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EP 12
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特訓と林檎ジュース、そして修羅場!?
装備を整えたその足で、三人はアルクスの城壁を出てすぐの草原地帯へとやって来た。
風が心地よく吹き抜け、遠くには街道を行く馬車が見える。魔物も少ないこの場所は、初心者の訓練にはうってつけだ。
「よし、まずは基本姿勢からです。足は肩幅に開いて……」
ライザの指導のもと、太郎は新品の短弓を構えた。
「あの、ライザ、太郎さん。私、ちょっと抜けます」
準備運動をしていたサリーが、手を挙げて言った。
「どうしたの? サリー」
「うん。さっきのゴブリン戦で思ったの。私も戦えるようになりたいなって。だから魔法屋に行って、攻撃魔法の魔導書を買って覚えようと思って!」
サリーはやる気に満ちた瞳で拳を握りしめた。回復魔法だけではなく、攻撃手段を持てば太郎を守れると考えたのだろう。
「なるほど。サリーの魔力なら初級攻撃魔法は習得できるはずよ。使えるようになれば、パーティーの戦略の幅が広がるわね」
ライザも賛同して頷いた。
「でしょ!? じゃあ、行ってくる! 太郎さん、サボっちゃ駄目ですよ!」
「あぁ、行ってらっしゃい」
サリーはスカートを翻し、元気よく城門の方へと駆けていった。
二人きりになった草原で、特訓が再開された。
「ほら、太郎さん! 手が止まっていますよ。練習、練習!」
「う、うん。分かったよ……!」
太郎は弦を引き絞り、的代わりの木に向かって矢を放つ。
ヒュッ……カツン。
矢は木の幹を大きく逸れ、草むらに落ちた。
「肘が下がっています。もっと背中の筋肉を使って引くイメージで」
ライザは太郎の背後に回り込み、直接フォームを矯正する。彼女の手が背中や腕に触れるたび、太郎は少しドキドキしたが、ライザの指導はあくまで真剣そのものだ。
「はいっ! ……くぅ、結構きついな……」
慣れない筋肉を使う弓術は、見た目以上に体力を消耗する。
一時間ほど打ち込み続けただろうか。
「はぁ、はぁ……もう駄目……腕が上がらない……」
太郎はその場に大の字に座り込んだ。汗が滝のように流れる。
「ふふ、最初はそんなものです。でも、筋は悪くないですよ」
ライザも少し汗ばんでいるが、息一つ乱れていない。さすがは本職の剣士だ。
「喉が渇いた……」
太郎は乾いた喉を潤すため、ウィンドウを開いた。
『食品・飲料』カテゴリから、冷えた飲み物を探す。
【 果汁100%アップルジュース(1L紙パック):100P 】
【 紙コップ(10個入り):100P 】
「これだ……」
太郎の手元に、水滴のついた冷たい紙パックとコップが現れる。
コップにトクトクと黄金色の液体を注ぎ、一気に煽った。
「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁっ! 美味しいなぁ!」
冷たさと、濃縮還元の濃厚な甘みが、疲れた体に染み渡る。生き返る心地だ。
「た、太郎さん? それは?」
ライザが不思議そうに紙パックを見つめている。
「え? これは林檎ジュースだよ。ライザも飲むかい?」
「ええっと、頂きます……」
太郎は新しい紙コップにジュースを注ぎ、ライザに手渡した。
この世界にも果実水はあるが、絞っただけのものは酸味が強く、砂糖入りのものは高級品だ。ましてや、冷えたジュースなど魔法を使わない限りありえない。
ライザは恐る恐る口をつけ、一口飲んだ。
その瞬間。
「――っ!?」
カッと目を見開き、彼女は残りを一気に飲み干した。
「……甘い! 酸味がなくて、果実の蜜だけを集めたみたい……それに冷たくて……!」
「お、おいしい?」
「美味しい! 凄く美味しいですよ! 太郎さん!」
感動のあまり、ライザは感極まって太郎にガバッと抱きついた。
「わっ! ら、ライザさん!?」
柔らかい感触と、鎧越しでも伝わる体温。そして、ふわりと漂う甘い香りが太郎を包み込む。
それはジュースの香りなのか、それともライザ自身の香りなのか。
「あ……」
数秒後、我に返ったライザは、自分の行動に気づき、弾かれたように飛び退いた。
「す、すみません! あまりの美味しさに、嬉しくてつい……!」
普段のクールな騎士の顔はどこへやら、彼女の顔は林檎のように真っ赤に染まっている。
「い、いや、いいんだ。喜んでくれて嬉しいっていうか、えっと……」
太郎も顔を赤くして、視線を泳がせた。
気まずくも、甘酸っぱい空気が二人の間に流れる。
その時だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!? 人が居ない間にイチャイチャしてるぅぅぅ!?」
背後から、地獄の底から響くような怨嗟の声が聞こえた。
振り返ると、分厚い魔導書を抱えたサリーが、般若のような形相で立っていた。
「サ、サリー! 違うの! これはっ!」
ライザが慌てて手を振って否定する。
「誤解だよサリー! ジュースを飲んでただけで……!」
「嘘つき! さっき抱き合ってたの見たもん! 私が必死に難しい魔法を覚えてきたのにぃぃ!」
サリーの杖の先が、パチパチと不穏な火花を散らし始める。
どうやら攻撃魔法の習得には成功したらしい。
「ジュース! ジュースあげるから! サリーも飲む!?」
「飲むぅ!!」
太郎は慌てて新しいコップにジュースを注ぎ、涙目のサリーに差し出した。
