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EP 42
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頑固オヤジの襲来と、二つのプロポーズ
高台に建つマイホームでの生活は快適そのものだった。
広いキッチンでカレーを作り、庭で家庭菜園を楽しみ、夜はふかふかのベッドで眠る。
地獄のような戦いの日々が嘘のような、穏やかで幸せな日々。
そんなある日の午後。
玄関のチャイム(魔導式)が鳴った。
「はーい」
太郎が扉を開けると、そこには腕を組み、仁王立ちするヴォルフの姿があった。
「やぁ、ヴォルフさん。どうしたんですか? そんな怖い顔をして」
「……太郎さん。お邪魔させて頂きますよ」
ヴォルフの声は低く、何やらただならぬ気配だ。
太郎は彼をリビングへと通し、100円ショップの『ドリップコーヒー』を淹れて出した。
湯気の立つコーヒーを前に、ヴォルフはソファに深く沈み込んだ。
対面には太郎、そしてその左右にライザとサリーが座っている。
「それで……お話というのは?」
太郎が恐る恐る尋ねると、ヴォルフは重い口を開いた。
「太郎さん……。ワシはライザを、太郎さんの護衛としてパーティーに入れた。だが……」
ヴォルフの隻眼がギロリと光った。
「若い男女が一つ屋根の下に暮らせとは言った覚えはないぞ。ましてや、まだ嫁に出したつもりも無いんだがな!」
ドォン! とテーブルを叩く音に、三人は肩を震わせた。
同棲生活。現代日本ではともかく、この世界の、しかも堅物な父親からすれば「けしからん」事態なのは間違いない。
「お父様!」
ライザが身を乗り出す。
「えっと……それは、成り行きというか、拠点を構えるにあたって……」
太郎がしどろもどろに言い訳しようとすると、ヴォルフは鼻を鳴らした。
「言い訳は聞かん。けじめはつけてもらう。……じゃあな、そう言う事なんで、ライザ。荷物をまとめろ。帰るぞ」
ヴォルフが立ち上がり、ライザの手を引こうとした。
「嫌ですッ!!」
ライザはその手を振り払った。
「なっ……ライザ?」
「お父様……私は帰りません」
ライザは真っ直ぐに父親を見据え、そして頬を朱色に染めながら言った。
「私は……太郎さんが好きです。剣を捧げた主としてだけではありません。一人の男性として、心から慕っているのです! だから……ずっと一緒に居たいんです!」
「ラ、ライザ!?」
太郎は驚いて隣を見た。騎士として常に凛としていた彼女からの、直球の愛の告白。
「ず、ずるいライザ! 私だって!」
黙っていられなくなったサリーも立ち上がった。
「私だって! 太郎さんが好きよ! 誰よりも優しくて、頼りになって……美味しいご飯を作ってくれる太郎さんが大好きなの!」
「サリー……」
二人の少女からの真剣な想い。
それは、ゴブリン退治から始まり、魔狼、グリフィン、そしてドラゴンとの死闘を共に乗り越えてきた中で育まれた、確かな絆と愛情だった。
太郎は胸が熱くなった。
中途半端な気持ちで答えてはいけない。
「ライザ……サリー……」
太郎は二人に向き直り、しっかりと目を見て伝えた。
「僕だって、二人が好きだよ。どちらか一人なんて選べないくらい、二人とも大切なんだ」
「太郎さん……! 嬉しい!」
「ずっと一緒だよ! 太郎さん!」
二人は涙を浮かべて微笑み合った。
その様子を呆然と見ていたヴォルフは、ガクリと肩を落とし、天を仰いだ。
「はぁぁぁ……。お灸を据えようとしたら、キューピッドになったのか? ワシは……なんてこった」
娘を取り戻すつもりが、まさか公認の仲人(なこうど)のような役割を果たしてしまうとは。
ヴォルフはコーヒーを一気に飲み干し、深いため息をついた。
太郎は居住まいを正し、ヴォルフに向かって深く頭を下げた。
「ヴォルフさん。……僕は、二人と結婚します」
「……何だと?」
「この世界の法律が許すなら、二人とも幸せにします。絶対に守り抜きます」
ドラゴンスレイヤーの称号よりも重い、男としての誓い。
ヴォルフはしばらく太郎を睨みつけていたが、やがてフッと口元を緩めた。
「……良いか! よく聞け、小僧」
ヴォルフは鬼の形相で、ドスの効いた声を出した。
「もし二人を泣かせる事をしやがったら、地の果て迄追い詰めて地獄に叩き落とすからな! ギルド総出で狩り殺すぞ! 分かったな!」
それは、父親としての精一杯の強がりであり、そして許しの言葉だった。
「はい! 肝に銘じます!」
太郎は大声で返事をした。
「太郎さん!」
「大好きです、あなた」
「わっ、ちょっ!」
ヴォルフの目の前にも関わらず、サリーとライザは左右から太郎に抱きついた。
『ピカリもー! ピカリもタロウ大好きー!』
ピカリも便乗して頭の上にダイブする。
賑やかで、暖かくて、少し重たい愛の重み。
「まったく……見てられんわ」
ヴォルフは苦笑いしながら、幸せそうな娘たちの姿に目を細めるのだった。
