エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第五章 ゾーイ・エマーソンの正体

タチの悪いイタズラだろう

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「あ、それと、菜々美の返事はサトルのと一緒に入っていたから、一通手紙が足りなくても問題ないわよ」
「了解だけど……あの二人は、あと何年待てば婚約するんだ? やってることはほとんど夫婦と変わらねえのにさ」
「さあね……? そればっかりは、タイミングなんじゃない? 菜々美はまだ自由でいたいって感じだし」
「おまけに、そのことをサトルの方も受け入れてるしな?」
 

 そうこうしてる間に書き終わった手紙の数を数えている時に、あれ一通書き忘れたかと慌てている俺に、真由が大丈夫とのフォローの言葉をかけてくれる。
 そして、話題に出てきたお互いの親友の名前からその現状を思い出し、俺達は揃って苦笑するしかなかった。

 サトルはナサニエルを卒業し、その身分を明らかにした。
 そして、出身島であるアイランド58の王国の国民に対して、前国王夫妻の事件の真実を白日のもとに晒し、すべての元凶となった叔父を追放後……サトルは国王に即位したのだ。
 それをきっかけにして、ほとんど独立国家の鎖国状態となっていた王国を解放し、他の空島との国交を開いた。
 確か、その頃だと思う、サトルと菜々美が恋人として復縁をしたのは。

 菜々美はナサニエルを卒業すると、恵まれない子ども達を救うボランティア活動を始めて、各空島を回るという生活を送るようになっていた。
 そんな時に訪れたサトルの王国で、滞在する間、菜々美はサトルの業務をサポートするようになった。
 慣れないことが続く中で、菜々美はそれは献身的にサトルを支えたようで、サトルは本来の菜々美のそんな愛情の深さに救われて、自覚してしまった自分の気持ちを打ち明けたのだ。
 しかし、前のことがあるからと菜々美は告白を断わったらしいのだが、そこでサトルは諦めなかった。
 諦めずにアピールをするサトルと、そのサトルのアピールと前に別れた時のことを思って悩む菜々美との、どちらの相談も受けていた当時の俺と真由は、それはヤキモキしていたものだ。

 結果的には約一年後に、晴れて二人は恋人となり、現在も文字通り、公私共に支え合うようになる。
 愛の力なのか、何なのか……恋人同士となった二人の勢いは凄まじかった。
 まず、手始めに王国全体で大規模なボランティア団体を立ち上げた。
 そして、有り余っていた王国の土地に数々の救済施設を造り、そこに貧しい民達の居場所を作って貧困撲滅プロジェクトなるものを実行し始めた。
 さらに、王国に代々伝わる、古来の技術や風習などが地上時代からのものだと気付いたサトルと菜々美は、それを人との繋がりが希薄になったこの時代に復活させようとする伝統文化促進プロジェクトなるものも始めて、それは忙しそうにしている。
 まあ、確かに……あんな状態で婚約をしてる場合じゃないかもな?


「そもそも、人のこと気にする前に自分達のことだと思うんだけど?」
「あー、ははは……」
「笑い事じゃないの! 式の日取り、招待状の送付、そろそろ初歩的な準備を始めないと、結婚式は遠い夢よ!?」
「わ、わかってるって……!」


 俺の焦る返事に、真由は不満だという態度を隠しもせず口を尖らせる。
 うん、そんなところを見て五年経った今でも惚れ直してるんだから、さっさと結婚式の準備始めないとな……
 俺はナサニエルを卒業してすぐに、真由にプロポーズをし、両家の親への挨拶を済ませ、婚約をした。
 そうは言っても、真由は看護師の仕事を始めたばっかだったし、俺も目の前のことで精一杯ですぐにどうということではなかったのだが、俺も自分の仕事に自信がついてきて、指輪も買えるようになったので、それじゃ本当に結婚しようかとなったのが三か月前だ。