甘い林檎ジュースで機嫌を直してもらうまで、もうしばらく時間がかかりそうだった。
装備を整えたその足で、三人はアルクスの城壁を出てすぐの草原地帯へとやって来た。
風が心地よく吹き抜け、遠くには街道を行く馬車が見える。魔物も少ないこの場所は、初心者の訓練にはうってつけだ。
「よし、まずは基本姿勢からです。足は肩幅に開いて……」
ライザの指導のもと、太郎は新品の短弓を構えた。
「あの、ライザ、太郎さん。私、ちょっと抜けます」
準備運動をしていたサリーが、手を挙げて言った。
「どうしたの? サリー」
「うん。さっきのゴブリン戦で思ったの。私も戦えるようになりたいなって。だから魔法屋に行って、攻撃魔法の魔導書を買って覚えようと思って!」
サリーはやる気に満ちた瞳で拳を握りしめた。回復魔法だけではなく、攻撃手段を持てば太郎を守れると考えたのだろう。
「なるほど。サリーの魔力なら初級攻撃魔法は習得できるはずよ。使えるようになれば、パーティーの戦略の幅が広がるわね」
ライザも賛同して頷いた。
「でしょ!? じゃあ、行ってくる! 太郎さん、サボっちゃ駄目ですよ!」
「あぁ、行ってらっしゃい」
サリーはスカートを翻し、元気よく城門の方へと駆けていった。
二人きりになった草原で、特訓が再開された。
「ほら、太郎さん! 手が止まっていますよ。練習、練習!」
「う、うん。分かったよ……!」
太郎は弦を引き絞り、的代わりの木に向かって矢を放つ。
ヒュッ……カツン。
矢は木の幹を大きく逸れ、草むらに落ちた。
「肘が下がっています。もっと背中の筋肉を使って引くイメージで」
ライザは太郎の背後に回り込み、直接フォームを矯正する。彼女の手が背中や腕に触れるたび、太郎は少しドキドキしたが、ライザの指導はあくまで真剣そのものだ。
「はいっ! ……くぅ、結構きついな……」
慣れない筋肉を使う弓術は、見た目以上に体力を消耗する。
一時間ほど打ち込み続けただろうか。
「はぁ、はぁ……もう駄目……腕が上がらない……」
太郎はその場に大の字に座り込んだ。汗が滝のように流れる。
「ふふ、最初はそんなものです。でも、筋は悪くないですよ」
ライザも少し汗ばんでいるが、息一つ乱れていない。さすがは本職の剣士だ。
「喉が渇いた……」
太郎は乾いた喉を潤すため、ウィンドウを開いた。
『食品・飲料』カテゴリから、冷えた飲み物を探す。
【 果汁100%アップルジュース(1L紙パック):100P 】
【 紙コップ(10個入り):100P 】
「これだ……」
太郎の手元に、水滴のついた冷たい紙パックとコップが現れる。
コップにトクトクと黄金色の液体を注ぎ、一気に煽った。
「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁっ! 美味しいなぁ!」
冷たさと、濃縮還元の濃厚な甘みが、疲れた体に染み渡る。生き返る心地だ。
「た、太郎さん? それは?」
ライザが不思議そうに紙パックを見つめている。
「え? これは林檎ジュースだよ。ライザも飲むかい?」
「ええっと、頂きます……」
太郎は新しい紙コップにジュースを注ぎ、ライザに手渡した。
この世界にも果実水はあるが、絞っただけのものは酸味が強く、砂糖入りのものは高級品だ。ましてや、冷えたジュースなど魔法を使わない限りありえない。
ライザは恐る恐る口をつけ、一口飲んだ。
その瞬間。
「――っ!?」
カッと目を見開き、彼女は残りを一気に飲み干した。
「……甘い! 酸味がなくて、果実の蜜だけを集めたみたい……それに冷たくて……!」
「お、おいしい?」
「美味しい! 凄く美味しいですよ! 太郎さん!」
感動のあまり、ライザは感極まって太郎にガバッと抱きついた。
「わっ! ら、ライザさん!?」
柔らかい感触と、鎧越しでも伝わる体温。そして、ふわりと漂う甘い香りが太郎を包み込む。
それはジュースの香りなのか、それともライザ自身の香りなのか。
「あ……」
数秒後、我に返ったライザは、自分の行動に気づき、弾かれたように飛び退いた。
「す、すみません! あまりの美味しさに、嬉しくてつい……!」
普段のクールな騎士の顔はどこへやら、彼女の顔は林檎のように真っ赤に染まっている。
「い、いや、いいんだ。喜んでくれて嬉しいっていうか、えっと……」
太郎も顔を赤くして、視線を泳がせた。
気まずくも、甘酸っぱい空気が二人の間に流れる。
その時だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!? 人が居ない間にイチャイチャしてるぅぅぅ!?」
背後から、地獄の底から響くような怨嗟の声が聞こえた。
振り返ると、分厚い魔導書を抱えたサリーが、般若のような形相で立っていた。
「サ、サリー! 違うの! これはっ!」
ライザが慌てて手を振って否定する。
「誤解だよサリー! ジュースを飲んでただけで……!」
「嘘つき! さっき抱き合ってたの見たもん! 私が必死に難しい魔法を覚えてきたのにぃぃ!」
サリーの杖の先が、パチパチと不穏な火花を散らし始める。
どうやら攻撃魔法の習得には成功したらしい。
「ジュース! ジュースあげるから! サリーも飲む!?」
「飲むぅ!!」
太郎は慌てて新しいコップにジュースを注ぎ、涙目のサリーに差し出した。
甘い林檎ジュースで機嫌を直してもらうまで、もうしばらく時間がかかりそうだった。
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