重要なことを隠蔽して……今の政府は、どこまで把握してるの!?」


 モーリスは真っ青になって、ガタガタと震え、真由は身振りも声も大きくなるばかりだが……全員が、必死に心を落ち着かせようとしていた。


「おまけに新事実。けど、これでようやく、ずっと違和感に思ってたことが解決して、すっきりしたわ」
「え? 新事実って……?」
「犬族と猫族が信仰している神、リンの正体が荻凛太郎だっていう事実よ。凛太郎のリンをとって、いつの間にかそう呼ばれるようになったんでしょうね?」
「まさか、そんなこと……!?」
「俺達の神は、人間?」
「けど、それなら、姿がわからないこととかも納得はできるわ!」


 さらに、ゾーイは、まだまだ大して整理もできていないのに、とんでもないことをレオが聞き返した言葉に返事をするように、三人に告げたのだった。
 当然だけど、レオは目を見開き、コタロウは放心状態で、モカは悲鳴を上げるように、それぞれの反応を見せていた。
 一方で、俺の頭では、激しく情報が何重も飛び交うという事態に陥っていた。
 荻凛太郎のこともだけど……何で、ゾーイは、そもそも、そこまでの詳細な仮説を立てられたんだ?
 

「さてさて、まだ次のページにも文章が続いてるから、読むわよ?」


 そう言って、ゾーイはまたページをめくり、読み進めていった。


『さて、一つ目の知ってもらいたかったことはそれなのだが、もう一つは空島の未来に関わる重要な秘密だ。
空島が発足して三年になるが、しつこく空は神のものだと主張している、とある一族がいる。
今はまだ勢力は少ないが、奴らこそ本当の反乱分子になりかねないだろう。
これを読んでいる君の未来が、どういう状態なのかは想像もできないが、平和なのなら奴らの芽を摘んでしまってくれ。
もしも、すでに何らかの変化が空島で起きているのなら、早急に奴らを潰しておくべきだ。
その一族の名というのが……』


 しかし、突如ゾーイは、そこで読むのをやめてしまった。


「ゾーイ? どうかした? 続きは何て書いて……え!?」


 不審に思って、菜々美がゾーイの顔を覗き込むように問うが、突然ゾーイは椅子から、無表情で立ち上がり……


「全員、今日の夜の二十三時。五階の奥の空き部屋に集合ね」
「は? まっ、待って! ゾーイ!」
「空き部屋って、そこで何を……!!」


 それだけ吐き捨て、ゾーイは図書室を出て行こうとするので、慌ててサトルとクレアが叫んで引き止めるが……


「そこで、決着をつけるに決まってんでしょ?」


 ゾーイは振り返ることなく、そのまま図書室を出て行った。
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