 俺は今、各空島の学び舎で教鞭を執る日々を送っている。
 そのきっかけとなったのが、一冊の本を約一年かけて書き上げたことだ。
 その本には、俺達が地上で見てきた生き物と自然の尊さのすべてを込めた。
 書き上げて出版社に持ち込むと、俺がナサニエル墜落事件の、しかも執務室の中継に映ってた当事者中の当事者ということもあり、あれよあれよという間に書籍化が決まった。
 そして、瞬く間にその本は、その年のベストセラーと、あらゆる大賞を総なめにする事態となり、俺にはあらゆるオファーが舞い込んできた。
 けど、俺はメディアに出て、本に記載してある以外のことを、あれこれと詮索されるのが嫌だったので、ほとんどのオファーを断わった。
 しかし、一つだけ異色の、大学からのオファーで講義をしてほしいとのオファーがあった。
 仲間達の後押しもあって、俺は緊張で真っ白になりながらもどうにか講義を終えたのだが、結果的には大成功。
 それからずっと、各空島の学校で教鞭を執らせてもらっており、この若さで地上学の権威と呼ばれるほど。
 おかげで、生活も安定しており、真由ともこうして同棲できているわけだ。

 そんなわけで多方面で忙しくしている俺達なのだが、有難いことに疎遠になることなく、それどころか、割と定期的に集まる方だと思う。
 今だって、ゾーイに会いに行く日の全員参加が決まったところだ……
 あの日から五年だが、俺達は毎年、ゾーイが消えたあの日にアイランド77を訪れるようになった。
 あの場所に集まって、もう二度と会うことのないゾーイを思って、近況報告をして、また来るねと、ずっと大好きだよと告げるだけの日。
 それを終えた後には、そのまま全員でデルタの店で楽しく食事や酒を酌み交わしながら、ゾーイがいたらこうだったよねと……もしもの未来を語る日。
 それだけと思われるかもだが、俺達にとってはすごく大切な日だ。
 けど、本当にいつの間にか、その日を滞りなく迎えて、そして終えるための幹事を立て、毎年交代でやろうということになっており、今年の幹事は俺だ。
 そのための出席確認なら、なおさら紙の手紙であることに意味がある。
 ゾーイに直筆の手紙をもらったあの瞬間から、俺達にとっての手紙とはすごく特別なものとなったから。
 そのゾーイからの手紙は、なぜか俺が代表し、大事に厳重に保管している。
 久しぶりに読もうかな……そう感傷に浸っていた時だ。


「あ、それと、もう一通、手紙が私と昴宛に届いてたんだけど……」
「え? 誰からだよ?」
「それがどう見ても、便せんに差出人が書いてないのよ」


 真由が少し不安そうに呟きながら俺に手渡してきた手紙は、一見すると何の変哲もない普通の手紙だ。
 まあ、真由の言う通りに、どこにも差出人の記載がないのが疑問だが。
 俺はとりあえずその便せんを開け、中を見ると、これまた普通の二枚のメッセージカードが出てきた。


「アイランド77に緊急招集?」
「え、何それ! 懐かしい響きね!」


 一枚目のカードのメッセージを読み上げれば、真由が弾むような声を出す。
 確かに、そのカードに書かれた言い回しは忘れもしない君の、ゾーイの口調を思い出させる。
 けど、俺はそのカードを見た瞬間、少し時が止まるほどの衝撃があった。


「……真由。気のせいかもしれないんだけどさ?」
「え、どうかした?」
「この筆跡、何か似てないか?」
「……何、言ってるの」


 真由は俺の言わんとしてることを理解した途端、表情を失くす。
 わかってる、バカげてるって……
 けど、あの手紙を、俺は何度も飽きるほど見てきた。
 落ち込む度に勇気をもらうために、呆れるほど見てきた。
 他に手がかりがないのかと、俺は二枚目のカードに視線を移したのだが、俺と真由も今度こそ絶句するしかなかった。


「……タチの悪いイタズラだよな?」










 ――そこにはゾーイ・エマーソンよりと、はっきりと書かれていたのだ。
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