13 / 27
EP 13
しおりを挟む
喫煙所サミット(ヤンキーの溜まり場)
深夜2時10分。
『タローソン王宮特別支店』のレジカウンター。
「い、いらっしゃいませでござる……」
店長の流賀隆史は、引きつった笑顔で客を迎えた。
先ほどの魔界の貴公子に続き、現れたのはこの国のトップ2だったからだ。
「ういーっす……」
パーカーのフードを目深に被った佐藤太郎(国王)。
私服のジャケットをだらしなく着崩した鍵田竜(元勇者)。
二人の瞳には、生気がなかった。
まるで、残業続きで終電を逃したサラリーマンのような哀愁が漂っている。
「り、流賀くん。『キャスター・マイルド』ひとつ。あと、『発泡酒(一番安いやつ)』の500ml缶」
「俺は『メビウス』。それと『ストロング・ゼロドライ』。……あと、レジ横の『辛口カルパス』だ」
「か、畏まりました! (国王と勇者が発泡酒とストロング系!?)」
隆史はマッハで会計を済ませた。
二人は商品を掴むと、逃げ込むように店の外――駐車場の喫煙スペースへと向かった。
そこには既に、先客のルーベンス(魔族)が陣取っている。
「……あ?」
ルーベンスが、イカ天棒を齧りながら二人を睨む。
太郎とリュウも、無言で視線を返す。
一触即発か?
「……火、あるか?」
太郎が短く尋ねた。
ルーベンスは無言で100円ライターを投げ渡した。
「サンキュ」
カチッ。シュボッ。スーッ……プハァ……。
紫煙が夜空に昇る。
三人の男たちは、示し合わせたように「ウンコ座り」をし、灰皿を囲んでしゃがみ込んだ。
魔族、国王、勇者。
世界の命運を握る三人が、コンビニ前でヤンキーのようにたむろしている。
窓拭きを装って外に出てきた隆史は、その光景に戦慄した。
(ち、治安が悪すぎるでござるよおおお!!)
男たちの会話が、夜風に乗って聞こえてくる。
「……はぁ。やってらんねぇよ」
口火を切ったのは、この国の王・太郎だった。
彼は発泡酒をプシュッと開け、一気に半分ほど煽った。
「どうしたサトウさん。またか?」
「ああ。サリー(嫁)のやつ、今月の小遣い減らしやがったんだ。『タロウ、今月ゲーム課金しすぎよ』って。……たった5万だぞ? 国王の小遣いが5万って、夢なさすぎだろ」
「5万? 贅沢言うなよ」
リュウがストロング缶を揺らしながら、悲痛な声で言った。
「俺なんて今月、金貨3枚(3万円)だぞ? 『リリスの教育費がかかるから』って。俺、世界救ったよな? 魔神王倒したよな? なのに昼飯代も制限されるのかよ……」
「世知辛ぇなぁ……」
国王と勇者が、深く溜息をつく。
世界最強の男たちも、家庭という名のダンジョンでは最下層の住人だった。
その時。
黙って聞いていたルーベンスが、ふっ、と鼻で笑った。
「……くだらん悩みだ」
「あ? なんだよ魔族」
ルーベンスは、吸っていたマルボロをもみ消し、懐から新聞をバサリと広げた。
『週刊タロウ・スポーツ』。赤ペンでびっしりと印がつけられている。
「金がないなら、増やせばいいだろう」
「……競馬か?」
「そうだ。今週末のG1レース『ジオ・リザード記念』。これを見ろ」
ルーベンスは、新聞のある一点を指差した。
イカ天棒(タルタルまみれ)を持った手で。
「この大穴、『ハルウララ・ドラゴン』。オッズは50倍だ」
「おいおい、そんな駄馬が来るわけ……」
「来るね。俺の『魔眼』は誤魔化せない。こいつのパドックでの脚の運び……筋肉の収縮率が、他の竜とは段違いだ。完全に仕上がっている」
魔界の貴公子の瞳が、怪しく、そして真剣に輝いた。
「いいか? 金貨3枚をここに突っ込めば、150枚になる。一撃で小遣い一年分だ」
「な、なるほど……!」
「150万……! それなら、サリーに内緒でプレステ5(転生品)が買える……!」
太郎とリュウの目の色が変わった。
射幸心という名の魔物が、彼らの理性を食い破っていく。
「おい魔族、いやルーベンスさん! 詳しい買い目を教えろ!」
「ふん、教えてやってもいいが……見返りは?」
「次の飲み会、俺の奢りでいい!」
「……交渉成立だ」
三人の男たちは、地面に新聞を広げ、頭を突き合わせた。
「ここは3連単で流して……」
「いや、対抗馬の『ディープ・インパクト・オーガ』も捨てがたい……」
「タルタルソースこぼれてるぞ」
深夜のコンビニ駐車場。
そこには、種族も身分も超えた、熱い男たちの絆(ギャンブル仲間)が生まれていた。
隆史は、窓ガラスを拭きながら遠い目をした。
「……この国の未来、大丈夫でござるか?」
不安しかない。
だが、彼らが上機嫌で追加の酒とつまみを買いに戻ってきたおかげで、深夜の売上は過去最高を記録したのだった。
しかし、隆史は予感していた。
男たちが集まれば、次は必ず――もっと厄介な「女たち」が来ることを。
ウィィィィン……
予感は的中する。
次に自動ドアをくぐったのは、ジャージ姿の女神と、マスク姿の魔王だったのだ。
深夜2時10分。
『タローソン王宮特別支店』のレジカウンター。
「い、いらっしゃいませでござる……」
店長の流賀隆史は、引きつった笑顔で客を迎えた。
先ほどの魔界の貴公子に続き、現れたのはこの国のトップ2だったからだ。
「ういーっす……」
パーカーのフードを目深に被った佐藤太郎(国王)。
私服のジャケットをだらしなく着崩した鍵田竜(元勇者)。
二人の瞳には、生気がなかった。
まるで、残業続きで終電を逃したサラリーマンのような哀愁が漂っている。
「り、流賀くん。『キャスター・マイルド』ひとつ。あと、『発泡酒(一番安いやつ)』の500ml缶」
「俺は『メビウス』。それと『ストロング・ゼロドライ』。……あと、レジ横の『辛口カルパス』だ」
「か、畏まりました! (国王と勇者が発泡酒とストロング系!?)」
隆史はマッハで会計を済ませた。
二人は商品を掴むと、逃げ込むように店の外――駐車場の喫煙スペースへと向かった。
そこには既に、先客のルーベンス(魔族)が陣取っている。
「……あ?」
ルーベンスが、イカ天棒を齧りながら二人を睨む。
太郎とリュウも、無言で視線を返す。
一触即発か?
