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EP 12
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魔界の貴公子とイカ天棒
時刻は深夜2時。
草木も眠る丑三つ時だが、コンビニ『タローソン王宮特別支店』の明かりだけは、煌々と灯っていた。
「ふぅ……深夜シフトは静かでござるな」
店長の流賀隆史は、レジカウンターの中で伸びをした。
客足は途絶え、店内に流れるのは有線の静かなジャズ(太郎の趣味)と、冷蔵ケースの駆動音だけ。
平和だ。
昼間の「銅粒テロ(リーザ)」や「ドリンクバー水没事故(ルナ)」が嘘のようだ。
「さて、今のうちにホットスナックの補充をしておくか」
隆史がトングをカチカチと鳴らした、その時。
ウィィィィン……
自動ドアが開いた。
チャイムの音よりも先に、肌を刺すような冷たい空気が店内に流れ込んできた。
「い、いらっしゃいませでござるー!」
隆史は条件反射で声を上げ、入り口を見た。
そして、その喉がヒュッと鳴った。
そこに立っていたのは、明らかに「カタギ」ではない男だった。
銀色のショートヘア。切れ長の冷徹な瞳。
長身を包むのは、仕立ての良い漆黒のブランドスーツ。
ただ立っているだけで、周囲の空間が歪むような、濃密な「魔のオーラ」が立ち昇っている。
(ヒィッ!? ま、魔族!? しかもこのプレッシャー、ただの魔族ではない……幹部クラスでござる!!)
隆史の「小心者センサー」が警報を鳴らす。
S級ダンジョンのボスにも匹敵する威圧感。
まさか、王宮への襲撃か? それとも、人類への宣戦布告か?
男――魔界の貴公子ルーベンスは、コツ、コツ、と革靴の音を響かせてレジへと歩み寄ってきた。
その表情は氷のように冷たい。
(く、来る……! 命乞いの準備を……!)
隆史がカウンターの下で土下座の体勢に入ろうとした瞬間。
ルーベンスが口を開いた。
「おい、店長」
「ひぃっ! は、はいっ! 何でも差し上げます! 売上金でも、肉まんの什器ごとでも!」
ルーベンスは眉を顰め、気だるげに指を立てた。
「88番」
「……へ?」
「タバコだ。マルボロ・メンソール(緑)。 あと、微糖の缶コーヒー」
隆史は瞬きをした。
耳を疑った。
今、この魔界のカリスマみたいなイケメンは、何と言った?
「あ、あの……タバコと、缶コーヒー……でござるか?」
「そうだ。聞こえなかったか?」
ルーベンスが睨む。
隆史は慌ててタバコの棚から88番を取り出した。
「し、失礼しました! こちらでよろしいでござるか!」
「ああ。……それとな」
ルーベンスの視線が、レジ横のホットスナックケースに向けられた。
そこには、売れ残って乾燥しつつある揚げ物が並んでいる。
「そこの『イカ天棒』。一本くれ」
「イ、イカ天棒……?」
イカのすり身を棒状にして揚げた、ジャンクフードの極み。
子供か、酒飲みのアテにしか売れない商品だ。
「……タルタルソースは?」
「えっ?」
「タルタルソースだ。 たっぷり付けてくれ。あれがないとイカ天は完成しない」
ルーベンスは真顔だった。
世界の真理を説くようなシリアスな顔で、タルタルソースを要求している。
「ぎょ、御意! タルタル増量でござる!」
隆史は震える手でイカ天棒を袋に入れ、小袋のタルタルソースを3つも掴んで投げ込んだ。
会計を済ませると、ルーベンスはポケットから小銭(銀貨)をジャラリと出し、きっちり支払った。
「釣りはいらん(※釣り銭はない)」
彼は商品を掴むと、無言で店を出て行った。
襲撃ではなかった。ただの買い物だった。
「……助かった……」
隆史がへなへなと座り込もうとした時、ガラス越しに外の様子が見えた。
ルーベンスは帰ったわけではなかった。
彼は駐車場の隅にある「喫煙スペース(灰皿)」の前で足を止めた。
そして、スーツのポケットから一部の新聞を取り出し、バサリと広げた。
『週刊タロウ・スポーツ(競馬面)』
魔界の貴公子は、美しい姿勢でウンコ座りをし、マルボロに火をつけ、深く紫煙を吐き出した。
そして、右手に持ったイカ天棒にタルタルソースをドボドボとかけ、ガブリと齧り付く。
「……んぐ、んぐ。……チッ、この『ロックバイソン号』、前走は重馬場だったからな……今回は外枠か……」
ガラス越しに聞こえる独り言。
その姿に、さっきまでの「魔界のカリスマ」の面影は微塵もなかった。
そこにいるのは、ただの「ギャンブル好きのオッサン」だった。
「(……ギャップが激しすぎるでござるよ!!)」
隆史は心の中でツッコミを入れた。
だが、まだ彼は知らない。
この男が呼び水となり、この喫煙所が「大陸最強のダメ人間たちの社交場」と化すことを。
ウィィィィン……
再び自動ドアが開く。
次に現れたのは、パーカー姿の国王と、私服姿の勇者だった。
「いらっしゃいませー……げっ、店長(国王)!?」
隆史の安眠できない夜は、まだ始まったばかりだった。
時刻は深夜2時。
草木も眠る丑三つ時だが、コンビニ『タローソン王宮特別支店』の明かりだけは、煌々と灯っていた。
「ふぅ……深夜シフトは静かでござるな」
店長の流賀隆史は、レジカウンターの中で伸びをした。
客足は途絶え、店内に流れるのは有線の静かなジャズ(太郎の趣味)と、冷蔵ケースの駆動音だけ。
平和だ。
昼間の「銅粒テロ(リーザ)」や「ドリンクバー水没事故(ルナ)」が嘘のようだ。
「さて、今のうちにホットスナックの補充をしておくか」
隆史がトングをカチカチと鳴らした、その時。
ウィィィィン……
自動ドアが開いた。
チャイムの音よりも先に、肌を刺すような冷たい空気が店内に流れ込んできた。
「い、いらっしゃいませでござるー!」
隆史は条件反射で声を上げ、入り口を見た。
そして、その喉がヒュッと鳴った。
そこに立っていたのは、明らかに「カタギ」ではない男だった。
銀色のショートヘア。切れ長の冷徹な瞳。
長身を包むのは、仕立ての良い漆黒のブランドスーツ。
ただ立っているだけで、周囲の空間が歪むような、濃密な「魔のオーラ」が立ち昇っている。
(ヒィッ!? ま、魔族!? しかもこのプレッシャー、ただの魔族ではない……幹部クラスでござる!!)
