スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します

月神世一

文字の大きさ
12 / 46

EP 12

しおりを挟む
特訓と林檎ジュース、そして修羅場!?
​装備を整えたその足で、三人はアルクスの城壁を出てすぐの草原地帯へとやって来た。
風が心地よく吹き抜け、遠くには街道を行く馬車が見える。魔物も少ないこの場所は、初心者の訓練にはうってつけだ。
​「よし、まずは基本姿勢からです。足は肩幅に開いて……」
​ライザの指導のもと、太郎は新品の短弓を構えた。
​「あの、ライザ、太郎さん。私、ちょっと抜けます」
​準備運動をしていたサリーが、手を挙げて言った。
​「どうしたの? サリー」
​「うん。さっきのゴブリン戦で思ったの。私も戦えるようになりたいなって。だから魔法屋に行って、攻撃魔法の魔導書を買って覚えようと思って!」
​サリーはやる気に満ちた瞳で拳を握りしめた。回復魔法だけではなく、攻撃手段を持てば太郎を守れると考えたのだろう。
​「なるほど。サリーの魔力なら初級攻撃魔法は習得できるはずよ。使えるようになれば、パーティーの戦略の幅が広がるわね」
​ライザも賛同して頷いた。
​「でしょ!? じゃあ、行ってくる! 太郎さん、サボっちゃ駄目ですよ!」
​「あぁ、行ってらっしゃい」
​サリーはスカートを翻し、元気よく城門の方へと駆けていった。
​二人きりになった草原で、特訓が再開された。
​「ほら、太郎さん! 手が止まっていますよ。練習、練習!」
​「う、うん。分かったよ……!」
​太郎は弦を引き絞り、的代わりの木に向かって矢を放つ。
ヒュッ……カツン。
矢は木の幹を大きく逸れ、草むらに落ちた。
​「肘が下がっています。もっと背中の筋肉を使って引くイメージで」
​ライザは太郎の背後に回り込み、直接フォームを矯正する。彼女の手が背中や腕に触れるたび、太郎は少しドキドキしたが、ライザの指導はあくまで真剣そのものだ。
​「はいっ! ……くぅ、結構きついな……」
​慣れない筋肉を使う弓術は、見た目以上に体力を消耗する。
一時間ほど打ち込み続けただろうか。
​「はぁ、はぁ……もう駄目……腕が上がらない……」
​太郎はその場に大の字に座り込んだ。汗が滝のように流れる。
​「ふふ、最初はそんなものです。でも、筋は悪くないですよ」
​ライザも少し汗ばんでいるが、息一つ乱れていない。さすがは本職の剣士だ。
​「喉が渇いた……」
​太郎は乾いた喉を潤すため、ウィンドウを開いた。
『食品・飲料』カテゴリから、冷えた飲み物を探す。
​【 果汁100%アップルジュース(1L紙パック):100P 】
【 紙コップ(10個入り):100P 】
​「これだ……」
​太郎の手元に、水滴のついた冷たい紙パックとコップが現れる。
コップにトクトクと黄金色の液体を注ぎ、一気に煽った。
​「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁっ! 美味しいなぁ!」
​冷たさと、濃縮還元の濃厚な甘みが、疲れた体に染み渡る。生き返る心地だ。
​「た、太郎さん? それは?」
​ライザが不思議そうに紙パックを見つめている。
​「え? これは林檎ジュースだよ。ライザも飲むかい?」
​「ええっと、頂きます……」
​太郎は新しい紙コップにジュースを注ぎ、ライザに手渡した。
この世界にも果実水はあるが、絞っただけのものは酸味が強く、砂糖入りのものは高級品だ。ましてや、冷えたジュースなど魔法を使わない限りありえない。
​ライザは恐る恐る口をつけ、一口飲んだ。
その瞬間。
​「――っ!?」
​カッと目を見開き、彼女は残りを一気に飲み干した。
​「……甘い! 酸味がなくて、果実の蜜だけを集めたみたい……それに冷たくて……!」
​「お、おいしい?」
​「美味しい! 凄く美味しいですよ! 太郎さん!」
​感動のあまり、ライザは感極まって太郎にガバッと抱きついた。
​「わっ! ら、ライザさん!?」
​柔らかい感触と、鎧越しでも伝わる体温。そして、ふわりと漂う甘い香りが太郎を包み込む。
それはジュースの香りなのか、それともライザ自身の香りなのか。
​「あ……」
​数秒後、我に返ったライザは、自分の行動に気づき、弾かれたように飛び退いた。
​「す、すみません! あまりの美味しさに、嬉しくてつい……!」
​普段のクールな騎士の顔はどこへやら、彼女の顔は林檎のように真っ赤に染まっている。
​「い、いや、いいんだ。喜んでくれて嬉しいっていうか、えっと……」
​太郎も顔を赤くして、視線を泳がせた。
気まずくも、甘酸っぱい空気が二人の間に流れる。
​その時だった。
​「あ゛あ゛あ゛あ゛!? 人が居ない間にイチャイチャしてるぅぅぅ!?」
​背後から、地獄の底から響くような怨嗟の声が聞こえた。
振り返ると、分厚い魔導書を抱えたサリーが、般若のような形相で立っていた。
​「サ、サリー! 違うの! これはっ!」
​ライザが慌てて手を振って否定する。
​「誤解だよサリー! ジュースを飲んでただけで……!」
​「嘘つき! さっき抱き合ってたの見たもん! 私が必死に難しい魔法を覚えてきたのにぃぃ!」
​サリーの杖の先が、パチパチと不穏な火花を散らし始める。
どうやら攻撃魔法の習得には成功したらしい。
​「ジュース! ジュースあげるから! サリーも飲む!?」
​「飲むぅ!!」
​太郎は慌てて新しいコップにジュースを注ぎ、涙目のサリーに差し出した。
甘い林檎ジュースで機嫌を直してもらうまで、もうしばらく時間がかかりそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...