「……火、あるか?」
太郎が短く尋ねた。
ルーベンスは無言で100円ライターを投げ渡した。
「サンキュ」
カチッ。シュボッ。スーッ……プハァ……。
紫煙が夜空に昇る。
三人の男たちは、示し合わせたように「ウンコ座り」をし、灰皿を囲んでしゃがみ込んだ。
魔族、国王、勇者。
世界の命運を握る三人が、コンビニ前でヤンキーのようにたむろしている。
窓拭きを装って外に出てきた隆史は、その光景に戦慄した。
(ち、治安が悪すぎるでござるよおおお!!)
男たちの会話が、夜風に乗って聞こえてくる。
「……はぁ。やってらんねぇよ」
口火を切ったのは、この国の王・太郎だった。
彼は発泡酒をプシュッと開け、一気に半分ほど煽った。
「どうしたサトウさん。またか?」
「ああ。サリー(嫁)のやつ、今月の小遣い減らしやがったんだ。『タロウ、今月ゲーム課金しすぎよ』って。……たった5万だぞ? 国王の小遣いが5万って、夢なさすぎだろ」
「5万? 贅沢言うなよ」
リュウがストロング缶を揺らしながら、悲痛な声で言った。
「俺なんて今月、金貨3枚(3万円)だぞ? 『リリスの教育費がかかるから』って。俺、世界救ったよな? 魔神王倒したよな? なのに昼飯代も制限されるのかよ……」
「世知辛ぇなぁ……」
国王と勇者が、深く溜息をつく。
世界最強の男たちも、家庭という名のダンジョンでは最下層の住人だった。
その時。
黙って聞いていたルーベンスが、ふっ、と鼻で笑った。
「……くだらん悩みだ」
「あ? なんだよ魔族」
ルーベンスは、吸っていたマルボロをもみ消し、懐から新聞をバサリと広げた。
『週刊タロウ・スポーツ』。赤ペンでびっしりと印がつけられている。
「金がないなら、増やせばいいだろう」
「……競馬か?」
「そうだ。今週末のG1レース『ジオ・リザード記念』。これを見ろ」
ルーベンスは、新聞のある一点を指差した。
イカ天棒(タルタルまみれ)を持った手で。
「この大穴、『ハルウララ・ドラゴン』。オッズは50倍だ」
「おいおい、そんな駄馬が来るわけ……」
「来るね。俺の『魔眼』は誤魔化せない。こいつのパドックでの脚の運び……筋肉の収縮率が、他の竜とは段違いだ。完全に仕上がっている」
魔界の貴公子の瞳が、怪しく、そして真剣に輝いた。
「いいか? 金貨3枚をここに突っ込めば、150枚になる。一撃で小遣い一年分だ」
「な、なるほど……!」
「150万……! それなら、サリーに内緒でプレステ5(転生品)が買える……!」
太郎とリュウの目の色が変わった。
射幸心という名の魔物が、彼らの理性を食い破っていく。
「おい魔族、いやルーベンスさん! 詳しい買い目を教えろ!」
「ふん、教えてやってもいいが……見返りは?」
「次の飲み会、俺の奢りでいい!」
「……交渉成立だ」
三人の男たちは、地面に新聞を広げ、頭を突き合わせた。
「ここは3連単で流して……」
「いや、対抗馬の『ディープ・インパクト・オーガ』も捨てがたい……」
「タルタルソースこぼれてるぞ」
深夜のコンビニ駐車場。
そこには、種族も身分も超えた、熱い男たちの絆(ギャンブル仲間)が生まれていた。
隆史は、窓ガラスを拭きながら遠い目をした。
「……この国の未来、大丈夫でござるか?」
不安しかない。
だが、彼らが上機嫌で追加の酒とつまみを買いに戻ってきたおかげで、深夜の売上は過去最高を記録したのだった。
しかし、隆史は予感していた。
男たちが集まれば、次は必ず――もっと厄介な「女たち」が来ることを。
ウィィィィン……
予感は的中する。
次に自動ドアをくぐったのは、ジャージ姿の女神と、マスク姿の魔王だったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜
咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。
笑えて、心温かくなるダンジョン物語。
※この小説はフィクションです。
実在の人物、団体などとは関係ありません。
日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる