スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します

月神世一

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第四章 新たな秩序

EP 20

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氷の女王と、お節介な勇者
【魔族国ワイズ皇国・魔王城正門前】
紫色の空の下、荒涼とした大地にそびえ立つ漆黒の巨城。
その威圧感は、訪れる者の心を折るに十分なものだったが、今の太郎には別の意味で余裕がなかった。
「さぁ着きましたわ! 行きましょう、愛しの旦那様♡」
「う、うん……分かった。分かったから、頼むからそんなに擦り寄らないでくれ、フレア」
着地した瞬間から、フレアは太郎の腕に自分の胸を押し付け、ピッタリと密着している。
敵陣に乗り込む緊張感など微塵もない。まるでデート気分だ。
二人が巨大な門に近づくと、槍を持った屈強な魔族兵たちが立ち塞がった。
「止まれ! 何用だ!」
門番が鋭い眼光を向ける。
「ん? 人間ではないか!? 貴様ら、ここが魔王城と知っての狼藉か? 死に来たのか?」
「退きなさい」
フレアが冷たく言い放った。先程までのデレデレした表情は消え、絶対強者の威圧感が放たれる。
「雑魚と話をしていても仕方ないわ。女王ラスティアを呼んで」
「な、何だと!? 我らが女王、ラスティア様を呼び捨てにしおって……この小娘め!?」
門番たちが激昂し、殺気立つ。
騒ぎが大きくなりかけたその時、城内から威厳ある声が響いた。
「何だ? 騒がしい……」
現れたのは、魔族幹部デデリデだ。
彼は不機嫌そうに歩み出てきたが、来訪者の顔を見た瞬間、その目が驚愕に見開かれた。
「デ、デデリデ様!! 不審な輩達が来ておりまして……」
「ッ!? 貴様は……不死鳥フレア!?」
デデリデの視線が、その隣にいる平凡な青年に移る。
その顔を忘れるはずもない。魔王グレンデルを、そしてヴァルスを葬った張本人。
「まさか……勇者太郎だと!? ワイズ皇国を攻め滅ぼしに来たのか!?」
デデリデが剣を抜き、全身から殺気を噴き出す。
「迎撃せよ! こいつは危険だ!」
「いや、待ってくれ。戦いに来たのではない」
太郎は両手を挙げ、穏やかに告げた。
「ワイズ皇国に『益が有る話』があって来ただけだ。女王ラスティアにお目通り願いたい」
「ふざけるな!? 人間が我々に益だと? どうせ降伏勧告か何かだろう!」
デデリデは聞く耳を持たない。
「この場で殺してやる!! 死ねぇぇぇ!!」
デデリデが剣を振り上げた、その刹那。
「やめなさい。デデリデ」
鈴を転がすような、しかし絶対零度の響きを持つ声が空気を凍らせた。
「ラ、ラスティア様!?」
デデリデが動きを止める。
城門の奥から、優雅なドレスを纏った銀髪の美女、魔族女王ラスティアが姿を現した。
「やっと来たわね。ラスティア」
フレアが手を振る。
「えぇ。ごめんなさいね、ちょっと遅れて」
ラスティアは、まるでカフェに遅刻したOLのような口調で言った。
「ちょっと、ルチアナ(女神)と『ハンドクリーム』の件で魔導通信してたの」
「ハンドクリーム? あら、新作のやつ? 肌乗りは良いの?」
「えぇ。ルチアナが言うには、保湿成分が高くて良いって。今度貴方にも分けてあげるわ」
「あら嬉しい♡ 乾燥はお肌の大敵ですものね」
敵国の正門前で始まる、神話級存在同士の美容トーク。
殺伐とした空気が一瞬で霧散し、デデリデと兵士たちはポカンと口を開けた。
「あのう……」
太郎がおずおずと口を挟む。
「今はそんな話じゃ、ないような……」
「あら、失礼」
ラスティアは表情を引き締め(といっても興味深そうな顔で)、太郎を見た。
「ようこそ、勇者太郎殿。……フレアから話は聞いているわ。貴方の言う『ワイズ皇国に益が有る話』……興味が有ります」
ラスティアは踵を返した。
「ここでは何ですから、城で話しましょう。お茶も用意させるわ」
「ま、待って下さい! ラスティア様!」
我に返ったデデリデが叫んだ。
「人間風情を! あまつさえ魔王様を殺した怨敵を、城に入れるおつもりですか!? 正気とは思えませぬ! 断じて認められませぬ!!」
ラスティアの足が止まった。
彼女は振り返らず、ただ指先をデデリデの方へ向けた。
「…………」
シュンッ。
音もなく放たれた闇の刃が、空間を切り裂いた。
「――え?」
デデリデの右腕が、肩から滑り落ちた。
鮮血が噴き出す。
「ぎゃあああッ!? う、腕がぁぁぁ!?」
デデリデが地面を転げ回る。
ラスティアは、ゴミを見るような冷徹な瞳で見下ろした。
「デデリデ。貴方は何時から、私に意見が出来る程、偉くなったのかしら?」
「ひっ……!」
「私の決定は絶対。次に口を挟めば、その首を落とします」
「も、申し訳……ありませぬ……ラスティア様……」
デデリデは脂汗を流しながら、片手で地面に頭を擦り付けた。
魔族社会の絶対的な序列と恐怖がそこにあった。
「さぁ、行きましょう。勇者太郎」
ラスティアは何事もなかったかのように歩き出す。
だが、太郎は動かなかった。
彼は苦悶の表情でうずくまるデデリデを見つめていた。
「……フレア」
「はい? 旦那様」
「このデデリデって人を、治療してやってくれ」
「え?」
その場の全員が耳を疑った。ラスティアさえも足を止めて振り返った。
殺されかけた相手を? 敵の幹部を?
「頼む」
太郎の目は真剣だった。
「……はぁ。旦那様がそう仰るなら」
フレアは仕方なさそうにデデリデに歩み寄った。
「や、やめろおおお! 貴様らの情けなど……!」
デデリデが後ずさる。
「うるさい!」
フレアはデデリデの頭をひっぱたき、再生の炎を浴びせた。
ボォォォォ!
「あちちちち!?」
一瞬にして傷口が塞がり、切り落とされた腕が元通りに繋がる。
「な……?」
デデリデは自分の腕を呆然と見つめた。完治している。
ラスティアが、興味深そうに首を傾げた。
「貴方……何故デデリデを回復させたの?」
彼女の赤い瞳が太郎を射抜く。
「恩を売るため? それとも、デデリデを家来にしたかったの? 恐怖で支配するのではなく、恩義で縛るつもり?」
魔族の論理では、他者に情けをかける理由は「利用価値」しかない。
だが、太郎は困ったように頭をかいた。
「そんなんじゃないよ。計算とか、駆け引きとかじゃない」
太郎は真っ直ぐに答えた。
「ただ……目の前で痛がってるのを見るのが、嫌なだけだ」
「…………」
ラスティアは数秒間、沈黙した。
(理解不能。合理的でない。……でも)
彼女の唇が、微かに弧を描いた。
「不思議な人ねぇ」
ラスティアは再び歩き出した。
「ついてらっしゃい。貴方の話、じっくり聞いてあげるわ」
開かれた魔王城の門。
太郎は、サツマイモの入った袋を背負い直し、恐るべき魔女たちの巣窟へと足を踏み入れた。
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