スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します

月神世一

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第四章 新たな秩序

EP 21

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甘い焼き芋と、苦い世界の真実
【ワイズ皇国・魔王城 玉座の間】
重厚な扉が閉じられ、広い玉座の間には三人の声だけが響く。
魔族女王ラスティアは、漆黒の玉座に深く腰掛け、長い足を組み替えた。その優雅な動作一つ一つが、彼女が絶対的な支配者であることを物語っている。
「さて、勇者太郎」
ラスティアの紅い瞳が、まっすぐに太郎を射抜いた。
「貴方の言う『ワイズ皇国に益が有る話』……聞かせて貰えるかしら? 降伏勧告か、それとも領土の割譲か。貴方の後ろ盾(戦力)を考えれば、どんな無理難題でも私は検討せざるを得ないけれど」
緊張が走る。
しかし、太郎は拍子抜けするほど穏やかな顔で問い返した。
「うん。……その前に、ラスティア君って今、お腹空いてないかな?」
「……は?」
ラスティアの氷の仮面が崩れた。
国家間の、それも種族の存亡をかけた交渉の第一声がそれか?
「えっと……空いてる、かも。公務が忙しくて昼食を取る暇もなかったから」
「良かった。空腹だとイライラしちゃうからね」
太郎は背負っていた麻袋を下ろすと、中から土の付いた物体を取り出した。
そして、隣のフレアに手渡す。
「フレア、このさつまいもを温めてくれよ」
「分かりましたわ、旦那様」
フレアは芋を両手で優しく包み込んだ。
ボッ……
彼女の手のひらから、淡い紅蓮の炎が立ち上る。本来なら魔王すら焼き尽くす「不死鳥の浄化炎」を、なんと調理の火力調節だけに使用したのだ。
「出来上がりましたわ、旦那様。芯までホックホクですの」
「ありがとう」
太郎は湯気を立てるそれを、ラスティアに差し出した。
「これは?」
ラスティアが怪訝そうに眉をひそめる。見た目はただの焦げた根っこだ。
「これは『さつまいも』って言って、美味しいんだ。毒見は僕たちが済ませてるから、食べてみてよ」
「美味しいのよ、ラスティア。騙されたと思って食べてみて。美容にも良いわよ?」
フレアもウィンクして勧める。
「……分かったわ。フレアが言うなら」
ラスティアは警戒を解き、指先で芋を割った。
パカッ。
焦げ茶色の皮の中から、鮮やかな黄金色の中身が現れ、甘く芳醇な湯気が玉座の間に広がった。
「あら、綺麗な色……」
ラスティアはふぅふぅと息を吹きかけ、一口食べた。
「ん……」
口の中に広がる、ねっとりとした食感と、濃厚な甘み。
砂糖などの人工的な甘さではない、大地の優しさが凝縮された味。
荒涼とした魔族の土地では、決して味わえない豊かさだった。
「美味しい……。甘くって、温かいわ」
ラスティアの頬が、自然と緩んだ。
「良かった! 気に入ってくれて」
太郎が満面の笑みを浮かべる。
ラスティアはハッとして表情を引き締めたが、手元の焼き芋を置くことはしなかった。
「……さつまいもが美味しい事は分かったわ。それで? これが『益』なの? 本題を言って貰えるかしら?」
「うん。それが本題だよ」
太郎は真剣な眼差しになった。
「このさつまいもは、痩せた地域や乾燥した土地でも育てられる。葉っぱや茎も食べられるし、家畜の餌にもなる栄養満点なスーパーフードなんだ。……これを、ワイズ皇国にあげるよ」
「あげる?」
ラスティアが目を見開く。
「対価は? 金? 魔導書? それとも人質?」
「いらないよ。タダであげる。種芋も、育て方のノウハウも、全部」
「本当に? ……何故?」
ラスティアの声が震えた。理解できない。敵国に、食料基盤を無償提供するなど。
太郎は一歩踏み出した。
「うん。魔族が、僕達人間に牙を向けるのって、結局は『食料難』が原因じゃないかって思って……。生きるために奪うしかないなら、奪わなくても生きられるようにすればいい。その原因を排除するために、これを持ってきたんだ」
「…………」
「みんなでお腹いっぱい食べてさ、もう争うのはやめようよ。それが僕の提案だ」
太郎の言葉は、純粋な善意に満ちていた。
これを受け入れれば、魔族の民は飢えから救われる。誰もがそう思うだろう。
しかし。
ラスティアは、悲しげに、そして冷ややかに笑った。
「……嬉しい話ね。貴方は本当に優しいのね、勇者太郎」
彼女は焼き芋の残りを置き、玉座の肘掛けに頬杖をついた。
「でも……貴方は、何故、魔族と人間と獣人が争っているか、分かっていない発言ね」
「え?」
太郎の笑顔が固まる。
「三竦み(さんすくみ)って、分かるかしら?」
ラスティアは空中に指で三角形を描いた。
「人間、魔族、獣人……この三種族は、互いに覇権争いをするように『設計』されているの。増えすぎず、減りすぎもせずに、適度に殺し合って、数を調整し……世界の均衡を保っているのよ」
「均衡……?」
「そう。もし食料が行き渡り、魔族が増えすぎれば? 我々は溢れた人口を養うために、結局は他国を侵略するでしょう。逆もまた然り」
ラスティアは天井を見上げた。
そこには、見えない誰かの意志があるかのように。
「これは、創造主である女神ルチアナが決めた『ルール』なわけ。私達は、その盤上の駒に過ぎないのよ」
「そん、な……」
太郎は絶句した。
争いの原因は「空腹」だけではなかった。
この世界そのものが、「争うことで安定するように作られたシステム」だったのだ。
「貴方がくれたこの芋は、確かに美味しいわ。でも、それを広めれば……魔族は強くなりすぎ、結果としてバランスが崩れ、人間との全面戦争が早まるだけかもしれない」
ラスティアは寂しげに太郎を見た。
「それでも貴方は、この世界の理(ルール)に逆らってまで、私たちに『餌』を与えるつもり?」
ただの善意では救えない。
神が定めた残酷な秩序が、太郎の前に立ちはだかった。
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