こうして、太郎のマイホームは、正式に「愛の巣」として認められたのである。
高台に建つマイホームでの生活は快適そのものだった。
広いキッチンでカレーを作り、庭で家庭菜園を楽しみ、夜はふかふかのベッドで眠る。
地獄のような戦いの日々が嘘のような、穏やかで幸せな日々。
そんなある日の午後。
玄関のチャイム(魔導式)が鳴った。
「はーい」
太郎が扉を開けると、そこには腕を組み、仁王立ちするヴォルフの姿があった。
「やぁ、ヴォルフさん。どうしたんですか? そんな怖い顔をして」
「……太郎さん。お邪魔させて頂きますよ」
ヴォルフの声は低く、何やらただならぬ気配だ。
太郎は彼をリビングへと通し、100円ショップの『ドリップコーヒー』を淹れて出した。
湯気の立つコーヒーを前に、ヴォルフはソファに深く沈み込んだ。
対面には太郎、そしてその左右にライザとサリーが座っている。
「それで……お話というのは?」
太郎が恐る恐る尋ねると、ヴォルフは重い口を開いた。
「太郎さん……。ワシはライザを、太郎さんの護衛としてパーティーに入れた。だが……」
ヴォルフの隻眼がギロリと光った。
「若い男女が一つ屋根の下に暮らせとは言った覚えはないぞ。ましてや、まだ嫁に出したつもりも無いんだがな!」
ドォン! とテーブルを叩く音に、三人は肩を震わせた。
同棲生活。現代日本ではともかく、この世界の、しかも堅物な父親からすれば「けしからん」事態なのは間違いない。
「お父様!」
ライザが身を乗り出す。
「えっと……それは、成り行きというか、拠点を構えるにあたって……」
太郎がしどろもどろに言い訳しようとすると、ヴォルフは鼻を鳴らした。
「言い訳は聞かん。けじめはつけてもらう。……じゃあな、そう言う事なんで、ライザ。荷物をまとめろ。帰るぞ」
ヴォルフが立ち上がり、ライザの手を引こうとした。
「嫌ですッ!!」
ライザはその手を振り払った。
「なっ……ライザ?」
「お父様……私は帰りません」
ライザは真っ直ぐに父親を見据え、そして頬を朱色に染めながら言った。
「私は……太郎さんが好きです。剣を捧げた主としてだけではありません。一人の男性として、心から慕っているのです! だから……ずっと一緒に居たいんです!」
「ラ、ライザ!?」
太郎は驚いて隣を見た。騎士として常に凛としていた彼女からの、直球の愛の告白。
「ず、ずるいライザ! 私だって!」
黙っていられなくなったサリーも立ち上がった。
「私だって! 太郎さんが好きよ! 誰よりも優しくて、頼りになって……美味しいご飯を作ってくれる太郎さんが大好きなの!」
「サリー……」
二人の少女からの真剣な想い。
それは、ゴブリン退治から始まり、魔狼、グリフィン、そしてドラゴンとの死闘を共に乗り越えてきた中で育まれた、確かな絆と愛情だった。
太郎は胸が熱くなった。
中途半端な気持ちで答えてはいけない。
「ライザ……サリー……」
太郎は二人に向き直り、しっかりと目を見て伝えた。
「僕だって、二人が好きだよ。どちらか一人なんて選べないくらい、二人とも大切なんだ」
「太郎さん……! 嬉しい!」
「ずっと一緒だよ! 太郎さん!」
二人は涙を浮かべて微笑み合った。
その様子を呆然と見ていたヴォルフは、ガクリと肩を落とし、天を仰いだ。
「はぁぁぁ……。お灸を据えようとしたら、キューピッドになったのか? ワシは……なんてこった」
娘を取り戻すつもりが、まさか公認の仲人(なこうど)のような役割を果たしてしまうとは。
ヴォルフはコーヒーを一気に飲み干し、深いため息をついた。
太郎は居住まいを正し、ヴォルフに向かって深く頭を下げた。
「ヴォルフさん。……僕は、二人と結婚します」
「……何だと?」
「この世界の法律が許すなら、二人とも幸せにします。絶対に守り抜きます」
ドラゴンスレイヤーの称号よりも重い、男としての誓い。
ヴォルフはしばらく太郎を睨みつけていたが、やがてフッと口元を緩めた。
「……良いか! よく聞け、小僧」
ヴォルフは鬼の形相で、ドスの効いた声を出した。
「もし二人を泣かせる事をしやがったら、地の果て迄追い詰めて地獄に叩き落とすからな! ギルド総出で狩り殺すぞ! 分かったな!」
それは、父親としての精一杯の強がりであり、そして許しの言葉だった。
「はい! 肝に銘じます!」
太郎は大声で返事をした。
「太郎さん!」
「大好きです、あなた」
「わっ、ちょっ!」
ヴォルフの目の前にも関わらず、サリーとライザは左右から太郎に抱きついた。
『ピカリもー! ピカリもタロウ大好きー!』
ピカリも便乗して頭の上にダイブする。
賑やかで、暖かくて、少し重たい愛の重み。
「まったく……見てられんわ」
ヴォルフは苦笑いしながら、幸せそうな娘たちの姿に目を細めるのだった。
こうして、太郎のマイホームは、正式に「愛の巣」として認められたのである。
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