隆史の「小心者センサー」が警報を鳴らす。
S級ダンジョンのボスにも匹敵する威圧感。
まさか、王宮への襲撃か? それとも、人類への宣戦布告か?
男――魔界の貴公子ルーベンスは、コツ、コツ、と革靴の音を響かせてレジへと歩み寄ってきた。
その表情は氷のように冷たい。
(く、来る……! 命乞いの準備を……!)
隆史がカウンターの下で土下座の体勢に入ろうとした瞬間。
ルーベンスが口を開いた。
「おい、店長」
「ひぃっ! は、はいっ! 何でも差し上げます! 売上金でも、肉まんの什器ごとでも!」
ルーベンスは眉を顰め、気だるげに指を立てた。
「88番」
「……へ?」
「タバコだ。マルボロ・メンソール(緑)。 あと、微糖の缶コーヒー」
隆史は瞬きをした。
耳を疑った。
今、この魔界のカリスマみたいなイケメンは、何と言った?
「あ、あの……タバコと、缶コーヒー……でござるか?」
「そうだ。聞こえなかったか?」
ルーベンスが睨む。
隆史は慌ててタバコの棚から88番を取り出した。
「し、失礼しました! こちらでよろしいでござるか!」
「ああ。……それとな」
ルーベンスの視線が、レジ横のホットスナックケースに向けられた。
そこには、売れ残って乾燥しつつある揚げ物が並んでいる。
「そこの『イカ天棒』。一本くれ」
「イ、イカ天棒……?」
イカのすり身を棒状にして揚げた、ジャンクフードの極み。
子供か、酒飲みのアテにしか売れない商品だ。
「……タルタルソースは?」
「えっ?」
「タルタルソースだ。 たっぷり付けてくれ。あれがないとイカ天は完成しない」
ルーベンスは真顔だった。
世界の真理を説くようなシリアスな顔で、タルタルソースを要求している。
「ぎょ、御意! タルタル増量でござる!」
隆史は震える手でイカ天棒を袋に入れ、小袋のタルタルソースを3つも掴んで投げ込んだ。
会計を済ませると、ルーベンスはポケットから小銭(銀貨)をジャラリと出し、きっちり支払った。
「釣りはいらん(※釣り銭はない)」
彼は商品を掴むと、無言で店を出て行った。
襲撃ではなかった。ただの買い物だった。
「……助かった……」
隆史がへなへなと座り込もうとした時、ガラス越しに外の様子が見えた。
ルーベンスは帰ったわけではなかった。
彼は駐車場の隅にある「喫煙スペース(灰皿)」の前で足を止めた。
そして、スーツのポケットから一部の新聞を取り出し、バサリと広げた。
『週刊タロウ・スポーツ(競馬面)』
魔界の貴公子は、美しい姿勢でウンコ座りをし、マルボロに火をつけ、深く紫煙を吐き出した。
そして、右手に持ったイカ天棒にタルタルソースをドボドボとかけ、ガブリと齧り付く。
「……んぐ、んぐ。……チッ、この『ロックバイソン号』、前走は重馬場だったからな……今回は外枠か……」
ガラス越しに聞こえる独り言。
その姿に、さっきまでの「魔界のカリスマ」の面影は微塵もなかった。
そこにいるのは、ただの「ギャンブル好きのオッサン」だった。
「(……ギャップが激しすぎるでござるよ!!)」
隆史は心の中でツッコミを入れた。
だが、まだ彼は知らない。
この男が呼び水となり、この喫煙所が「大陸最強のダメ人間たちの社交場」と化すことを。
ウィィィィン……
再び自動ドアが開く。
次に現れたのは、パーカー姿の国王と、私服姿の勇者だった。
「いらっしゃいませー……げっ、店長(国王)!?」
隆史の安眠できない夜は、まだ始まったばかりだった。
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