『元イージス艦長、異世界でゴミを拾う 〜善行ポイントで現代兵器をガチャ排出。最強の傭兵団は金曜日にカレーを食べる〜』

月神世一

文字の大きさ
15 / 78

EP 15

しおりを挟む
ゼロになる瞬間
 坂上真一が洞窟に到着した時、そこにはもう「戦い」など存在していなかった。
 あるのは、圧倒的な静寂と、鼻が曲がるほど濃厚な血の臭いだけだった。
「……遅かったか」
 坂上は暗視ゴーグルを外し、洞窟の奥へと歩を進めた。
 ブーツの裏が、ぬちゃり、と嫌な音を立てる。
 地面は赤く染まり、至る所にオークたちの肉片が散乱している。壁には、原型を留めないほど叩きつけられた跡。
 それは、野生動物による捕食現場よりも惨たらしく、災害現場よりも無慈悲だった。
「ひっ……うぅ……」
「助けて……食わないで……」
 洞窟の隅では、解放されたはずの村人たちが、互いに身を寄せ合い震えていた。
 彼らの視線は、感謝ではなく、純粋な恐怖に彩られている。
 その視線の先に、一人の男が立っていた。
 鬼神 龍魔呂。
 頭から爪先まで、赤黒い返り血で染まっている。
 足元には、手を合わせて命乞いをした姿勢のまま絶命しているオークの死体があった。頭部は粉砕され、胸には深い穴が空いている。
「……龍魔呂」
 坂上が静かに名を呼んだ。
 龍魔呂が、ゆっくりと振り返る。
 その瞳からは、先ほどまでの狂気は消え失せ、代わりに虚ろな色が浮かんでいた。
 自分の足元を見る。自分の血塗れの手を見る。そして、自分を化け物を見る目で見つめる村人たちと、怯えて言葉を失っているルナを見る。
「あ……」
 龍魔呂の口から、乾いた音が漏れた。
 やってしまった。
 殺した。全員殺した。武器を捨てた者も、降伏した者も。
 激情のままに、ただの殺戮マシーンとなって。
「俺は……」
 その時。
 坂上の目の前に展開されていたウィンドウが、これまでにない激しさで明滅を始めた。
 ビーッ! ビーッ! ビーッ!
 脳内に直接響くような、不快な警告音(アラート)。
 ウィンドウの色が、青から危険な赤へと変色していく。
【警告:重大な規約違反を確認】
【指揮下にある人員による、国際人道法(ジュネーヴ諸条約)第3条および追加議定書に対する著しい逸脱行為を検知】
 無機質な文字が羅列される。
 ・非戦闘員(投降兵)への殺害
 ・必要性を逸脱した過剰な破壊・残虐行為
 ・死体への損壊
【判定:失格(ディスカリファイ)】
「……そうか」
 坂上は短く呟いた。
 次の瞬間、画面右上に表示されていた『善行ポイント』の数字が、音を立てて崩れ落ちた。
 58,000P
 40,000P
 10,000P……
 まるで砂時計の底が抜けたように、積み上げてきた数字がゼロに向かってカウントダウンしていく。
 ゴミを拾い、ドブをさらい、人々を助けてコツコツと貯めてきた、この異世界で生き抜くための命綱。
 それが、わずか数秒で消滅した。
 0 P
【ペナルティ執行完了。全ポイント没収。および、スキルの使用を無期限凍結します】
 プツン。
 ウィンドウが強制的に閉じられ、虚空に溶けて消えた。
 坂上の手元に残っていたドローンのコントローラーが、砂のようにさらさらと崩れ去る。召喚していた装備品の維持権限も失われたのだ。
「……オッサン」
 龍魔呂が、震える声で呼びかけた。
 彼は見ていた。坂上の目の前から「光」が消え、装備が崩れ落ちる様を。
 自分の暴走が、何を引き起こしたのかを、本能的に理解してしまった。
「俺……俺のせいで……」
 龍魔呂の顔が絶望に歪む。
 弟を殺されたあの日と同じだ。俺はまた、大切なものを壊した。
 守りたかったはずのものを、自分の怒りで焼き尽くしてしまった。
「……気にするな」
 坂上は表情一つ変えず、静かに言った。
 その声には、怒りも失望も混じっていない。
 ただ、事実を受け入れた指揮官の、凪のような声だった。
「撤収するぞ。村人たちを連れて下山する。ルナ君、歩けるか?」
「は、はい……」
 ルナが慌てて立ち上がり、破かれたローブを抑えながら駆け寄る。
 坂上は自身のジャケットを脱ぎ、無言でルナの肩にかけてやった。
「龍魔呂。殿(しんがり)を頼む」
「……あぁ」
 龍魔呂は、坂上の顔を見ることができなかった。
 その背中は、何も言わずにただ前を歩き出した。
 失ったものの大きさは計り知れない。
 だが、坂上は一度も振り返らなかった。
 洞窟の外には、冷たい夜明けの光が差し始めていた。
 全てを失った傭兵団イージスの、最も長く、重苦しい一日が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...