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EP 2
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地獄の1LDKと、廊下の住人
「……というわけで。君が責任を持って監視したまえ。以上だ」
翌朝。内閣府の地下にある「超常現象対策室」にて。
上司はそう言い放つと、まるで汚物を見るような目で春太に書類を押し付け、逃げるように退室していった。
残されたのは、青田春太(25)と、昨夜パトカーを空に飛ばしたテロリスト予備軍の二人。
「監視って……俺の家に住まわせるんですか!? この人たちを!?」
「まあ、ハルタ様。これから毎日ご一緒できるなんて嬉しいですわ」
ルナが花が咲くような笑顔を見せる。
確かに可愛い。絶世の美女だ。
だが、その背後に控える執事(植物)の目が、完全に「隙あらば肥料にする」と語っている。
「おい、虫(ハルタ)。さっさと案内しろ。姫様がお疲れだ」
「む、虫……。俺、一応公務員なんだけど……」
春太の自宅は、世田谷区の端にある築40年の木造アパート「メゾン青田」だった。
間取りは1LDK。独身男が住むには十分だが、異世界の次期女王を迎えるにはあまりに狭い。
ガチャリ、と錆びついたドアを開ける。
「ど、どうぞ……汚いけど」
「お邪魔します……わあ」
ルナは部屋に入った瞬間、キョトンとして周囲を見回し、純粋な瞳で尋ねた。
「ハルタ様。ここは独房ですか?」
「我が家です!!」
「なんと……。こちらの世界の拷問部屋は、随分と生活感があるのですね」
「誰が囚人だ!」
春太が叫んでいる横で、ネギオが樹皮の指で壁をなぞる。
「フン……防壁(壁)は紙のように薄い。結界(セキュリティ)も皆無。換気扇からは油の死臭がする。まさに虫かごがお似合いだ」
「文句があるなら帰ってくれよ!」
春太はネクタイを緩め、深いため息をついた。
とにかく、これからここで共同生活だ。まずは寝る場所を決めなければならない。
「えーと、部屋割りだけど。ベッドがある寝室はルナちゃんが使っていいよ。俺はリビングのソファで寝るから」
春太なりの、精一杯のレディファーストだった。
しかし。
「――ほう? 貴様ごときが、姫様と壁一枚隔てただけの空間で眠れると?」
ネギオの低い声が響いた。
室内の温度が数度下がった気がした。
「え?」
「姫様の高貴な寝息を、貴様のような下等生物が聞くことなど許されない。貴様の寝床は、あそこだ」
ネギオが指差したのは――玄関からリビングに続く、幅90センチの冷たいフローリング(廊下)だった。
「廊下!? いやいや、ここ冬場は氷点下になるんだよ!? 風邪引くわ!」
「知ったことか。……それとも」
ギギギ、と音がした。
ネギオの右腕が変形する。
無数の蔦が絡み合い、先端には鋼鉄すら貫くであろう、巨大な「杭(パイル)」が形成された。
「ここで永遠の眠りにつくか? (チャキッ)」
「喜んで廊下を使わせていただきます!!!」
春太は即答し、クローゼットから布団を引っ張り出して廊下に敷いた。
あまりの理不尽さに涙が出る。家主なのに。ローン払ってるのに。
「まあ、ネギオ。ハルタ様にそんな場所で寝てもらうなんて申し訳ないわ」
ここで、天使(ルナ)が口を開いた。
ああ、やっぱりルナちゃんだけはまともだ、と春太が救いを求めた瞬間。
「ハルタ様が廊下なら、私も一緒に廊下で寝ます!」
「「は?」」
春太とネギオの声が重なった。
「なっ……何を仰るのですか姫様! そこはホコリとダニの養殖場ですよ!?」
「でも、恩人のハルタ様を差し置いて、私だけふかふかのベッドなんて……。さあ、ハルタ様、お布団に入りましょう。狭いですけど、くっつけば温かいですわ」
ルナは春太の万年床(せんべいぶとん)に、嬉々として潜り込もうとする。
春太の顔が一瞬で沸騰した。
美女と密着。それは男の夢だが、その背後では――。
ブォォォォン……!
