エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第五章 ゾーイ・エマーソンの正体

過ごしやすい気温だと思う

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「え? 俺に話……?」
「他にこの部屋に誰がいるのよ」


 狼狽えてる俺を他所に、ゾーイはズカズカと入って来ては、我がもの顔で左隣の望のベットへと腰を下ろす。
 正直、ゾーイからの話があるとか、前科がありすぎて恐怖しかないし、皆目見当もつかないんだけど……


「それじゃ、さっそく本題に……」
「わああああ!! ゾーイ、待って!」
「はあ?」
「ま、まずは……俺からでもいいか?」
「……どうぞ」


 あ、今のは完全に、面倒だけど、話が進まないから早く話せって目だ。
 どうしよう、今だけならゾーイの突き刺さる視線が何を言いたいのか手に取るようにわかるのと同時に……俺は自分の小心者っぷりに泣きたくなった。
 けど、ゾーイと二人とか珍しいシチュエーションだし、この際だから聞きたかったことは聞いておいて損はないだろうと思ったのだ。
 ゾーイからの話という名の、メインディッシュはその後だ……


「ゾーイはさ……どこまで、マイルズと対峙した時の流れを計算してたんだ?」
「流れって?」
「あ、たとえば、拳銃とか? あと、俺は正直言うと……ゾーイが別プランって言ってた生中継の方が、メインの計画だったんだろうなと思っていて、それのこともどうだったのかなって……」


 ことごとくまとまってないし、しどろもどろになる自分にまた泣きたくなる。


「あー、拳銃の存在は、ちょっとは予想してたかな。ローレン家が空島を手中に収めるためには、何かしらの武器とか切り札が必要だろうと思ってたし」
「え? そうなんだ……さすがだよな」


 けど、ゾーイは俺のそんな会話にも普段通りに淡々と答えてくれた。
 そして、その答えにも驚くばかり、本当にいつだって先を歩いてるよな……


「それと、生中継の方をメインの計画で考えてたんだろってのは、正解よ? 賢くなってんじゃん?」
「えっと、ありがとう……? けど、それだったらどうして、俺達にも話してくれなかったのさ?」
「そんなの、まあ、あくまで一部を除くけど……あんたらが揃いも揃って演技がド下手だからよ。バカ正直にしか生きることのできないあんたらに、あたしの土壇場での迫真の演技を邪魔されたら、計画が見事に水の泡だもの。決まってるでしょ?」


 褒められてるのかわからなくて、とりあえずお礼を言ったが、その後の続いた散々な言われように、ゾーイは俺達のことを一ミリも褒める気はないなと悟る。
 まあ、たとえ、本当の作戦のことを話されていたところで、気負いすぎて、挙動不審になってた気もするしな……


「あ、じゃあ、最後に一つ!」
「おー、話題が尽きないね。何?」
「……どうして、俺と望のことを執務室に連れて行ったんだ?」


 二つの疑問が解けて、そして、その答えに情けないことに腑に落ちてしまった俺は、最後に一番聞きたかったことをゾーイに尋ねた。
 終わったら聞こうと思ってた……あの状況の中で、どうして、サトルでも、クレアでも、アランでもなく、俺と望を連れて行くことを選んだのかを。


「……まさか、ここで気が合うとはね」
「え?」


 すると、ゾーイは目を見開き、ニヤリと笑った後に、俺にそう告げたのだ。


「あたしも、そのことについて話そうと思ってたんだよね」
「そ、そうなの……?」


 確かに、まさかこんなところで以心伝心をするとは予想外で、同時に一体、何を話されるのか……俺は自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「昴を連れて行ったのはさ、あたしがキレるきっかけをくれると思ったの」
「……は?」


 しかし、ゾーイから発せられた言葉の意味が、俺はまったく理解できず、間抜けな声が零れていた。


「ごめんだけど、意味が……」
「望を連れて行ったのもそのためよ。昴は、良くも悪くも自分のキャパを超えることを平気でやるから……だから、あたしと望が危ない目に遭ったら助けようと無茶をするだろなって思ったの」
「……え?」
「望の血の気の多さとあたしの煽り、マイルズの怒りの最高潮の矛先があたしと望のどちらに向くか、そこはほとんど賭けだったわ。けど、そこで昴が反論し、マイルズが少しの隙を見せたのと同時にあたしがブチ切れて、完全に油断させたところを形勢逆転ってのが、あたしの計画だったのよ」
「……つくづく、君が敵じゃなくてよかったって思うよ」


 ゾーイから語られる、俺と望の性格を完全に把握した上の、そのエグい計画にはため息しか出なかった。
 どうやったら、そんなことを思いつくのだろうかと考えていたら、無意識で本音が出てたよ……


「けれど、昴はあたしの計画の範疇を超えてきた」
「そっか……え、何のこと!?」
「飛び出したでしょうよ。拳銃持ってるマイルズの前に」


 しかし、次に出たまさかの言葉に、俺はゾーイに視線を移すが、ゾーイは無表情でその真意は読み取れなかった。


「さすがに、あれは予想できなかった」
「無我夢中だったから……」
「まったく……もしも、あたしが間に合わなかったら、今頃は天国よ?」


 どうやら、ゾーイは本気で呆れているようだ……それじゃ、あの時のゾーイの焦った顔って、本当だったんだ。
 まさに、貴重な瞬間だったわけか。
 けど、そうすると、ブチ切れたのも演技だったのか? それにしては……


「それじゃ、あたし、これから地獄の検査祭りだから、行くわ」
「え? あ、ゾーイ、待って!」


 そう考えていると、ゾーイは立ち上がり、この病室を出て行こうとする。
 普通に見送ればいいのに、その時の俺は、なぜか妙にゾーイを引き止めなければと思った。


「そ、その……手、どうかしたの!?」
「手?」
「あ、ここに来てから、パーカーから出してないなって思って……」


 しかし、会話が思い付かず、口からでまかせもいいとこの、部屋に入って来た時からの違和感を口にした。
 まあ、ゾーイが、パーカーから手を出さないのが妙に気になっていたのは、本当だが……


「……空島は、少し肌寒いからね」


 そう呟いたゾーイが、寂しそうだったのは気のせいなのだろうか。
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