ネギオのパイルバンカーが、ドリルのように高速回転を始めていた。殺意のマナが渦巻いている。
「ひ、姫様ああああ! なりません! 今すぐベッドへ! この虫が勘違いして発情したらどうするのですか! 去勢しますよ!?」
「ええー? でもぉ……」
「ルナちゃんお願いベッドに行って! 俺が死ぬ! 物理的に!」
春太は必死でルナを押し返し、寝室へと追いやった。
「ちぇっ。ハルタ様はいけずですね……。おやすみなさい」
パタン、と寝室のドアが閉まる。
残されたのは、狭い廊下に敷かれた煎餅布団と、疲れ切った公務員。
そして、仁王立ちで見下ろす植物執事。
「……おい、虫」
「は、はい……」
「姫様の寝室に一歩でも近づいてみろ。貴様を観葉植物に変えて、未来永劫窓際で光合成しかできない体にするからな」
「……はい」
ネギオはフンと鼻を鳴らし、リビングの真ん中で根を張り、直立不動のまま休眠モードに入った。
深夜2時。
玄関からの隙間風が吹きすさぶ廊下で、春太は体を丸めて震えていた。
(……なんでだ。なんで俺、自分の家でこんな目に……)
目尻に滲んだ涙を拭いながら、春太は強く誓った。
明日は絶対に、うまいものを食ってやる。経費で落としてやる。
だが彼はまだ知らなかった。
翌日、なけなしのクレジットカードが、最高級和牛へと錬金される未来を。
「……というわけで。君が責任を持って監視したまえ。以上だ」
翌朝。内閣府の地下にある「超常現象対策室」にて。
上司はそう言い放つと、まるで汚物を見るような目で春太に書類を押し付け、逃げるように退室していった。
残されたのは、青田春太(25)と、昨夜パトカーを空に飛ばしたテロリスト予備軍の二人。
「監視って……俺の家に住まわせるんですか!? この人たちを!?」
「まあ、ハルタ様。これから毎日ご一緒できるなんて嬉しいですわ」
ルナが花が咲くような笑顔を見せる。
確かに可愛い。絶世の美女だ。
だが、その背後に控える執事(植物)の目が、完全に「隙あらば肥料にする」と語っている。
「おい、虫(ハルタ)。さっさと案内しろ。姫様がお疲れだ」
「む、虫……。俺、一応公務員なんだけど……」
春太の自宅は、世田谷区の端にある築40年の木造アパート「メゾン青田」だった。
間取りは1LDK。独身男が住むには十分だが、異世界の次期女王を迎えるにはあまりに狭い。
ガチャリ、と錆びついたドアを開ける。
「ど、どうぞ……汚いけど」
「お邪魔します……わあ」
ルナは部屋に入った瞬間、キョトンとして周囲を見回し、純粋な瞳で尋ねた。
「ハルタ様。ここは独房ですか?」
「我が家です!!」
「なんと……。こちらの世界の拷問部屋は、随分と生活感があるのですね」
「誰が囚人だ!」
春太が叫んでいる横で、ネギオが樹皮の指で壁をなぞる。
「フン……防壁(壁)は紙のように薄い。結界(セキュリティ)も皆無。換気扇からは油の死臭がする。まさに虫かごがお似合いだ」
「文句があるなら帰ってくれよ!」
春太はネクタイを緩め、深いため息をついた。
とにかく、これからここで共同生活だ。まずは寝る場所を決めなければならない。
「えーと、部屋割りだけど。ベッドがある寝室はルナちゃんが使っていいよ。俺はリビングのソファで寝るから」
春太なりの、精一杯のレディファーストだった。
しかし。
「――ほう? 貴様ごときが、姫様と壁一枚隔てただけの空間で眠れると?」
ネギオの低い声が響いた。
室内の温度が数度下がった気がした。
「え?」
「姫様の高貴な寝息を、貴様のような下等生物が聞くことなど許されない。貴様の寝床は、あそこだ」
ネギオが指差したのは――玄関からリビングに続く、幅90センチの冷たいフローリング(廊下)だった。
「廊下!? いやいや、ここ冬場は氷点下になるんだよ!? 風邪引くわ!」
「知ったことか。……それとも」
ギギギ、と音がした。
ネギオの右腕が変形する。
無数の蔦が絡み合い、先端には鋼鉄すら貫くであろう、巨大な「杭(パイル)」が形成された。
「ここで永遠の眠りにつくか? (チャキッ)」
「喜んで廊下を使わせていただきます!!!」
春太は即答し、クローゼットから布団を引っ張り出して廊下に敷いた。
あまりの理不尽さに涙が出る。家主なのに。ローン払ってるのに。
「まあ、ネギオ。ハルタ様にそんな場所で寝てもらうなんて申し訳ないわ」
ここで、天使(ルナ)が口を開いた。
ああ、やっぱりルナちゃんだけはまともだ、と春太が救いを求めた瞬間。
「ハルタ様が廊下なら、私も一緒に廊下で寝ます!」
「「は?」」
春太とネギオの声が重なった。
「なっ……何を仰るのですか姫様! そこはホコリとダニの養殖場ですよ!?」
「でも、恩人のハルタ様を差し置いて、私だけふかふかのベッドなんて……。さあ、ハルタ様、お布団に入りましょう。狭いですけど、くっつけば温かいですわ」
ルナは春太の万年床(せんべいぶとん)に、嬉々として潜り込もうとする。
春太の顔が一瞬で沸騰した。
美女と密着。それは男の夢だが、その背後では――。
ブォォォォン……!
ネギオのパイルバンカーが、ドリルのように高速回転を始めていた。殺意のマナが渦巻いている。
「ひ、姫様ああああ! なりません! 今すぐベッドへ! この虫が勘違いして発情したらどうするのですか! 去勢しますよ!?」
「ええー? でもぉ……」
「ルナちゃんお願いベッドに行って! 俺が死ぬ! 物理的に!」
春太は必死でルナを押し返し、寝室へと追いやった。
「ちぇっ。ハルタ様はいけずですね……。おやすみなさい」
パタン、と寝室のドアが閉まる。
残されたのは、狭い廊下に敷かれた煎餅布団と、疲れ切った公務員。
そして、仁王立ちで見下ろす植物執事。
「……おい、虫」
「は、はい……」
「姫様の寝室に一歩でも近づいてみろ。貴様を観葉植物に変えて、未来永劫窓際で光合成しかできない体にするからな」
「……はい」
ネギオはフンと鼻を鳴らし、リビングの真ん中で根を張り、直立不動のまま休眠モードに入った。
深夜2時。
玄関からの隙間風が吹きすさぶ廊下で、春太は体を丸めて震えていた。
(……なんでだ。なんで俺、自分の家でこんな目に……)
目尻に滲んだ涙を拭いながら、春太は強く誓った。
明日は絶対に、うまいものを食ってやる。経費で落としてやる。
だが彼はまだ知らなかった。
翌日、なけなしのクレジットカードが、最高級和牛へと錬金される未来を。
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